「安さ」は誰を苦しめるのか?揺れるフランスのファッション規制が映す、“買う側”の代償

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ファストファッションの広告を禁止する──2024年3月、フランスで審議されていた、そんな大量消費文化を変えることを目的とした「ファストファッション規制法案」。その法案が破棄されたことが議論を呼んでいる。これには、広告規制や炭素排出量が多いブランドに課される罰金制度などが含まれており、革新的な規制として期待されていたのだ。

フランス「ファストファッション広告禁止」を提案。使い捨て文化の終わりとなるか

規制策定に向けて動いていた一人、消費を減らすことを理念にしたフランスのファッションブランド「LOOM」の共同創設者であるジュリア・フォール氏らは、ファストファッション大手SHEINがフランスの元内務大臣を同社の社会的責任委員会の顧問に迎えたことを指摘。今年2月下旬、フィナンシャル・タイムズがSHIENの年間利益が前年比40%も落ち込んだと報じたが、規制の撤回にはこうした企業側からの政治への働きかけや、現状維持を望む経済界の圧力が背景にあると見られている(※)。また、インフレなどの経済状況によって消費者が低価格の商品を求める傾向が強まり、規制への支持が弱まった可能性もあるだろう。

SHEINの失速が「安さ」をめぐるシステムの綻びを示した一方で、フランスの規制撤回は企業の影響力の強さを示す結果に。政治的規制の重要性と、ファストファッションの構造的な問題を、法制度として是正することの難しさが浮き彫りになった。

ここで考えたいのは「安さ」は誰のためのものかということだ。ファストファッションの低価格競争の裏には、過酷な労働環境で働く人々の存在があり、この「安さ」を求める消費者の多くもまた、不安定な雇用や生活基盤の喪失に直面し、不満や無力感を抱えている人々でもあるという指摘である。この「安さ」は、結果的に労働者だけでなく、消費者自身にも負の影響を及ぼしている。フランスの社会経済研究では、労働環境の悪化が社会的な不安を生み、極端な政治的選択を促す可能性が強調されている。

フォール氏はTEDxParisの中で「この安さの罠によって『選択肢がないから安価な商品を買わざるを得ない人々』が、最も過酷な代償を背負う」と警鐘を鳴らしている。

低価格商品の拡大は、地元の雇用喪失、賃金の抑制、社会保障の縮小をもたらし、結果として社会全体のコストを増大させ、貧困や格差をさらに拡大させる要因となっている。こうした構造の中で、低価格競争の裏にある過酷な労働環境が、社会全体の不安定さを生むリスクが指摘されているのだ。

「安さ」は誰のためのものなのか──その問いを無視すれば、社会の不安定化を招き、政治にも影響を及ぼしかねない。企業は短期的な利益だけでなく長期的な視点を持つことが不可欠であり、そのためには適切な規制の整備が求められる。たとえば、フランスでは独立系書店を守るために書籍の統一価格制度が導入され、小規模書店が今も存続している。ファッション業界でも、安さの裏にある仕組みと向き合い、公正な競争環境を整えることが、いま強く求められてるのではないだろうか。

Shein profits slump in fresh challenge to long-planned London IPO
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