“言葉をなくした人たち”の物語を伝えるため、作品をつくり続けるファッションブランドがある。ウガンダ発の「SEAMLINE ATELIER(シームライン アトリエ)」だ。
ウガンダのさまざまな社会問題を人々に提示し、声なき人の声を届けるための武器として、ファッションを制作するSEAMLINE ATELIER。
“言葉をなくした人たち”とは、どのような人たちなのか。そうした人々の声を、ファッションを通してどのように伝えようとしているのか。SEAMLINE ATELIER創設者のEria Tamale氏とEdward Muyizi氏を取材した。
ファッションを通して、社会で踏ん張って生きる人々の物語を伝えたい
彼らがブランドを始めるきっかけとなったのは、ファッション専門学校に通っていたときだった。Eria氏とEdward氏は、ウガンダで最も有名なファッションの専門学校であるRecords Fashion Schoolを卒業。同校は、ウガンダで現地人に愛される個性的な作品をつくるファッションデザイナーから、世界のファッション業界で活躍するファッションデザイナーまで、幅広い人材を輩出している。
学生時代は、さまざまな社会問題やトピックをテーマに作品作りに励んでいた2人。
Eria氏「ただ衣服を製作することがファッションなのではなく、文化や歴史、自然、信仰、人生といった、あらゆるものからインスピレーションを得ることができるのがファッションなのだと実感していました」
Edward氏「ファッション業界に新たなインパクトを残したい。そしてファッションを通して、社会で踏ん張って生きる人々の物語を伝えたいんです」
ファッションを通して社会問題の解決に携わるという共通の大きなビジョンを掲げていた2人は、コンペティションを通して意気投合し、共同でのブランド設立に至ったと言う。
制服をアップサイクルして、アート作品に。東アフリカの雇用問題を伝える『SUUBI COLLECTION』
彼らの代表作は『SUUBI COLLECTION』だ。ケニアで開催された、サステナビリティがテーマのファッションショーで披露された。制服をベースにさまざまな要素を融合させた、シックなデザインが印象的な作品である。
これらは、セカンドハンドの制服をアップサイクルで生まれ変わらせた作品だ。その背景には、東アフリカの社会問題で苦しんできた一人の男性の想いがある。彼の名前は、Suubi Solomon氏。
Edward氏「Suubiは私たちの友人で、大学進学率がごく僅かなウガンダで大学を卒業したエリートです。エンジニアを目指して学業に励んでいましたが、卒業後に彼を苦しめたのは『雇用不足』という悲しい現実でした。自分のスキルを活かす仕事がなく、家族を支えることもできない。そんなSuubiの苦しい日々と、高い教育を受けても職に就くことができない東アフリカの現状を訴えるために誕生したコレクションです」
ごみとして廃棄された制服が華麗なアート作品に生まれ変わる様子には、「教育を受けた人が輝く道があるはず」というメッセージを込めたという。
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アフリカに根付く「呪術儀式による生贄」にNO。犠牲者をファッションで表現したコレクション
続いてSEAMLINE ATELIERが注目したのは、呪術儀式における「生贄」の問題だ。アフリカでは、キリスト教やイスラム教とともに、古くから続く伝統的な信仰である呪術が多くの人々に信仰されている。呪術は、キリスト教やイスラム教が広まる以前から、日常生活と密接に結びつき、さまざまな問題解決の手段として機能してきた。しかし、呪術の一部の儀式において、暴力的な行為や犠牲者が生じる問題が深刻化している。
Edward氏「たとえば、『がんになった』『夫婦関係が良くない』といった問題を黒魔術のせいだと信じる人は今でも多いのです。そして、そうした黒魔術を取り除ける呪術師が崇拝されています。
呪術師は黒魔術を取り除くための儀式を行いますが、その儀式は生贄を必要とし、顧客が呪術師に殺人料を払います。生贄とされる対象は、子どもやアルビノが多く、儀式の過程で命を奪われる残虐な行為が行われています」
実際に、筆者の住むウガンダでも、呪術の儀式を原因とした子どもの誘拐と殺人事件が何度も起きている(※)。
彼らはこの現実を世界に伝えるため、「生贄にされた子ども」「サバイバー」「子どもをなくした母親」という三つの立場に焦点を当てた。
生贄にされた子どもを表現する衣装は、バラの花をモチーフにしており、美しく育ったバラの花が摘まれていく様子が子どものメタファーとなっている。
サバイバーとは、生贄から逃れた子どもを意味する。この衣装では、傷や血だらけでトラウマを一生抱えて生きていく様子が表現されている。
子どもをなくした母親は、カンパラに住むバガンダ族の女性が着るGomeziという衣装をモチーフにしている。この衣装では、精神病に侵された心の傷や、トラウマにより子どもを産めなくなった様子が表現されている。
Edward氏は、「これらの作品を通して、『生贄によって亡くなる子どもがいることを文化の一部として認めるべきではない』というメッセージを発信したい」と話す。
歴史を語る音楽を継承することで、文化を継承する。衣類に楽器を取り入れたデザイン
他にも、SEAMLINE ATELIERは、楽器の一部をファッションに取り入れる挑戦もしている。「BACK TO OUR ROOTS COLLECTION」は文化的なアイデンティティを探ることをテーマとした作品で、忘れ去られていく故郷の音楽を表現した。
Edward氏「ウガンダでは文化や歴史が音楽にのせて語られることもあるくらい、音楽は歴史を語ります。しかし、西洋の音楽の影響によって大衆向けのポップミュージックが好まれるようになり、伝統音楽は忘れ去られています」
そんな現実を伝えるために、SEAMLINE ATELIERは害虫に食い荒らされた太鼓を衣装として使用した。
衣装に使われた太鼓は「ムジャゴゾ」と呼ばれ、葬式や誰かが亡くなったときに使われる、死を象徴する伝統楽器だ。終わりを告げる役目を果たすと同時に、村民への「呼びかけの合図」としても使われていた。
Edward氏「蝕まれる『ムジャゴゾ』は、失われていく文化と、そうした現状に対して行動を起こそうという、2つのメッセージを表現しています」
民族の歴史や大切な伝統文化の継承を音楽が担っているからこそ、音楽を継承し続けることは文化を残し続けることを意味するのだ。
ファッションを、深刻な社会問題を語る入り口に
SEAMLINE ATELIERがこれらの深刻な社会問題に焦点を当てているのは、ウガンダ人は社会問題を話すことに抵抗があるからだとEdward氏は話す。
Edward氏「ウガンダに溢れる社会問題の原因を辿っていくと、多くが腐敗した政治につながります。それに対して声を上げることで政府の弾圧のターゲットになることを、人々は恐れているのです」
ウガンダでは現大統領による独裁政権が38年間続いており、汚職も蔓延している。Edward氏は、「このような現状でも、ファッションを入り口とすることで、社会問題やタブーとされる話題を話し始めるきっかけを作れる」と話す。
そんなSEAMLINE ATELIERは、若手デザイナーを支援するためのワークショップも開催している。ワークショップでは、毎回テーマを決め、社会問題からインスピレーションを得た作品の制作に若手デザイナーが挑戦する機会を提供している。
前回のテーマは「Understanding the misunderstood(間違いを学ぶ)」。参加した若手デザイナーは、日常にあふれる偏見や間違いを、ファッションを通じて表現した。例えば、前回の最優秀者であるLilian氏が衣服を通して表現したのは、「誤解され、疎外されてきたアルビノと、ありのままの自分を愛して受け入れること」だったという。
最優秀者と優秀者にはミシンやアイロンが寄贈され、Lilian氏は自身のブランド「ORIWIGI」も立ち上げたという。
このようにSEAMLINE ATELIERは、ファッションを通して社会問題に取り組むという自分たちのスタイルを、次の世代にも伝えていこうとしているのだ。
編集後記
社会問題の提示を目的としたファッションをビジネスとして継続していくのは、決して容易なことではない。「世界的なファストファッションの大流行と、大量の中古衣類がアフリカに流れ着く現状」が、現地の布を使い、一着ずつ時間をかけて衣服をつくるアフリカのデザイナーの可能性を潰す原因になっているからだ。
しかし、Edward氏は「自分たちの作品に誇りがあります」と語る。
「私たちはアイデアで未来に投資しているからです。現代の消費者の求める安さや生産性を追い求めた大量生産とは異なり、私たちにとってファッションはメッセージツールなのです」
ウガンダで生まれ、目の前で起きる不条理とその背景を見てきた彼らだからこそ、伝えられることがある。彼らがファッションを通して伝えるメッセージは、これからを生きていく人々への問いかけや提案であり、より良い世界をつくるための投資だと言える。
「だからこそ、消費者にはデザインとメッセージの両方を買ってもらいたいです」
彼らが作品を作り続ける理由。それは、世界には声を失った人々が存在するからだ。失われつつある文化や、犠牲となった子どもたち──そんな“言葉をもたない人”の物語を伝えるのが、SEAMLINE ATELIERの役割なのだ。
※ Survivors of child sacrifice at the hands of witch doctors in Uganda
【参照サイト】SEAMLINE ATELIER
【参照サイト】GlitterTrotter
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