英国初「チャリティーの百貨店」誕生。人気のワケは?現地訪問でその秘訣に迫る

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皆さんは新しく洋服を買うとき、何を判断基準にしているだろう。

自分に似合うかどうか、すでに持っている洋服に合わせやすいか、品質が価格に見合っているか……それに加えその洋服がつくられ、手放されるまでの環境負荷を気にしている人も増えているかもしれない。ここ10年で、人々がものを「消費し」「所有する」ということに対する価値観が大きく変わっているようにも感じられる。

もともと、人々の「新しいものがほしい」「良質な格好いいものがほしい」という購買意欲に支えられてきたビジネスの一つが「百貨店」だ。新たなものをどんどん消費することを必ずしも良しとしない人々の価値観にどのように寄り添うか、世界中の百貨店はいま模索している最中だろう。

イギリスの百貨店も例に漏れず、施設内に修理のコーナーを設置したり、ヴィンテージの商品を販売したりと、新しい取り組みや工夫が目立つ。そんな中、ロンドンのショッピングセンターの一角でユニークな取り組みが始まった。それは「チャリティー限定の百貨店」だ。イギリス独自の背景も反映したこの取り組み、現地の様子はどうなっているのか。実際に現場に足を運んでみた。

イギリスを代表する10のチャリティーショップが集結

「Charity Super.Mkt(チャリティー・スーパーマーケット)」と名付けられたこのコーナーは、ロンドン北部のブレント・クロスにあるショッピングセンターの中に誕生した。このデパートは、ファッションブランド・Red or Deadの創設者であるウェイン・ヘミングウェイ氏と、衣類の再利用を国際的に広める団体・TRAIDの代表であるマリア・チェノウェス氏の発案によるものだ。

1フロアにおさまるこのコーナーは10の区画にゆるく分けられており、それぞれの区画をイギリスのチャリティー団体が担当している。参加団体は以下の通りだ。

参加団体一覧
  • Cancer Research UK(ガン患者へのサポートをするほか、科学者や医療従事者とともにガンの研究を進める)
  • Havens Hospices(病気や死別などで苦しむ子供から大人、家族をサポートする)
  • All Abroad(チャリティーショップのオンライン販売を支援する)
  • Spitalfields Crypt Trust(東ロンドンを拠点にホームレスの人々や依存症の人々の住宅補助やカウンセリング、トレーニングを行う)
  • Emmaus(ホームレスの人々に住宅を提供したり、社会的企業への斡旋を行ったりする)
  • TRAID(衣類を長く使う仕組みを整え、アパレル産業に関わる人たちを支援する)
  • Barnardo’s(イギリスで最も大きな子どものためのチャリティー。古着やアクセサリー、家具などを販売する)
  • Marie Curie(ホスピスでの治療や資産運用、残された家族のケアにいたるまで「終活」に関するあらゆることを支援する)
  • Age UK(人々の晩年の生活をサポートする)
  • Shelter(誰もが安全な家で暮らせるような住宅の仕組みづくりを行う)

 

もともと「チャリティー」という慈善活動の発祥の地とも言われているイギリス。戦争や疫病がもたらす社会的混乱を経験したことや、キリスト教の考え方・教会の存在が背景となり、19世紀からチャリティの運動が盛んになった。今でも街を歩いているとチャリティーショップやイベントを見かけることも多く、「寄付」という行為は教育にも組み込まれているという。

スーパーに設けられている寄付スポット。人々は家から食材を持ってくるのではなく、買いものをするついでに寄付用の食材も購入し、このかごの中に入れる。

そんなイギリスでも、特に大きな存在感を放つ10のチャリティーショップが一堂に会する「チャリティー・スーパーマーケット」。それぞれのコーナーにある黄色い看板でゆっくりと団体の活動の内容を見て巡ることもできる。

黄色い看板

黄色い看板に団体の概要が記してある。

ハイブランドからカジュアルブランドまで。ヴィンテージが好まれる文化

さらに、チャリティー・スーパーマーケットで強調されていたのは、新品の洋服ではなく古着を選ぶことで環境への負荷を減らすということだ。レジには「廃棄を最小限に、利潤を最大限に(Minimal Waste, Maximum Benefits)」というメッセージが掲げられていた。

レジの様子

また、もともとロンドンをはじめヨーロッパの街の多くでは「古着」に人々が価値を感じ、重宝されてきた歴史がある。地元の人や観光客でにぎわっているのはヴィンテージショップであることも多く、それがロンドンでショッピングをする一つの価値にもなっているのだ。

古着は「pre-loved clothes(かつて愛された服)」とも表現され、歴史のある服を身にまとうことがトレンドにもなっている。現に、イギリス全体の人々の65%が少なくとも週に1回は古着を着ているという。

実際のお客さんの反応は?

そうしたチャリティーの要素と古着の要素が組み合わさり、環境そして社会にも良い購買活動ができるようになったのが、今回のチャリティー・スーパーマーケットだ。現在生活費の高騰が大きな問題になっているイギリス。そんな状況でも、「少しでも安価なものを」という気持ちよりはサステナビリティに対する欲求が買い物客を後押ししていると、チャリティー・スーパーマーケットの発案者は話す。

BBCの取材によると、別のタイミングで現地を訪れた人々が下記のように語っていた。

「お金が慈善団体に寄付されると、買いものがより楽しくなる」
「衣服をより長く使用できるようにし、お金は良い場所に行くという仕組みに賛同している」
「ハイストリートの店では見つけられない個性的なものをチャリティーショップで見つけることができる」

このように、チャリティー・スーパーマーケットを訪れる人々はチャリティーの仕組み自体にも価値を感じ、また並べられている商品の希少性やストーリーにも関心を寄せているようだ。

これは百貨店の新しい形?店舗はかなりのにぎわいを見せる

店内
チャリティー・スーパーマーケットの入っているショッピングセンターはロンドンの中心地からは少し離れたところにあり、また筆者が訪れたのは平日だったため、ゆっくり商品を見て回れるだろうとたかを括っていた。

しかし実際に店舗に行ってみると、想像以上の人でにぎわい、スタッフは商品を並べたり、レジの対応をしたりと忙しそうにしていた。店舗にいる人々が全員このチャリティー百貨店だけを目当てに来たわけではないと思うが、店内はときどき通路を譲り合わなければいけないほどに混み合っていた。

店舗には良質な古着も多く、また10のチャリティーショップが集結していることから、選択肢が確保されているために気に入ったものを選びやすい。ファッションの楽しみは失いたくないけれど、それが自然環境や遠くの地にいる誰かを蔑ろにするものだとしたら、あまり新しい服は買えない──そう躊躇していた人々も、このチャリティーショップでなら快適に買いものができるかもしれない。

チャリティーショップは2023年2月25日までオープンしている予定だ。(評判次第では延期もありうるとのこと。)この時期にロンドンにいる方はぜひ足を運んでみてはいかがだろう。

Charity Super.Mktの詳細
店名 Charity Super.Mkt
住所 Prince Charles Dr, Brent Cross, London NW4 3FP
営業時間 10:00~20:00
日曜のみ:12:00~18:00

【参照サイト】Brent Cross: Charity department store opens in ‘UK first’
【参照サイト】UK’s First Multi-Charity Department Store To Open At Brent Cross
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