【パリ現地レポ】環境イベント「ChangeNOW」で出会った、注目の循環スタートアップ6社

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2023年5月25日~28日の3日間、フランスのパリで、環境問題に取り組むチェンジメーカーが集う「ChangeNOW(チェンジナウ)」サミットが開催された。

今年で6回目を迎えたこのイベントでは、1,000を超える課題解決ソリューションが紹介され、世界120か国から35,000人の参加者、500を超えるメディア、1,200人の投資家が来場したという。

エッフェル塔を望む市内中心部の会場「Grand Palais Ephémère」には、スーツ姿のビジネス関係者や、メディア、若い起業家、学生など、様々な人が行きかい、大きな熱気に包まれていた。

現地のイベントの様子を交えながら、筆者が出会った中でも特別面白いと感じたサーキュラーエコノミーに取り組むスタートアップ企業を紹介する。

環境問題解決のためのプログラムが盛りだくさん

「チェンジナウ」サミットは、環境問題に取り組む革新的なソリューションやインパクトのあるチェンジメーカーを集め、共に行動を起こすことを目的としたイベントだ。起業家、ビジネスリーダー、政策立案者の懸け橋となることで、変化を加速させることを目指している。

イベントパートナーには、フランス企業とともにマイクロソフトやKPMG、ボストンコンサルティンググループなど、アメリカ系のグロ-バル企業も名を連ねており、会場では英語が飛び交い、各プログラムも主に英語で進行していた。

会場内に設置された4つのステージでは、3日間で70を超えるカンファレンスが行われ、400人の著名な専門家が、地球環境に関する最新の話題を取り上げていた。その内容は多岐にわたり、「エネルギー転換の加速化」、「バリューチェーンの脱炭素化」、「生物多様性のためのファイナンス」など実践的な内容から、「新たな未来に向けた内なる変化」や、「気候不安を解消する」といった精神的なものまでカバーされている。

どれも最新のトレンドを反映した魅力的な内容で、筆者は参加するプログラムを選ぶのに苦労した。また、ピッチイベント、ネットワーキング、アートイベントなども開催され、筆者の想像をはるかに超える活気だった。

話は変わるが、海外の類似イベントでも感じたのが、イベントの運営ホームページの見やすさだ。展示企業や登壇者の詳細な情報や、イベント参加者とのバーチャルコミュニケーション手段の提供はもちろん、数日後にはプログラムのアーカイブを動画で視聴できるようになっていたのには感心した。ライブで見過ごしたプログラムを後でゆっくり視聴できるのは非常にありがたい。

会場で出会った循環経済に取り組む起業家たち

筆者は、最新の業界動向をつかむために、スタートアップのピッチセッションを視聴した。登壇企業は、3分間の持ち時間内にピッチを行い、時間が過ぎると終了の鐘が鳴る。場慣れした司会者が、一人ひとりの登壇者に労いの言葉やポジティブなコメントをかけながら、うまくタイムマネジメントをしていたのが印象に残った。

ピッチはすべて英語で行われ、フランス以外の国ではインド企業の登壇が目立っていた。インドは急激な経済成長の裏で大気汚染や電力不足が深刻化しており、解決すべき問題が多いと同時に、IT分野の強さと英語が話せるのは、事業の初期段階から世界を視野に入れて活動する土壌となっているのだろう。

ピッチセッションは分野別に行われたが、筆者が視聴した「サーキュラーエコノミー」、「エネルギー」、「モビリティー」分野の中では、「サーキュラーエコノミー」が一番視聴者が多く、質疑応答も盛り上がっていた。

セッションに登壇した企業の例をあげると、レストランの廃油から洗剤を作る「monsapo」、バッテリー寿命を延ばす技術を開発した「Revive」、再生可能なパッケージング・ソリューションを提供する「Better Packaging」などがある。特にバッテリーに関する企業は、「モビリティー」や「エネルギー」分野でも注目を集めていて、エネルギー転換における世界のトレンドがうかがえた。

会場の展示エリアは、「生物多様性」、「都市」、「教育」など、複数のエリアが設けられていたが、一番面積が大きかったのは「サーキュラーエコノミー」だった。ピッチセッションの関心度の高さと合わせて、「サーキュラーエコノミー」分野が多くの投資家、起業家、来場者の関心を集めていることがうかがえる。

3日間通っても回りきれないほどの展示ブースが設けられていたが、筆者が会場を回る中で出会った、循環経済に取り組むスタートアップ企業6社を紹介する。

紙と酵素でできた生分解性バッテリーを開発する「BeFC(ビーエフシー)」

ChangeNOW

BeFC(ビーエフシー)のビジネスデベロップメントを担当するEliott Aubert氏。手に持っているのは、ビーエフシーの生分解性バッテリー

近年、通信機器や家電、医療用機器に使用される小形電池の使用量が増加する中、有害物質や希少鉱物を含む使用済電池の処分が大きな問題となっている。

生分解性物質のバッテリーを製造するBeFC(ビーエフシー)は、2020年にフランス国立科学研究センターのスピンアウトとして創業した。BeFCのバッテリーの主な素材は紙と酵素であり、安全に廃棄またはリサイクルできる。医療用ウェアラブル機器などへの搭載に注目されている。

手軽にペットボトルのリサイクルができる「b:bot(ビーボット)」

ChangeNOW

GreenBig(グリーンビッグ)のデジタルマネージャーBasile Capitant氏と営業のErwan Mocaer氏は、ペットボトルの粉砕を実演してくれた

世界で毎年生産されるペットボトルは5000億本、そのうち回収されるのはわずか10%だという(※1)。主な原因は、回収に手間とコストがかかり採算がとれないからだ。

この問題を解決するために、GreenBig(グリーンビッグ)社は、シンプルで収益性のあるペットボトルのリサイクルシステムb:bot(ビーボット)を開発した。利用者がビーボットにペットボトルを入れると、種類別にフレークに粉砕され、利用者にはポイントなどのインセンティブが付与される。設置に必要な面積はわずか1平方メートルで、約3000本のペットボトルを回収可能だという。現在フランス全土のスーパーマーケットと提携し、近く海外展開も予定している。

廃棄物由来のポリウレタン原料の商用化に取り組む「ecorbio(エコルビオ)」

ChangeNOW

イギリスとキプロスの2拠点生活をしているというecorbio(エコルビオ)CEOのLukas Jasiūnas博士

ポリウレタンは、建築断熱材、プラスチック、接着剤などの製品に幅広く使用されており、その世界市場規模は2028年にかけて年平均9.4%の成長率が見込まれている(※2)。ただし、その原材料は石油であり、代替原材料として検討されているバイオマスは高価かつ、その輸送で排出されるCO2も見逃せない課題となっている。

エコルビオ社は、下水汚泥などの産業バイオマス廃棄物から、高品質で持続可能なバイオポリオール(ポリウレタンの素材)の生産に取り組むスタートアップ企業だ。特許申請中の技術により、世界初の廃棄物由来のバイオポリオール商用化を目指している。

植物性レザーを使用したサーキュラーハンドバッグを販売する「L&E Studio(エルアンドイー・スタジオ)」

ChangeNOW

デザイナーでCEOのLidia J氏とサステナビリティコンサルタントのAmber Wan氏

スイスに拠点を置くL&E Studio(エルアンドイー・スタジオ、以下エルアンドイー)は、ハンドバッグのデザインと生産および、そのライフサイクルにおいて、より持続可能な新しいアプローチをおこなっている。

植物性レザーを使って職人の手で作り上げられた製品には、製作者の名前が記され、永久保証と修理サービスがつく。ハンドバッグが不要となった場合には、1.分解してリサイクルとして廃棄する、またはエルアンドイーに返却して廃棄する、2.エルアンドイーに返却して別の製品に作り直してもらう、3.中古品としてエルアンドイーのマーケットプレイスで販売する、という3つの選択肢を用意している。

お米でできた家を作る建築会社「Ricehouse(ライスハウス)」

ChangeNOW

Ricehouse(ライスハウス)創業者でCEOのTiziana Monterisi氏 と共同創業者でCTOのAlessio Colombo氏

お米は世界で3番目に多く生産されている農作物で、2019年だけで7億5600万トンが栽培されているという(※3)。当然、稲作では多くの廃棄物も発生する。

イタリアの建築会社ライスハウスは、稲わら、もみ殻、籾殻などの廃棄物を利用して、断熱プラスター、仕上げ材、軽量スクリード、プレハブパネルなどの循環型建設資材を作成している。お米は100カ国以上、南極を除くすべての大陸で栽培されているため、ライスハウスの素材は世界中で製造が可能だ。日本に住むイタリア人建築家から声がかかり、日本でライスハウス住宅を建設した実績もあるという。

化学で環境課題を解決する「AC Biode(エーシーバイオード)」

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日本と欧州に拠点を持ち、世界中を飛び回るAC Biode株式会社CEOの久保直嗣氏

このイベントに出展していた日本企業AC Biode(エーシーバイオード)株式会社は「化学技術により、地球の温暖化ガス削減とグローバルなごみ問題解決・リサイクル率向上に貢献する」をミッションに掲げる、化学系スタートアップ企業だ。

世界初の独立型交流電池と付随する回路の開発、廃プラスチックをモノマーに解重合する触媒の開発、各種吸着剤の開発・事業展開、二酸化炭素等からガラス製造など、取り組んでいる事業はどれも環境問題の解決につながるものだ。

株式会社レブセルと共同で、ブースで展示していたCO2からガラスを製造する小型機器には、来場者の注目が集まっていた。エーシーバイオードは、4月に広島で開催されたG7サミットでもレブセルと共同で技術を展示しており、今注目の日本発スタートアップ企業といえる。

編集後記

同イベントにおける今年の重要なトピックは「プラネタリー・バウンダリー」。プラネタリー・バウンダリーとは、人々が地球で安全に活動できる範囲を科学的に定義し、その限界点を表した概念のことだ。

初日のカンファレンス「Aligning business with planetary boundaries(ビジネスとプラネタリーバウンダリーの調和)」では、ドーナツ経済学で有名なケイト・ラワース氏が登壇し、キーノートスピーチを行った。

「私たちは有限の世界に生きているのだから、それに合わせて行動しなければならない。企業は、科学的知見に基づく変革的な戦略を主導することで、その水準を高める必要があります。企業は、CO2排出量削減に焦点を当てたビジネスモデルから、地球のすべての境界を包含する全体的なアプローチに移行することが極めて重要です」

日本においては、今年2月に「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」が閣議決定され、化石エネルギー中心からクリーンエネルギー中心の産業構造・社会構造への転換が加速していくだろう。そんな中、忘れてはならないのはプラネタリー・バウンダリーを把握し、その範囲内で人間活動を行う必要があるということだろう。

筆者は、チェンジナウの予想以上の活気から、世界の環境ソリューションへの大きな注目と資金の流れを感じた。優れた技術を持つ日本のスタートアップ企業も、ぜひ、積極的にこのような国際イベントに参加し、チャンスをつかんでいってほしいと思う。

※1 グリーンビッグ企業サイト
※2 グローバルインフォメーション
※3 World Economic Forum`This is how much rice is produced around the world
【参照サイト】チェンジナウ オフィシャルサイト
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