かつては一部の専門家だけが使っていたような高度なテクノロジーが、今や簡単に市民の手にもわたるようになった。「なんて便利な世の中になったのだろう」と思う人もいれば、「情報が多く複雑すぎて手に追えない」と感じてしまう人もいるかもしれない。
テクノロジー疲れを感じる要因は、どのようなものだろうか。昼夜問わず届く通知や、ターゲット化された商業的なコンテンツ、デジタル特有の強い光や音などがストレス源になっているかもしれない。素人では扱いにくい複雑な構造も、テクノロジーに近づきにくいイメージを与えているだろう。
では、それは本当に「ユーザーのためを思った」機能なのだろうか。いつの間にか、誰かが作ったシステムによって感情を左右されたり、心身が疲れてしまったりと、暮らしを豊かにするはずの技術が人々を疲弊させているのも事実だ。
そんなモヤモヤするテクノロジーとの関わり方を、より健康的にしてくれる認証が登場した。それが「Calm Tech Certification(穏やかなテクノロジー認証)」だ。81の項目をもとに、モノの耐久性、光や音の影響、使用される素材、さらにそのモノが人々の注意をどのように引き付けるか、つまり中毒性の有無などを評価する。
そのカテゴリーは、電子機器やウェブサイト、アプリ、AIにとどまらず、交通手段、住宅、博物館、教育など、幅広い。
認証制度と同時に公表された認証取得の事例を、二つ紹介したい。一つ目は、紙のようなタブレットPC「DC-1」。通常のパソコンは画面が光を反射し、目に負荷のかかるブルーライトを発する一方、DC-1の画面は屋外でも光を反射しない紙のような見た目で、ブルーライトは発しない。周囲が暗くなると画面が暖色になるため、読みやすいかつ体内リズムを崩さないそうだ。
電子ペーパーのようだが、あくまでもパソコンなのでインターネットやアプリが使える便利さは特長となるだろう。他社のアプリを使用していても、その紙のような質感は維持されるという。
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二つ目は、アプリに“物理的な鍵”を提供するNFCタグ「Unpluq」だ。自分のスマホの中に「気づけば開いてずっと眺めてしまう」ような中毒性のあるアプリはないだろうか。そんな無意識に開いてしまう行為を阻止するのが、Unpluqだ。
利用者は、使用を制限したいアプリを決めてNFCタグに登録。すると、玄関のドアを鍵で開けるように、Unpluqをスマホにかざさないと特定のアプリが開けないようになるのだ。レポートによると、ユーザーの50%が購入後1年経ってもこの機能を使い続けており、1日あたりのスクリーンタイムは平均して1時間22分減少しているそうだ。
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その他に、残り時間が数字ではなく円グラフのように可視化されたタイマーや、室内の空気質モニターも認証を取得した。こうした穏やかなテクノロジーを特徴づける原則として、以下の8つの項目が示されている。
- テクノロジーは、最小限の注意・関心の量を必要とするべき
- テクノロジーは、平穏を伝え、つくるべき
- テクノロジーは、周囲を活用すべき
- テクノロジーは、最良のテクノロジーと最高の人間らしさを広げるべき
- テクノロジーは、コミュニケーションが取れても話せる必要はない
- テクノロジーは、それが失敗しても機能するものであるべき
- テクノロジーの適切な量は、問題を解決するための最小限である
- 新しい行動を導入するには、慣れ親しんだ行動を活用せよ
これらを提唱し同組織を設立したのは、デザイナー兼リサーチャーのアンバー・ケース氏。彼女は2007年頃からCalm Technologyに関心を寄せ、2020年に著書『カーム・テクノロジー:生活に溶け込む情報技術のデザイン』を出版して話題となった。
それから4年ほどが経った2024年11月29日、Calm Tech Certificationのローンチが発表されたのだ。書籍を経てもなお、世の中には人々の注意力や関心を奪う、中毒性の高いコンテンツが溢れているということなのだろうか。
ウェルビーイングに寄り添う穏やかなテクノロジーが身近な選択肢になるよう、この認証が社会をもうひと押ししてくれることを願う。
【参照サイト】Calm Tech Institute
【参照サイト】New seal of approval for tech products that respect people’s time, attention and humanity|TrendWatching
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