磁石でひっつく杖が、両手を使えない不便さを解消

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店で会計をするとき、駅で鞄から通勤パスを出すとき、コーヒーを片手に街を歩きながらスマホで行先を確認したいとき……。普段から杖を使用する人は、これらの場面で咄嗟に両手を使って対応することが難しい。立て掛けても杖が地面に滑り落ちることもあり、支えが足りない状態でそれを拾い上げることは身体の負担となるだろう。些細な場面に潜む負荷が、日常的なストレスにも繋がっている。

イギリスのノッティンガム・トレント大学に通うショーン・ガイアットさんは、このような不便さを改善する新たな杖を開発した。「Ida」と名づけられたその杖は磁石を使って使用者の腰などに固定でき、利用者は杖が倒れる心配をすることなく自由に両手を使うことができる。

この杖の開発にあたり、ショーンさんはパートナーであるオーラ・ハンブルトンさんの生活に身近に触れる中で着想を得たという。多発性硬化症のあるオーラさんは、普段から杖を使用することが多いが、従来の杖が彼女の暮らしの場面ごとのニーズを満たしていない状況を目の当たりにしていた。

「外出先では会計時などに杖が邪魔になることがあり、役立つというよりも不便さを与えていました。そこで、僕は杖の基本的な機能は変えず、追加的な機能をデザインして障害のある人の生活にうまく適応できるような杖をつくりたかったのです」

Idaには画期的な2つの特徴がある。1つ目は磁石を服に取り付け、杖を身体に引っ付けることで両手を自由にすることができること。服に装着する磁石はポケットやベルトなどにつけられるクリップつきのものと、磁石とカバーで服を挟みこみ装着するものの2種類ある。2つ目は杖の持ち手と、地面と接する底の部分のオプションが複数あることだ。身体のバランスのとりやすさや体重のかけやすさなど、用途に合わせて持ち手と底の部分を付け替えることができる。

ショーンさんはこの杖の開発を、様々な障害のある15名とともに進めてきた。設計段階にはユーザーにとって最良のデザインを目指したインクルーシブデザインの手法を用いている。15名へのインタビューの中で集めた意見を、3Dプリンターで実際の製品の形にプロトタイプし、改善点のヒアリングを繰り返して、Idaは生まれた。

Idaは綿密な調査と開発プロセスを経て実現した製品であり、その過程を想像すると多くの人にとって途方もなく難しいものに感じることだろう。ただ彼の杖の始まりは、パートナーが感じる不便さを解消するにはどうすればよいかという身近な問題意識だった。

日常にストレスを感じることなく、快適に暮らしたい。誰にとっても当たり前であるべきことが当たり前ではない人がいる。根本的な課題の解決は難しいかもしれないが、視点を変えると快適な暮らしへの願いを現実にするきっかけは案外普段の生活の中に潜んでいるのかもしれない。

【参照サイト】Walking stick which could ‘change the lives’ of disabled people
【参照サイト】IDA – A modular, magnetic walking aid which adapts to the needs of users with mobility disabilities
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Edited by Natsuki

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