地域への“関わりしろ”を作る、沖縄のシェア型書店。古くて新しい「共同運営」からつながりのあり方を学ぶ

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「自分たちに必要なものは、自分たちの手でつくる」

近年、日本では書店の閉店が相次ぎ、調査によれば過去20年間で半減している(※)。沖縄でも、書店が次々に閉店しているのが現状だ。

そんな中、沖縄県那覇市の栄町で2024年10月、シェア型書店の「栄町共同書店」がクラウドファンディングを使って資金を集め、オープンした。書店の減少が続くなか、今こうした「地域の社会課題を解決する新たな書店」が多くの注目を集めている。

栄町共同書店が取り入れている労働者協同組合という運営形態は、明治時代の末期に沖縄で誕生した共同売店を想起させる。地域で助け合う、独特の相互扶助の組織である。沖縄の中山間・離島地域では、地域住民が費用と労力を分担して商店を運営するこの「共同売店」が広く普及した。しかし、時代の流れとともに共同売店や街の書店は次第に姿を消し、同時に地域住民のつながりも薄れているのが現状だ。

栄町共同書店は、そうした課題解決に挑戦している。なぜ今、沖縄にシェア型書店を立ち上げるのか。そして書店の「共同運営」には、どのような意味があるのか。栄町共同書店の古波藏契さんにお話を伺った。

話者プロフィール:古波藏契(こはぐら・けい)さん

Yuki Mizobuchi沖縄県浦添市出身。県内の高校を卒業後は、国際基督教大学(東京)を経て同志社大学大学院(京都)で博士号を取得。研究分野は歴史社会学(沖縄戦後史)。学術研究と並行して地域政策コンサル企業に勤務。加えて栄町共同書店を運営する労働者協同組合の代表理事務め、現在は沖縄と東京を行き来している。書籍:つながる沖縄近現代史、ポスト島ぐるみの沖縄戦後史

共同書店が「地域に生きる」を体感できる居場所と学び場に

栄町共同書店は、複数の「箱店主」が各自の書籍や商品を持ち寄るシェア型書店だ。最大の特徴は、労働者協同組合(以下、労協)という運営方法であること。労協とは、一人の代表者が資金を提供するのではなく、参加する全員が運営資金を分担し、責任を持って店を運営するものである。

「これからの時代は、仕事も地域での居場所も、自分たちに必要なものは自分たちの手で作り出すことが必要です。労協はまだ認知度の低い働き方であるため、地域の人々が、地域の自治を体感できる学びの場として、親しみやすく気軽に立ち寄れる“書店”を選びました」

現在、古波藏さんは栄町共同書店を運営する栄町労働者協同組合の代表理事を務めている。古波藏さんは、高円寺のシェア型書店「本の長屋」で箱店主を経験。地域の人が自然と本や人につながる光景を目の当たりにし、沖縄でもこのような場を開きたいと思ったという。これまで沖縄戦後史を研究する中で、沖縄と日本全体が直面する課題に着目。過去の研究を踏まえた課題解決策の一つとして、栄町共同書店プロジェクトを立ち上げた。

栄町共同書店の外観

栄町共同書店の外観(提供:栄町共同書店)

「沖縄や他の地域でも小規模商店が閉店し、地域の結びつきが衰退している。地域コミュニティを再構築するために、地域の自治を学べる場が必要だと考えました。労協の仕組みが、その一歩を踏み出すきっかけになればと思います」

古波藏さんは書店を通して、地域住民が自ら学び、関わり合い成長する大切さを伝えていきたいと話す。

衰退する「ゆいまーる」の文化に歯止めをかける

「年々、人間関係の希薄さを感じる人は増えています。これは沖縄県が定期的に実施する調査でも明らかです。特に10年ほど前に県が行った子どもの貧困実態調査が印象的でした。それは、子どもの3人に1人が貧困状態にあるという結果。その問題に気づかない地域の状況に驚いたんです」

地域社会の格差や分断は深刻だ。子どもたちの貧困問題について、近隣の地域住民は実態を知らない現状。沖縄の方言で助け合いを意味する「ゆいまーる」も、近年では大きく衰退している。

「3人に1人の子どもが貧困であるなら、誰しもにとって身近な問題であるはずです。しかし、実際は問題自体が気づかれずに放置されてきた。それほど地域社会が分断されているのかと思いました」

SNSなどの普及により、自分に似た属性の人と、狭い世界で快適に暮らせるようになった。それにより、異なる価値観や状況を持つ人々への理解や配慮が難しくなっている。結果として、現実の社会では相互理解が進まず、格差と分断が生まれているのかもしれない。そんな中で共同書店は、人が集う場として地域をつなぐ救世主になりそうだ。

子どもからお年寄り、車椅子を利用される方まで、あらゆる地域住民が気軽に立ち寄れる開かれた書店を目指す。 画:トシシ  提供:栄町共同書店

子どもからお年寄り、車椅子を利用される方まで、あらゆる地域住民が気軽に立ち寄れる開かれた書店を目指す。 (画:トシシ、提供:栄町共同書店)

地域と住民をつなぐ関わりと居場所を作る

「地方自治は民主主義の学校と言われていますが、現実には沖縄のような小さな島でさえ、十分に機能していないと感じます。もっと小さな単位での取り組みが必要だと感じますが、地域に関わる機会は少ない。中には、地域の深いつながりに疎ましさを感じる人もいるかもしれません」

子どもからお年寄り、車椅子を利用される方まで、あらゆる地域住民が気軽に立ち寄れる開かれた書店

(画:トシシ、提供:栄町共同書店)

古波藏さんは、現在の日本では、経済的利益と合理性を追求する資本主義経済によって生活は便利になった一方で、「人とのつながり」や「地域における役割」が失われつつあることを懸念している。

大型商業施設の台頭や住環境の変化、スマートフォンの普及、都市への人口集中──これらが人々のつながりを分断し、自分以外の誰かを思いやる余裕が失われている。結果として、さらに人との関わりが希薄となる悪循環が生じているのだ。

「人は本来、他者や地域に貢献したいと思うもの。しかし今、その機会が失われているのが現状です。栄町共同書店は、地域の活動に関わりたい、安心できる居場所がほしいという住民の想いに応える『関わりしろ』を提供できる場所にしたいと思っています」

ネットに情報があふれる今だからこそ、本の価値を伝えたい

「最近は、インターネット上にあふれる膨大な情報へ手軽にアクセスができます。しかし、だからこそ本は、社会の土台となる大切な存在です。先人たちの知恵や研究成果を形に残す媒体として、本の重要性は今なお揺るぎないものです」

栄町共同書店

(提供:栄町共同書店)

古波藏さんは、本は社会的に重要な存在だという。特に、古本が読み継がれることに大きな意義がある。単なる過去の本ではなく、価値がある知恵の再共有を可能にする媒体としての役割を果たすのだ。

「古本が流通することで、貴重な知識が社会に循環します。メディアで取り上げられることがなかった古本は、放置すると処分されてしまうかもしれません。そこで書店として、『今はこれがおすすめです』とお客様に伝えることも、古本の価値を伝える大切な役割です」

古波藏さんは、書店ならではの「偶発的な発見」にも期待を寄せる。インターネットのアルゴリズムではなかなか見つからない本が、たまたま書店で目に留まることがある。その偶然の出会いこそが、書店の魅力だという。

共同書店が、脱資本主義とつながりの再生を提案するロールモデルに

「人間は個体の能力ではなく、集団を形成する能力で生き延びてきた生き物なので、本能的に役立たずになることを恐れます。役割と居場所はだいたいセットになっているので、家と会社の往復をしているだけだと、たとえ住んでいる地域でも、自分の居場所だとはなかなか思えません」

2024年9月末に開催された栄町市場祭りの一場面。子どもから大人まで、栄町には今もなお、濃すぎるほどの人のつながりが生きている。 提供・撮影:栄町共同書店

2024年9月末に開催された栄町市場祭りの一場面。子どもから大人まで、栄町には今もなお、濃すぎるほどの人のつながりが生きている。(提供・撮影:栄町共同書店)

古波藏さんは、現代の資本主義社会において、地域における居場所や役割が減少傾向にあることを指摘する。人々が経済的合理性や利益追求を追求する一方で、地域社会の連帯性は衰退し、地域における居場所は減り続けてきた。

「ここ数百年の歴史で見ると、人間と資本はうまくやってきたようにも見えます。ですが、資本は無限に自己増殖を志向するシステムで、それ以外のことには無関心です。自然環境を破壊したり、つながりを希求する人間の本性を踏みにじっても、ほとんど意に介さない。ある種ウイルスのような存在ともいえるかもしれません」

この課題を解決するためには、資本主義経済を相対化し、地域住民自身が自ら必要なものを作り出すことが必要だと、古波藏さんは繰り返し訴える。

「社会生活のほとんどの領域が資本を媒介に回っているので、なかなかそれ以外の社会のあり方が想像できない。労協としての共同書店は、小さいながらも、その外を想像するきっかけになると思っています」

栄町は、令和に残る地域のつながりを体感できる貴重な場所

地域の共同性の低下という課題解決を目指し、このプロジェクトは立ち上がった。沖縄の中でも、栄町ではなくてはいけない理由とはなんだったのだろうか。

古波藏さんが沖縄で書店の立ち上げを決めた理由は、沖縄出身というだけではない。沖縄に住む人々が、もっと地域の課題に目を向けるべきだというメッセージも込められているという。

栄町市場の中には、中小100店舗以上の商店が立ち並ぶ。日中は買い物に訪れる地元住民、夜は多くの飲食客で活気にあふれるという。

栄町では不便さが人々のつながりを生み、互いに干渉せざるを得ない環境がある。市場内には多くの居酒屋や商店が立ち並ぶが、水回りがない店も多いため、組合が共同トイレを管理している。仮に自宅のトイレが共同であれば、鬱陶しいと感じるかもしれないが、栄町ではこれが当たり前。トイレさえも大切な共有財産なのだ。今では、沖縄でもこうした場所はめったにない。

「不便さ」ゆえ、栄町には人々が密に関わり合う共同性が今も残る。これが栄町独特の魅力であり、労協メンバーが伝えたい地域のつながりをリアルに体感できる場所なのだ。

一昔前にタイムスリップしたような懐かしさを感じる栄町は、「ディープな町」とも表現される。普段は感じられない「人とのつながり」を求めて、多くの人が訪れるのかもしれない。  width=

一昔前にタイムスリップしたような懐かしさを感じる栄町は、「ディープな町」とも表現される。普段は感じられない「人とのつながり」を求めて、多くの人が訪れるのかもしれない。(Photo by Shio Yamasaki)

開店に向けた作業中に、隣にいる店舗のオーナーさんが工具を貸してくれたり、時にはアイスを差し入れてくれることもある。栄町共同書店にいると、必ず誰かが声をかけてくれる。ここでは、一人になる時間がない。

また、クラウドファンディングのリターンでも連携したコーヒーショップ「potohoto」は、市場中のキーマンとつながるきっかけを作ってくれたという。書店の近くでヤクルトを売る安里さんは、作業の様子を常に見守り、困った時に助けてくれる非常に頼もしい存在。中には、厳しい言葉で率直な感想を伝えてくれる、母のような存在の人もいる。

一見、お節介と感じるような距離感で、互いを認め合い、助け合う。これが栄町だ。

運命共同体である箱店主のコミットメントと妥協しない書店づくり

シェア型書店が各地に増えてきた中、どんな特色を打ち出していくのかが経営のカギになる。

「栄町共同書店では、箱店主に対して『運命共同体』としてのコミットメントを求めています。各箱店主には、みんなで書店の完成度を高めることに貢献してもらいたい、ということをお伝えしています」

栄町共同書店

70名近くの箱店主が集う。箱店主は各自の棚で本を販売するだけでなく、店番なども担当し店舗運営に関わる。(提供:栄町共同書店)

栄町共同書店のこだわりは、ただ店主の趣味や好きな本を並べるのではなく、お客様がつい手に取りたくなるように本を陳列すること。これが書店の魅力に直結する。

栄町共同書店は、箱店主が自由に表現できる場でありつつも、各箱店主が力を合わせて一つの書店を共同運営していく。来店者にとっても、箱店主にとっても魅力的な空間となるよう、書店としての魅力の追求に妥協はしない。

地域で働く選択肢の多様化を

共同書店の運営を通じて、古波藏さんはどのような理想の未来を描いているのだろう。

「地域おこし協力隊や特定地域づくり事業協同組合(マルチワーク組合)など、地域での多様な働き方が少しずつ広がっています。しかし、こうした選択肢はまだ社会の中で“ドロップアウト”と捉えられることが多いのが現状です。若い世代が地域につながる仕事を当たり前に選べる社会になるといいですよね」

古波藏さんは、地域で働く選択肢の一つとして、労協に価値と可能性を感じている。他方、労協のようなビジネスを持続可能なものにするためには、コミュニティビジネスの知識とスキルが必要不可欠だ。収益性と公共性を両立させる上では、古波藏さんのコンサルティング経験も活かされているという。

「ビジネスとして経営モデルを作る力が非常に重要です。対価をとれるだけのニーズの見極めや、広報の感覚がないと、良いアイディアでもかたちにならない。でも、それを一人でやる必要はない。栄町共同書店のプロジェクトもそうでしたが、一緒にやれる仲間を集めていけばいいと思います」

今後、労協という働き方が身近になることで、多くの若者が地域活動やビジネスに挑戦し、地域や人とのつながりを実感できる未来が広がることを、古波蔵さんは期待している。

編集後記

「早く行きたければ一人で行け。遠くへ行きたければみんなで行け」という、アフリカの有名なことわざがある。いつの時代も人間は、成長と拡大に向けて一直線に走り抜けてきた。

今回の取材を通じて、利益や成長、利便性を追求してきた資本主義経済の裏側で、いかに地域や人のつながりが薄れてきたのか、改めて代償の大きさに気付かされた。

沖縄・栄町に来ると、一人で生き急ぐよりも、「地域で手を取り合って生きる心の豊かさ」を感じられる。ぜひ沖縄へ訪れる際には、栄町に足を運び、市場に根付く人のつながりを体感してほしい。

日本の書店数 | 出版科学研究所オンライン
【参照サイト】那覇・栄町市場に「共同書店」を作ります!——古くて新しい書店のかたちを目指して(2024年10月12日までクラファン実施中)
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Edited by Erika Tomiyama

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