住宅街を歩いていると時折、敷地内の草が生い茂り、外壁が崩れかけているような空き家を見かけることがある。どこか不気味で、近寄りがたい雰囲気を感じるだろう。
そうした住宅について、近年、倒壊や不法侵入のリスクが高まっていることが問題視されている。日本国内の空き家の数および空き家率は1970年代から増加の一途をたどり(※)、周囲に悪影響をきたす恐れのある空き家を市町村が「特定空家」として指導や解体などの強制執行を認める法令が定められるなど、政府が対策に乗り出している。
この空き家と不法侵入の課題に対し、地域コミュニティを豊かにする方法で解決策を見出したのが、ロンドンの「ReSpace」だ。この組織は、荒廃した建物を不法占拠者自身が修繕する取り組みを行なっており、これまでにイベントスペースやギャラリー、スタートアップハブなど地域のための場を生み出してきた。
修繕を行うのは、地主と自治体の許可を得た物件のみ。地主からすると、自らの出費なく建物が修繕され地域の人々が利用できる場に生まれ変わらせることができるのだ。
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創設者のGee Sinha氏は、2010年にホームレス状態になり、非合法的に占拠された住居で生活し、不法占拠者の権利を求める運動に参加していたという。そんな中、2014年に受け取った一つのメッセージが彼らが変わるきっかけになったことを、Positive Newsの取材で語っている。
「ハックニー自治区評議会の知り合いから『建物を提供したら、不法占拠をやめてくれますか?』という連絡があったのです」
提供されたのは、急速に開発が進むダルストンという地域にある3階建ての空き家だった。その建物の所有者も評議会の提案に賛成し、不法占拠者による「合法的な占拠」が始まったのだ。当時、修繕費として250ポンド(約4万8,000円)が支給された。
するとその建物は、音楽や詩などコミュニティ活動で賑わい、カフェや地元スタートアップが入居する拠点となっていった。修繕には埋め立て予定だった廃棄物を活用し、これまでにガーデンセンターからアート会場まで、国内10か所の改修を行った。
評議会との契約が終わってからも、ReSpaceは財団の支援を受けて活動を継続している。現在は、ホームレス状態にある人へ短期契約での住居を提供し、彼らに修繕を手伝ってもらうのと引き換えに、就労に向けたトレーニングを行っている。
こうした取り組みは、ジェントリフィケーションを解決する取り組みとしても注目されているようだ。ジェントリフィケーションとは、都市の再開発によってエリアが“富裕化”することで、その地域で暮らしていた人々が生活拠点の移動を強いられる現象のことで、ロンドンや東京でも問題視されている。
空き家の老朽化や不法占拠、ジェントリフィケーションに共通する課題の一つは、地域をつくる主体が見えなくなっていること。その主体が自治体や企業ではなく、あらゆる立場を含んだ市民であるとき、ReSpaceのように地域のエコシステムが豊かにめぐり始めるのではないだろうか。ほかの組織は、そんな市民の一歩を後押しする環境や仕組みを整えることが大切であるはずだ。
※ 令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(速報集計)結果
【参照サイト】Value in the meantime: the social enterprise transforming London’s empty buildings|Positive News
【参照サイト】ReSpace
【参照サイト】空き家の活用や適切な管理などに向けた対策が強化。トラブルになる前に対応を!|政府広報オンライン
【参照サイト】「放置空き家」20年間で1.8倍 空き家率は最高13.8%
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