宣伝するなら、市民のためになることを。NYCの広告乗っ取りキャンペーン

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最近「広告」の役割を、考えさせられることが増えた。

動画やSNS、インターネットでコンテンツを楽しむためには、多くの広告を目にしなければならない。外に出ても、街中の看板や中吊り広告、サイネージ広告と、私たちの生活は広告で溢れている。

企業にとって広告は「金のなる木」とも言える。しかし、バスや電車、自動販売機、果てはエスカレーターの手すりまで広告で覆われているのを見ると、時には窮屈に感じることがある。私たちの街は、想像以上に「商品化」されているのだ。

こうした懸念に呼応する形で、欧州を中心に広告廃止の動きが広がっている。「過剰な広告は、人々の欲望をあおり、心身に環境に負荷をかけるのではないか」という批判が集まっているのだ。イギリスの地下鉄はジャンクフードの広告を締め出し、フランスではファストファッションの広告規制が提案されている。

そんな中、ニューヨークで、非営利の法律サービスを提供する団体「The Legal Aid Society(法律扶助協会)」が、社会的に排除されてきた黒人系やラテン系の人々のコミュニティに焦点を当てた広告キャンペーンを打ち出し、話題を呼んでいる。

 

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彼らが“広告”で伝えているのは、市民が受けられるさまざまな支援サービスやリソースに関する情報だ。例えば、若者支援のための教育やカウンセリングサービス、銃暴力を減らすための情報提供や教育プログラム、コミュニティで活動する人々への助成金やサポート情報、さらには仕事探しのためのスーツの無料提供などがある。

広告が設置されたのは、ニューヨーク市民が「治安が悪い」と感じている地域の地下鉄駅。駅を2週間にわたってデジタル広告でジャックし、300の小商店の窓にビルボードを設置、157のデジタルキオスクで広告を流した。また、インフルエンサーと協力し、SNSでもラテン系・黒人系の若者や労働者にターゲットを絞った情報発信が行われた。

このようにターゲットを絞った大々的なキャンペーンは、広告の強みを最大限に活かしたものだ。これまで情報が届きにくかった層に、必要な情報が的確に伝わるという結果を生んでいる。

このキャンペーンを通じて、広告はまちづくりの一翼を担う。広告が人々とモノやサービスを結びつけ、地域の潜在能力を引き上げるだけでなく、社会的なメッセージを広め、支援を必要とする人々を可視化することで、格差解消に向けた機運を高めることができるのだ。

広告には、大きな可能性がある。それは街を商品化するのではなく、社会的支援へと繋げる力だ。ニューヨークのこの試みは、広告の未来を新たに切り拓くかもしれない。

【参照サイト】The Legal Aid Society公式ホームページ
【参照サイト】Legal Aid Society launches Do NYC Justice campaign
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Edited by Erika Tomiyama

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