【パリ現地レポ】AIから都市、鉱物、アートまで。私たちを取り巻く「変化」の意味を問うChangeNOW 2025

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2025年、パリ協定の採択から10年の節目にあたる年──未来に向けた行動が、より一層問われるタイミングで、ChangeNOWサミットが今年もフランス・パリのグラン・パレにて開催された。

今年のサミットには、世界中から40,000人の参加者、1,200人の投資家、10,000の企業、500を超えるメディア、600人のスピーカーが集結。1,000を超える環境・社会課題に対するソリューションが紹介され、地球規模のトランジションを後押しする熱気に包まれていた。

会場では、気候変動、生物多様性、サーキュラーエコノミー、社会的インクルージョンといったテーマを軸に持続可能な未来を築くための実践的なアイデアとアクションが交差し、素材、エネルギー、食、都市設計など多岐にわたる分野で革新的な取り組みが紹介された。

また、ファッションやジュエリー製品を扱うフランス企業・ケリングが主催する「ケリング・ジェネレーション・アワード・ジャパン」を受賞した日本のスタートアップも出展。未利用資源を活用し循環型社会を目指す株式会社ファーメンステーションや、AIや3Dシミュレーションを活用して持続可能なファッションの未来を描くAmphicoなど、日本で展開されるソリューションにも関心が寄せられた。

本記事では、ChangeNOW 2025の中でも編集部が特に注目を集めた5つのセッションに焦点を当て、どのような議論が交わされたのかをレポートしていく。

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1. AI、進化の分岐点。サステナビリティと倫理を問うとき

AIが急速に進化する今、その力をどう使うかが問われている──そんな問題意識のもと、一つのセッションが開催された。

冒頭ではUNESCOのガブリエラ・ラモス氏が、AIの進化が技術だけの話ではなく、社会全体の意思決定によるものであり、倫理・インクルージョン・サステナビリティを軸にした政策が不可欠であると強調。特に、「AI開発者のうち女性はわずか22%」というデータは、AIにおける多様性欠如を象徴しているという。

続くトークでは、Microsoftのアンソニー・ヴィラパン氏と、先住民コミュニティの視点でAIを開発するシャニ・グウィン氏が登壇。ヴィラパン氏は、AIスキルを世界中で普及させる教育支援の重要性と、社会起業家との連携によるインパクト拡大を語った。一方グウィン氏は、先住民の視点が反映されないことでAIが歴史を歪める危険性を指摘。AIは「集合的かつ個人的な主権を尊重するべき」と訴えた。

後半では、GSKやBayes Impact、CNRSの代表が登壇し、「盲目的にAIに頼らず、人間の意思と倫理でAIを使う」ことの重要性を議論。また、AIのエネルギー・資源消費に関する環境的課題にも注目が集まった。「AI開発の透明性が欠けている」ことにも警鐘が鳴らされ、フランスの「フルーガルAI(省エネAI)」の取り組みや、EUの規制強化の必要性を提起した。

このセッションは、AIを「使いこなす技術」ではなく、「共に育てる社会的存在」として再定義する呼びかけでもあった。

2. 都市を再想像する。「気候正義」と「実装力」でつくる未来

このセッションでは、気候変動下の都市をどのように再構築すべきか、個人の視点と制度的な実践の両面から議論が展開された。

冒頭に登壇したのは、ガーナ出身の活動家ジョシュア・アンポセム氏。彼は、気候危機のなかで母親が直面する過酷な暑さの実体験をもとに、「都市設計はただのインフラではなく、正義と命の問題」だと訴えた。アフリカでは都市化が急速に進み、スラム化や不平等、文化喪失が広がっている。

続くパネルでは、C40 Citiesのエレーヌ・シャルティエ氏と建築スタートアップ・Roofcapesのエイタン・レヴィ氏が登壇。エレーヌ氏は「気候行動計画を“スライド資料”に終わらせない」ために、都市計画法や調達制度、気候予算などを通じて“強制力ある実装”が必要だと語った。

一方、エイタン氏は、パリの急傾斜の屋根に緑化と共生空間を創出するプロジェクトを紹介。実験・複合化・地域適応・財政の再定義という4つの原則のもと、「都市の形を変える柔軟性と勇気」が不可欠だと語った。

3. 「グリーン」なのに環境破壊?鉱物採掘と気候正義のジレンマ

続くセッションは、重要鉱物(クリティカル・ミネラル)についてだ。「サステナブルな採掘なんて存在しない」──エクアドルの先住民活動家ヘレナ・グアリンガ氏は、揺るぎない口調でそう語った。

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彼女が13歳で活動を始めた当初、脅威は「石油」だった。しかし今、その矛先は「グリーン・トランジション(脱炭素)」の名のもとに鉱物採掘へと移っている。エネルギー転換に必要とされるリチウムやコバルトなどの重要鉱物が、アマゾンやアンデスの山岳地帯など、先住民の土地で集中的に狙われているのだ。

セッションでは、合法と非合法の両方の採掘がいかに人権と自然環境を脅かしているかが語られた。脅迫、司法的嫌がらせ、殺害といった被害は日常的に報告され、採掘現場周辺では水源汚染や森林破壊が深刻化。ヘレナ氏自身も、かつて泳いでいた川に触れることすらできないほど汚染が進んだと話す。多くの鉱山を操業するのはグローバルノースの企業であり、それらが先住民の土地に進出する構造そのものに、根深い不正義が潜んでいるとヘレナ氏は指摘する。

特に「グリーン」の名のもとに行われる採掘は、人々の注意をそらし、正当化される。「みんな石油は悪いと認識している。でも鉱物採掘は、気候対策のためだから仕方ないと思われている。だけど現場では、何一つ持続可能ではない」と彼女は言う。先住民が本当に求めているのは、「開発」ではなく、尊重と自己決定権だ。

最後に彼女は、「話し合いができるのは、お互いが対等な立場にあるときだけ」と強調。企業のPR戦略ではなく、実際の人権と生態系への影響を見据えた、真の規制と監視が求められていると訴えた。

4. 声なき表現が、社会をつなぐ。アートと文化が架ける橋

「周縁から橋へ」。このセッションは、抑圧や差別、戦争、障害の中で生まれたアートの力を見つめなおし、「文化が記憶を守り、社会をつなぐインフラである」と再定義する試みだった。

冒頭に登壇したのは、アフガニスタン国立音楽院の創設者アフマド・サルマスト氏。タリバン政権下で音楽が禁じられた祖国で、孤児やストリートチルドレン、女性たちに音楽教育を提供し、文化の力で平和と尊厳を再構築しようとしている。現在彼らはポルトガルに避難し、亡命先で学校を再建。「沈黙を強いられた国の声」として、音楽を通じて希望を届けている。

パネルディスカッションでは、HERALBONY EUROPEのCGOである小林恵氏が登壇。障害のあるアーティストと企業をつなぐプロジェクトを展開し、「違いを価値に変える」ことをミッションに活動。アートを単なる福祉ではなく、経済と文化の交差点に位置づける取り組みを紹介し、「世界中の誰かが、彼らのアートを身にまとう未来を見たい」と語った。

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さらに、亡命者の記憶をライブドローイングで再現するアーティスト、ステファン・ツィンメリ氏は「他者の記憶を描くことで、私たちは想像力と共感力を取り戻せる」と語った。作品は売れないが、共有された記憶そのものが「作品」だとし、制度や市場に収まらないアートの可能性を体現していた。

見過ごされがちな表現が、人と人、過去と未来、沈黙と声をつなぐ架け橋になる──そんな確信を胸に刻む時間となった。

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5. 未来は、ゆっくり育てるもの。デザイナーたちからのメッセージ

このセッションでは、加速し続ける現代社会に対して、デザインの分野から「スローダウン」という提案がなされた。登壇者は、建築、素材開発、バイオデザイン、工芸、政策の分野から集まったデザイナーやキュレーターたち。彼らが共通して発信したのは、「速さ」ではなく「深さ」や「継続性」が、これからのものづくりの鍵であるという視点だ。

バイオ素材企業・MycoWorksのザビエル・ガジェゴ氏は、菌糸体を用いたレザー代替素材「Reishi」を紹介。自然の生態リズムに寄り添いながらも、量産可能な仕組みを整え、大手ブランドとのコラボレーションも進んでいる。

Aleor designのアレクシア・ヴェノット氏は、「素材を選ぶことは、行動様式を選ぶこと」と語り、ビーズワックスや根系テキスタイルなど、時間をかけて育てる素材を扱うデザイナーたちの作品を紹介した。

共通して語られたのは、「自然との協働」「個性の尊重」「長く使い継ぐ価値」への回帰である。産業とのスケールのギャップや価格の壁も課題ではあるが、公共政策の視点からも伝統工芸や若手デザイナーの支援によって、この動きを後押ししている事例が共有された。

編集後記

ChangeNOW 2025は、技術の進歩そのものに熱狂する場ではなかった。むしろ、テクノロジーがどこへ向かおうとしているのか、そしてその進歩の陰で見過ごされがちなものに光を当てる場であった。AIや都市、鉱物、アート……すべてのテーマに共通していたのは、変化の「速度」ではなく「意味」、そして「関係性」を掘り下げる姿勢だ。

最後に「How to Create Radical Change?」のセッションで語られた言葉を紹介したい。エコロジー思想家サティシュ・クマール氏は「変化はホワイトハウスではなく、私たち一人ひとりの“足元”から始まる」と語った。社会変革の思想家オットー・シャーマー氏もまた、真の変化は「見えない根の質」、すなわち内面の意識や他者とのつながりにあると説いた。変革とは、構造を変えることだけでなく、自分自身の「在り方」に向き合うことから始まるのだ。

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サステナビリティも、倫理も、創造性も──それらは外にある理念ではなく、私たちの中にあるものとして育てていくべきものなのかもしれない。そしてその芽は、往々にして最も静かなところに、すでに根を張り始めている。

【参照サイト】ChangeNOW
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※ ChangeNOW一部セッションのアーカイブ動画はこちらからご覧いただけます。

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