「広告は、視覚汚染である」スイスの町が街頭広告を全面禁止に

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街中で目にする多くの広告。すべては人々の「願い」を叶えるために設置されているはずだが、それらが強迫観念のように感じられることもある。「キャリアアップのために英語を習得しなければならない」「脱毛・育毛しなければならない」「投資を始めなければならない」……視覚から得られる情報は、それを見ている時間以外にも私たちの価値観を揺さぶるようになる。

近年、欧州ではそうした広告への規制が強まっている。看板は必要以上に消費を駆り立て、また環境負荷の高い商品への欲求を高めるとして、次々に設置が禁止されているのだ。

これまでもIDEAS FOR GOODではさまざまな都市の広告規制を紹介してきた。

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今回紹介するのは、屋外の商業広告を全面的に禁止することに踏み切った、スイスの小さな町の事例だ。

商業広告の全廃を決定したのは、スイスのベルニエ市。ジュネーブからほど近い、人口3万8,000の町だ。ベルニエ市は視覚的汚染を防ぐための措置としてこの決定を下した。市民の中からも全廃に対する反対の声はあがっていたものの、署名運動で十分な数を集められず、最終的にはスイス連邦最高裁判所がこの決定を支持した​。

裁判では、商業広告の禁止が自由競争を阻害しないかどうかが、大きな論点となった。裁判所は、広告の禁止が自由競争に影響を与えるものではなく、市民には望まない広告(「視覚汚染」と表現された)を排除する権利があると判断した。また、広告が不要な消費を促進し、消費者の負担を大きくするという主張も支持されたのだ。

Image via Shutterstock

これはスイス国内の主要都市であるチューリッヒや首都のベルンにも波及する可能性があると言われている。現在、ベルンとチューリッヒも類似の規制を検討しているが、それぞれの都市でアプローチが異なる。ベルンは主に商業広告の全面禁止を目指している一方で、チューリッヒはエネルギー消費の多いデジタル広告スクリーンの規制に焦点を当てている​のだ。

さらに、この動きは視覚的汚染だけでなく、気候変動対策としての側面も持っている。ベルン市では、広告が過剰な消費を生み出し、それが気候中立目標に反するとして広告規制を進める理由となっている。

このような広告規制の動きは、国際的なトレンドの一部でもある。ブラジルのサンパウロやフランスのグルノーブルなどでも同様の規制が導入されており、公共空間を商業広告から守る動きが広がっている​。

こうした動きに対しては、もちろん広告業界へのリスクを懸念する声も上がっている。また街頭だけではなく「オンライン広告」の規制にこそ踏み込むべきだという意見があるのもたしかだ。

広告がなくなった場所は、市民にとって豊かな公共空間になるのだろうか。規制を積極的に進める都市の変化に注目だ。

【参照サイト】A Swiss Town Banned Billboards. Zurich, Bern May Soon Follow
【参照サイト】The fight against outdoor advertising: learning lessons from Geneva
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