気候変動への「適応」は諦めではない。フランスが“4℃上昇”に備える計画を発表

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猛暑や暴風雨の日が増え、春や秋の心地よい季節が短くなった。ここ数年、屋外に出るたびに「命の危険を感じる」ような日が増えてはいないだろうか。

さまざまな国や企業が脱炭素の取り組みを進め、気候テックにも期待が集まっているが、それだけでは異常気象を食い止めるには不十分だ。仮に今すぐ世界が温室効果ガスの排出をゼロにしたとしても、すでに進行している気候変動の影響を即座に止めることはできない。私たちは、待ったなしの状況に直面しているのだ。

そんな中、重要性が高まるのが「適応策」だ。近年、温室効果ガスを減らし気候変動の悪化を抑える「緩和策」に加えて、気候変動を「食い止められない影響」として捉え、今後の環境の変化にあらかじめ備える動きが加速している。

フランス政府は2025年3月10日、第三次国家気候適応計画(PNACC3)を発表し、2100年までに世界平均気温が最大4℃上昇する可能性があるシナリオを前提に、数十の対策を提示した。

「適応することは諦めることではない」──環境移行・生物多様性・森林・海洋・漁業大臣であるアニエス・パニエ・ルナシェ氏は、Xの投稿でそう強調した。フランスは、2050年までにカーボンニュートラルを目指している(※)。しかし、その目標が達成されたとしても、化石燃料の燃焼による影響は続くため、科学者らは2100年までにフランスの気温が産業革命以前と比べて平均で少なくとも4℃上昇すると予測。そのため、適応計画の策定が不可欠と判断されたのだ。

新たな適応計画では、森林、農業、山岳、海岸線といった自然環境ごとに適応策を講じている。森林では、気候変動による火災リスクの増加に対応するため、防火帯の強化や気候変動に適応した樹木の植栽が進められる。農業分野では、高温や干ばつに強い作物への転換や、新たな栽培技術の導入を支援。海岸線では、海面上昇による浸水リスクを低減するために、防潮堤の強化や湿地の保全が進められる。山岳地域では、雪不足や地すべりのリスク増大に対応し、インフラの整備や観光業の適応策が求められる予定だ。

また、自然災害リスクの評価に力を入れるため、全国規模の「自然災害リスク地図」の作成も進められている。これにより、気候変動による高リスク地域の特定が容易になり、適切な防災対策を講じることができるようになる見込みだ。

人々の生活や経済活動を守るための制度には、高リスク地域でも手頃な保険料で加入できる制度の整備や、気温上昇に適応した住宅の改修支援などがある。ルナシェ氏はEuronewsに対して「適応するということは、仕事の見直しも意味する」と述べ、熱波に晒される業種の労働時間の調整や医療監視も強化していく予定だ。

政府は一連の適応策のために約6億ユーロ(約957億円)を割り当てることを発表した。一方、フランス国内ではこれらの資金では十分ではないという批判も。気候経済研究所のレポートによると、新築建物の適応だけでも年間10~25億ユーロ、住宅の改修には44億ユーロ、農業分野には少なくとも年間15億ユーロの投資が必要とされている。現行の予算ではこの規模には到底及ばず、十分な適応策を講じるには、より大きな財政的裏付けが不可欠だ。

気候変動の影響は、すべての人に等しく及ぶわけではない。むしろ、経済的に脆弱な人々やインフラの整っていない地域ほど、その被害は深刻になると言われている。だからこそ、適応策は単なる「防御」にとどまらない。フランスが長期的な視点で気候変動への適応に取り組み、対策の方向性を示したことには大きな意義があるだろう。特定の人々に負担が集中しないように──適応は、格差や不平等の是正につながる手段でもあり、より公正で持続可能な社会を築くための重要な一歩となるはずだ。

French policies to tackle climate change

【参照サイト】Un nouveau plan national pour s’adapter au changement climatique
【参照サイト】‘Adapting is not giving up’: How France is preparing for 4C of heating by 2100
【参照サイト】France rolls out plan to prepare for 4C temperature rise by end of century
【参照サイト】Adaptation à +4 °C : le plan de la France blâmé par le Haut Conseil pour le climat
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