キーワードは「身体性」。半年間世界を旅して見えてきた、これからの豊かさのヒント【イベントレポート】

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グローバル経済の拡張、インターネットやSNSの普及を通じ、世界の課題は共通性を帯びてきていることはこの旅の早々に実感したことでした。ならば私たちはどのような視点やどのような考え方を持ちこの世界を豊かにサバイブしていくことができるのか。

様々な文化背景を持つ国々での暮らしを通じて見えてきたことは「課題を解決するため」というコンテクストから脱却するということだと思いました。

これは、岩手県陸前高田市をフィールドに「人口が減るからこそ豊かになるまちづくり・ひとづくり・社会づくり」を掲げ活動するNPO法人SET(以下、SET)の理事である岡田勝太さんの言葉である。

▶︎【東北のいま#3】キャンパスは「まち全体」人口減少がすすむ陸前高田市でデンマーク流の学びを実践する学校)

岡田さんは2024年5月から半年間、家族と共に世界一周の旅に出ていた。旅の最初の目的地はアメリカ・ポートランドで、続いてメキシコのオアハカ。その後、ヨーロッパ大陸へ渡り、イタリア、トルコ、デンマークを巡り、アイスランドにも滞在。旅の締めくくりにはアジアへ向かい、ベトナムを訪れた。

旅のキーワードは、「Humanity」「身体性」「グローバル化する世界での地域のあり方」「家族観」。地元の生活や文化に深く触れることを重視し、その土地の人々の暮らしに溶け込みながら暮らすように旅をした岡田さん。旅の最中には、岡田さんがそれぞれの土地で感じたことを伝えるイベント「地方と世界の両軸から考える、私たちがつくる これからのゆたかさ とは。 – Think Globally Act Locally, Think Locally Act Globally –」が、全6回で開催された。

本記事では、岡田さんの旅の集大成として開催されたイベント最終回の様子をお届けする。陸前高田での地域活動に長年取り組み、ローカルな視点を育んできた岡田さんが、世界を巡る旅を通して得た気づきとは。私たちはこの世界でどう在るべきか。ゲストであるSETの理事でもあり、株式会社CRAZY 執行役員の吉田勇佑さんと、IDEAS FOR GOODを運営する株式会社ハーチ代表取締役の加藤佑との対話から見えてきたキーワードと共に紐解いていく。岡田さんと一緒に旅をしているような気持ちで読んでいただけたら幸いだ。

【旅を振り返って】グローバルとローカルの課題の近接化

イベント冒頭では、岡田さんが半年間でどのような旅をしてきたのか。その概要を振り返りながら、訪れた国々で得られたキーワードや印象的な出来事が一つひとつ共有された。

登壇者プロフィール:岡田 勝太(おかだ・しょうた)

Jack MinchellaNPO法人SET 理事。Change Maker Study Program事業の立ち上げ、日本版フォルケホイスコーレ「Change Makers’ College」の発起人として活動。フォルケホイスコーレ協会主催People’s Future’s Labアジアパートナー選出。

世界一住みたい街、ポートランドの今

日本でも「まちづくりのベンチマーク」として知られるアメリカ・ポートランド。その街で今、どのような変化が起きているのか。岡田さんの旅を通して見えたのは、「ポートランド的気質(文化)」の喪失だったという。

「コロナ禍の影響もあり、これまで文化が強かった中心エリアでは多くのコミュニティが解体していました。同時に、ポートランドが世界中から注目される都市となり、多くの企業が参入するようになった結果、コンドミニアムのような建物が増えていきました。新しく移住してきた人々は、ポートランドの文化に乗っかるだけという状態も多く、結果として街全体がちぐはぐなコミュニティになっているという話も多く聞きました」

そんな課題がありながらも、岡田さんが注目したのは、ポートランド特有の「ローコンテクスト」のコミュニケーションだ。多民族・多人種が集まるアメリカでは、高度に文脈依存した「ハイコンテクスト」のコミュニケーションでは通じにくいことが多い。そのため、ポートランドではあえてローコンテクストのコミュニケーションを重視することで、多様性を受け入れながら地域コミュニケーションを成立させていたという。

たとえば、街のあちこちで行われているコミュニティ活動は、学びの場というよりは体験型の施設を基盤とした設計がなされていることが特徴的。街の自治活動でも「公共施設をみんなでペインティングし直そう」といった体験型の取り組みを通じて人を集める工夫がされていた。こうした活動は、ただの作業や修繕にとどまらず、参加者同士が自然にコミュニケーションを取る場ともなり、地域全体のつながりを再構築する機能を果たしているといえる。

ポートランドに数多く点在する、クリエイティブな家

ポートランドに数多く点在する、クリエイティブな家 Photo by 岡田さん

人々の生活を支えるメキシコ・オアハカの共同体(コミュニティ)

岡田さんがメキシコのオアハカを訪れて感じたのは、日本との意外な共通点だった。それは、農村部からの若者の流出や、自然信仰をはじめとした土着信仰の強さだ。

オアハカでは、コミュニティが単なる心のつながりを超え、地域全体の生活を支える「インフラ」として機能している点が特徴的。具体的には、仕事や住居、食べ物の共有が、コミュニティを基盤とした生活インフラの一部として統合されており、この仕組みによって、地域全体がまるで一つの有機体のように連携している様子が見受けられたという。

また、アートの存在感も非常に強い。オアハカには、自分たちの内側にあるエネルギーや感情をアートによって昇華させ、それを社会的な活動へとつなげている団体が多く存在しているという。

欲望が子どもたちを苦しめている」と言うことが書かれている。

メキシコ・オアハカの街に点在するアート。「欲望が子どもたちを苦しめている」ということが描かれている。Photo by 岡田さん

さらに、岡田さんが挙げたキーワードが「オートノミー(自治性)」だ。オアハカのコミュニティでは、単なるつながりや支援にとどまらず、自らの力で運営を行い、意思決定をするという自治性の感覚が強く根付いている。これは、コミュニティを運営する一つの理念として、独自性や主体性を重視する文化が背景にあると考えられる。

幸福な国デンマークで、若者のウェルビーイングが低下。重要なのは「身体性」

そしてデンマークの前に訪れたポーランドで岡田さんが目の当たりにしたのは、「学びへの効率化の追求」と「アイデンティティの喪失」という現象だった。たとえば、本来であれば農業実習などで1・2年かけてじっくり学ぶべき内容が、若者の間で「1週間で学べるプログラムはないか?」という形で効率化が進んでいることが問題視されていた。短期的な成果を求めるこの傾向は、学びの本質やプロセスを軽視し、長期的な成長の機会を奪っていると指摘されていたという。

その後のデンマークでは、アイデンティティの喪失が深刻な課題として議論されていた。これまでの社会では、経済成長が成功の象徴として機能していたが、その概念が希薄になった現代では、「私たちはどのように自分たちのアイデンティティを再構築すればよいのか?」という問いが浮かび上がっている。

これらの現象を岡田さんは「絶望感」と表現する。その背景には、グローバルな課題のスケールの大きさがある。気候変動や社会的不平等といった問題はあまりにも複雑で、多くの人が「私たちには何もできない」と感じるようになっている。この感覚こそが、岡田さんにとって、民主主義的なプロセスの停滞を招く原因だと映った。

「デンマークのような民主主義国では、絶望感を課題として認識することがしっくりきました。グローバルな課題が大きすぎて、『私たちには一体何ができるのか?』という気持ちが広がっています。それは民主的な在り方を喪失させる原因でもあります。絶望感は、人々が連帯して物事を進める力を後退させ、アイデンティティの喪失や民主主義そのものの危機を引き起こしているのです。この感覚は、僕がSETでの活動を通じてもよく感じていたものでした。『どうせ無理だ』という諦め感は、未来の可能性を否定することにもなりかねません」

さらに岡田さんは、合理性や情報だけに基づく世界の捉え方を超え、感情や物語、直感的な概念を育むことの重要性を強調する。これからの時代においては「良質な体験」が不可欠であり、それが共有されることで対話の質が向上し、共有感覚や連帯感が広がるということだった。

「デモクラシーの前提には良質な体験があります。対話が大事だと日本でも言われていますが、その前に体験がなければ、対話は深まらない。体験が共有されることで、対話の質が上がり、結果的に連帯できる感覚が広がるのです。逆に、対話だけを重んじてしまうと、それぞれの考えや価値観の違いだけが浮き彫りになり、分断が加速してしまうことも感じました。『あの人とは違う』『あの集団とは違う』という意識が、さらなる絶望感や諦めを生むことになります」

そんな中で、岡田さんが今後、重要なキーワードになると考えているのが「身体性」である。身体性とは、単なる思考や情報交換を超え、体験を通じて深く結びつく感覚だ。

「身体性というのは、ローカルでもグローバルでも、これからの社会を支える重要な要素になると思います。良質な体験を通じて人と人がつながることで、絶望感を乗り越えることができるのではないでしょうか」

トルコの田舎で暮らしたリアル。必要なのは「ヒューマンスケール」の視点

岡田さんがトルコで特に印象深く感じたキーワードとして挙げていたのは「ヒューマンスケール」。農村の生活に触れる中で、自分たちの日常生活の範囲内で処理できるスケールでの活動を指し、大規模なプロジェクトに対する疑問が生まれてきたという。「自分たちの生活の中で生まれたものが、自分たちの生活の循環の中で回収できる、そんなスケールで生きていくことの重要性を感じました」と、岡田さん。

トルコのTahtacıörencik(タフタツォレンチック村)での風景

トルコのTahtacıörencik(タフタツォレンチック村)での風景

また、トルコでは英語がほとんど通じず、異なる民族が共存する環境で「言語の限界」と「身体記憶の可能性」というテーマが浮かび上がったという。

「言語は世界を分け隔てる一方で、身体記憶や非言語的な体験はむしろ世界を包摂し、つなげる力を持つと感じました。言語が分かれば分かるほど、違いが明確化していく一方で、言葉が通じないからこそ身体的な交流の可能性に気付かされました」

さらにトルコでは、北側のロシア・ウクライナ情勢や中東の不安定な状況が影響を与え、トルコの外務省からも多くの警告が届くほどだった。その中で、世界各地で高まる戦争リスクについても強く感じたという。

「自分らしく生きることやサステナブルな社会を作ることを考える中で、最終的に避けなければならないリスクは戦争だと感じました。常にそのリスクがある世界で、草の根や、自治体や企業などが世界を混じ合わせた交流だったり、関係を築いたりすることはできないのか。それらにアートや身体知の力を使えないかといった疑問も浮かびました」

トルコでの体験を通じて、岡田さんは気候変動、食糧危機、コミュニティの衰退、そしてアイデンティティの喪失といったグローバルな課題とローカルな課題のつながりを改めて実感した。

「資本主義的人間観がさらに状況を悪化させると感じました。結局、社会課題を解決していくプロセスにおいて人をリソースとして捉えすぎていることによって、リソースとして認識されないと人として扱われないという体験が増え、それが絶望感や諦め、他者への信頼を育む余地を失わせているように感じました」

【オープニングダイアログ】旅で感じた、「絶望」と「希望」

「絶望感を抱いて生きてる人と、希望を抱いて生きてる人がいました」

旅のすべてを一通り振り返った後に、岡田さんが口にしたのはそんな言葉だった。オープニングダイアログでは、岡田さんの学びを深めていく形でゲストとの話が進められた。

登壇者プロフィール:吉田 勇佑(よしだ・ゆうすけ)

Jack Minchella学生起業を経て、ITベンチャー企業であるVOYAGE GROUPに入社。ネット広告営業を経験後、グループ会社のサポーターズにて就活支援事業の創業期に携わる。2014年、CRAZY WEDDINGで結婚式を挙げ、この事業や組織が、人生や家族に与える影響に可能性を感じ、CRAZYに参画。人事責任者として、100名の社員をゼロ円で採用。社内カルチャーの醸成や人事制度策定にも従事。2019年2月には、IWAI OMOTESANDOの支配人として開業に携わり、社内アワードにてベストリーダー賞を受賞。2020年3月、同社執行役員に就任し、婚礼事業全体の責任者へ。2023年より、CRAZYのさらなる事業成長を見据え、事業開発室及び採用部門の担当役員を兼任。

登壇者プロフィール:加藤 佑(かとう・ゆう)

Jack Minchella株式会社ハーチ代表取締役。東京大学教育学部卒業後、2007年4月に株式会社リクルートエージェント(現リクルート)に入社、消費財・サービス業界の中途採用支援に従事。2009年にリア株式会社に取締役として入社し、翌年に代表取締役に就任。WEBメディア事業に携わる。2013年に株式会社ニューラルを共同創業し、サステナビリティ専門メディアの立上げに従事。2015年12月にハーチ株式会社を創業。英国ケンブリッジ大学サステナビリティ・リーダーシップ研究所Sustainable marketing, media and creative修了。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー資格保持者。

岡田さんは、「絶望感を抱えて生きている人が、必ずしも前向きでないわけではない」と語る。むしろ、社会課題に敏感で、「何とか解決しなければ」という強い想いを持っていることが多かったという。それに対して、株式会社CRAZYの吉田勇佑さんの問いかけから対話が始まった。

吉田さん「どういう人が希望側に立ってて、どういう人が絶望側に立っているのだろう。日本は不安社会だなと感じることもあるんですが、岡田くんは絶望をどう捉えていますか?」

岡田さん「希望側に立っている人は、願いがある人だと感じました。感情のエネルギーとしては『優しさ』のような。不安社会と絶望感は近いなと思いつつ、今までは絶望感というのも、自分の身の回りにある課題が解決していけば、良くなっていった。でも今は色々な情報が誰でも手に入るようになった社会。課題が戦争リスクや気候変動の話などの大きすぎる問題に触れて、私たちは何もできないという気持ちになってしまう。僕は、これを絶望感として捉えました。会社や活動仲間との関係の中でも『これを言っても仕方ない』と思ってしまうということも、絶望感の広まる要因になっていると思っています」

吉田さん「願いから動いたものの、硬直化した強すぎる使命感は反対意見を生むこともありますよね。今、絶望の話を聞いて一つ思い出した景色があります。東日本大震災の直後にSETを立ち上げたとき、人生初めて打ちのめされた瞬間がありました。現地に行って、来たはいいけど、何もできないということを感じて。あのときは確かに絶望感もあったのですが、多分自分にとってはそこにいた仲間の存在に救われながら乗り越えていました。絶望に立たされそうなときに、どういう関係性の渦の中にいるか、どんな景色を見るかということは大事だなと思い出しました」

岡田さん「旅の中でも、願いを持っていた人たちは、豊かな人間関係や自然関係の中にいたような気がするというのを、吉田さんの話を聞いて思い出しました」

希望の源泉はどこにあるのか、絶望に飲み込まれないために私たちはどうあるべきなのか。岡田さんと吉田さんの対話から、現代社会に生きる私たちにとって重要な視点が提供された。

これからの豊かさに必要なのは、人々が外発的な要因から解放されていくこと

「絶望と希望は本当に紙一重」。ハーチ株式会社の加藤佑からは、吉田さんと岡田さんの対話を紐解きながら、これからの豊かさを探る中での大きな投げかけがあった。

加藤さん「今まで人間が自然をコントロールできる感覚があったけれど、気候の変化もあり、自然はコントロールができない認識が生まれてきているように思います。そう考えると、コントロールできるものに対して願いは生まれないですよね。コントロールできないことの絶望と、コントロールできないからこそ出てくる願いというものが、本当に紙一重だなと。そうした中で、身体性や、土着回帰というのが、今世界的にサステナビリティの文脈で起こっている。岡田くんの話の中で資本主義的な部分の難しさの話も出てきましたが、今後、何か違うものが必要なのは、みんなわかっているんだけど、それがどういう形なのかを探している。それは新しい資本主義なのか……もしかしたら新しい社会主義なのかもしれない。岡田くんは、どんな次の世界観を感じましたか?

加えて、みんなが今、欧米も含め脱西洋中心的な価値観に寄ってきていて、同質性を感じています。一方でそれに追いついてきていないものとの分断もある。改めてこれからの豊かさを考える上で、これまでの豊かさや、苦しくなかったシステムの良さも置き去りにしてはいけないんじゃないかと思うんです」

岡田さん「まず、次の世界観の芽生えとして感じたのは、課題を解決しようとする姿勢や、外部の要因に動機づけられて行動することだけではなく、それを超えた形で物事を作り出す必要があるということでした。もちろん、自分自身の内発的な願いによって課題に向き合うのは良いことです。しかし、『世界がこういう状況だからこうするべきだ』という外部から与えられたナラティブに基づいた動機づけでは、これまではそれでも一定の幸福感や豊かな生活を得ることができた一方で、これからはその枠組みを見直す必要があると感じました。重要なのは、人々が外発的な要因から解放されていくこと。個々人の中で自然に芽生えたプロセスが社会の中で実装され、支えられる仕組みが求められていると思います。

言語的な限界もありましたが、トルコ、ベトナム、メキシコでは、人々が全く違う文脈で生きている感覚を持ちました。欧米では人々が努めて言語化をしようとする傾向がある一方で、トルコやメキシコでは人々が会話自体よりも身体性を大切にしているのではないかと感じさせられる経験をしました。説明するよりも、体験した方が早い、というスタンスだったのが印象的でしたね」

左:吉田さん 右:加藤さん

「人が人として扱われる体験」をどれだけ増やせるか

そのまま議論は、資本主義的な人間観の話に向かっていく。

吉田さん「資本主義的な人間観の話も興味深かった。資本主義そのものを否定するつもりはないですが、人をリソースとして捉えすぎる世界観から脱却していくには、何が必要なんでしょうか。そのコミュニティが会社であれ、町であれ、家族であれ、やっぱりそういう人間観を持ってるリーダーが、どれだけちゃんといるかという話もあるかもしれません。世界を見てきた中でそういう仕組みで運営されてる場所やヒントがあったら聞いてみたいです」

岡田さん「資本主義的な人の捉え方に関しては、旅を通じて終始感じる部分がありました。たとえば人口過密エリアに行くと、いきなり人として認識されなくなる。一方で、農村部に行くと、初対面でも『どこから来たの?』と自然に会話が生まれ、人として扱われる感覚がありました。場所によって違いが明確で、例えばデンマークは比較的ヒューマニティを前提にした社会だと感じましたね。管理職やリーダーの役割として人間的な関係性を保つことが明確に組み込まれている印象を受けました。一方で、トルコなどでは家族経営の文化が強く、家族や親族という小さな内的集団でビジネスが営まれている印象がありました」

吉田さん「人を人として扱うことを、ど真剣にやりたいというのは、僕も自分の事業の中で願っていることです。たとえば式場に参加したゲストを、お客様としてでなく、一人の人間として見る。どんな背景を持った人がその席に座って、どうその人と繋がっていくか。最後のKPIは『その人と肩を組んで乾杯できているか』というものです。その結果、口コミが広がってマーケティング的リターンもある一方で、チャレンジングでリスクもある。でもそこに挑む中で、僕らは人を一人の人間として扱う体験を届けていくことは世界平和にもつながる重要なアクションであると思っているし、それを大事にできる組織運営をしていきたいと思ってるんですよね」

岡田さん「『人が人として扱われる体験』というのは、気候変動やあらゆる環境問題を解決していくプロセスにおいても大事。1日の体験の中で、いかにそうした時間を積み重ねているかがすごく重要ですよね」

加藤さん「やっぱり人間って、いいところや綺麗なところだけじゃないと思うんですよね。ずるいところや醜いところ、ダメなところもいっぱいある。そのむき出しの人間というものが集まったとき、自分の人間らしさと他人の人間らしさがぶつかるときもありますよね。それって戦争の根源的な原因でもあると思っていて。違うナラティブを生きている人同士が出会ったとき、理解できなくて不安だから攻撃してしまう。そうなったとき、解決は無理でも一種の『休戦』のような……終戦はしないが休みはするようなこともあるのかなと。人間らしさっていうのは、戦ってしまう人間や弱い人間、効率を求めてしまう人間とか、それらすべてを含めて人間らしさ。それらを失わずにも、どうしたらみんなで仲良くやっていけるのかを、改めて考えたいですね」

編集後記

岡田さんの旅が示唆するのは、私たちがこれからどのように世界を捉え、関わり合っていくべきかという問いそのものだったように思う。「課題解決」の枠組みを超え、内発的な動機から生まれるプロセスを大切にしながら、絶望を乗り越え希望を育むための道筋を探ること。そのヒントを、この対話から受け取った。

「オートノミー(自治性)」「民主主義」「ヒューマンスケール」「身体性」──言語の枠組みを超え、体験を通じて深く結びつく感覚は、分断された世界を再びつなぐ力を持っているかもしれない。

岡田さんの旅の記録は、岡田さんのブログにも綴られている。興味のある方は、のぞいてみてはいかがだろうか。

【参照サイト】NPO法人SET
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