【パリ現地レポ】環境イベント「ChangeNOW」で見つけた、欧州の生物多様性スタートアップ5社

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フランスのパリ、エッフェル塔を望む会場Grand Palais Ephémèreにて、2024年3月25日~28日、世界最大規模の環境ソリューションイベントであるChangeNOW(チェンジナウ)サミット2024が開催された。

1,000を超えるソリューション、世界120か国から35,000人の参加者、500を超えるメディア、1,200人の投資家が来場したChangeNOW 2024は、会場全体がポジティブで刺激的な熱気に包まれていた。本サミットでは、生体と社会の変革に不可欠な課題として、気候、資源、生物多様性、インクルージョンの4つがテーマに挙げられた。その中でも、特に気候と生物多様性への対応が急務であることが、プログラムの多くの場面で語られていたように感じる。

本記事では、これまでのChangeNOWのサミットから実現したコラボレーションの紹介と、筆者が会場で出会った中でも特別面白いと感じた生物多様性の課題に取り組むスタートアップ企業についてレポートをお届けする。

ChangeNowの創業者3人。CEOのSantiago Lefebvre氏、COOのRose-May Lucotte氏、CDOのKevin Tayebaly

ChangeNOWサミットから実現したコラボレーション

主催団体のChangeNOWは、現代の課題に対する具体的なアクションやソリューションを促すことで、持続可能な環境と社会の移行を加速することを目的としている。その活動の一環として毎年開催する本サミットは、2024年で7回目を迎えた。これまでの活動では、イノベーターと投資家、公的機関、企業、メディアなど、社会を変革するために必要なリソースを結び付ける機会を創出してきたという。その中には、スタートアップ企業の技術がフランスの企業や法律を変えた例がある。

フランスの有名化粧品ブランドのL’OCCITANE(ロクシタン)は、2020年のChangeNowサミットで量り売り(バルク)サービスを展開するJean Bouteille(ジェーン ボテイリ)社(現Cameleon group:カメレオン グループ)と出会い、共同で化粧品業界のニーズとブランドに適応したバルク流通ソリューションを開発した。現在このソリューションは20か国で導入され、何百万もの包装容器の削減につながっている。

スロベニアのスタートアップ企業・ PlanetCare(プラネット ケア)は、2023年のサミット参加をきっかけにフランスの環境移行大臣との意見交換に招待された。その後、同社が提供するマイクロファイバーのフィルターソリューションがフランスの「廃棄物防止法」に盛り込まれることになった。2025年1月以降にフランスで販売されるすべての新しい洗濯機には、合成繊維による水汚染を防ぐマイクロファイバーフィルターの装着が義務付けられるという。

また、同年のサミットでは、国連砂漠化対処条約約第15回締約国会議(UNCCD COP15)の議長とドイツのbetterSoil(ベターソイル)社CEOが会談し、「肥沃な土壌を保護し、土壌の質を高め、砂漠化と闘う」という共通のビジョンに共鳴し、協力協定の署名につながった。現在、農民の生活を向上させ、生物多様性を保全し、炭素隔離を通じて気候変動を緩和する活動で協力関係を続けている。

これらは、ChangeNOWがつなげたコラボレーションの一例だが、まさにサミットが環境と社会の持続可能な移行を加速する場となっていることがうかがえる。

生物多様性の課題をテクノロジーで解決するスタートアップ企業5社

今年のサミットでは、会場に入ってすぐの場所に生物多様性の企業展示ブースが配置されていた。そこには、多くの人が立ち寄り、企業の革新的なテクノロジーやサービスについて話を聞き入っていた。今回の出展企業は24社。その中で、筆者が特に興味を持ったスタートアップ企業を5社に絞って紹介する。

1.ドローンでマングローブ植林に取り組む「Inverto earth(インバート・アース)」

パートナーシップ部長のLelyana Midora氏、エコロジー部長のRyan Boarman氏、CTO&共同創業者のCameron Dowd氏

マングローブや海草などの沿岸生態系は、陸上の生態系と比較してより速く、より永続的に炭素を捕捉できるという。また、陸上や水中の多くの種にとって重要な生息地を提供している。Inverto earthは、企業と地域社会を結び付けて、大規模な沿岸生態系の回復を計画、植林、監視するサービスを提供している。

Inverto earthがドローンを使って植林した沿岸生態系は、環境DNA(生物が存在する水や土壌、空気といった環境中に含まれるDNAの総称)や、音響モニタリング、カメラトラップなどで、その健全性を総合的に測定し可視化する。実務を担うのは、現地住民スタッフだ。炭素や生態系の情報のほか、創出される雇用や海岸保護を通じた社会的利益などもデータとして可視化されているという。

3メートル四方の「自然ユニット」は、毎年12グラムの炭素を隔離し、20種以上の生態系を保護。これは沿岸生態系の保護として6ドル(約930円)の価値があるという。コンパクトなユニットのため、企業から従業員へ、また個人へのギフトとしての需要もあると見ている。

2.生物多様性ネットゲインプロバイダーの「Natural Habitat Bank(ナチュラル ハビタット バンク)」

ダイレクターのKate Johnstone氏、マーケティングを担うLain氏

近年、生物多様性を保全する手法として注目を集めているのが、住宅地や商業地の開発の際に開発前よりも自然環境を良い状態に持っていく生物多様性ネットゲイン(Biodiversity Net Gain、BNG)という施策だ。世界に先駆けてBNGに取り組むイギリスでは、2021年11月制定の環境法にて、開発事業後の生物多様性を事業前と比べて10%以上増やすよう定めている。

そんなイギリスで、BNGユニットのプロバイダー事業を立ち上げたのがNatural Habitat Bankだ。地方自治体と強力なパートナーシップを築くことで、開発事業者が地域のグリーンインフラ戦略と自然回復戦略に即したBNG計画を立て、スムーズに開発が進められるようサポートする。また、専門知識を投入し、BNGユニットのモニタリングとコンプライアンスサービスを、地方自治体に提供している。新しい生物多様性規制の導入に迅速に対応したサービスは、今後多くの地域で求められるだろう。

3.生物多様性を学ぶカードゲームの開発「Biodi(バイオディ)」

共同創設者のLaurent Gallati氏とBrieuc Kerisit氏

「あらゆる事業活動は、直接的又は間接的に自然の恵みに支えられているが、事業活動が生物多様性に与える影響は十分に理解されていない」と、Biodiは指摘する。生物多様性とは何か、生態系、そしてそれが直面している課題を、企業の従業員が楽しく学べるカードゲームやワークショップを提供するのがBiodiだ。

Biodiのカードゲーム「BioLogiks」では、従業員が生物多様性、生態系、持続可能な開発に関する一般的な知識を高め、事業活動で生物多様性を保全する理由と方法を学ぶことができる。また、緑地の造園や昆虫ホテル作りなどのワークショップを通して、身近なところから行動を起こす支援も行っている。

その他にも、Biodiが取り組む生物多様性チャレンジがSNSで話題を呼んでいる。同社インスタグラムの登録者が10人増えるごとに、花の種を埋めた泥団子を自然が喪失した場所に投下し、ミツバチを呼び戻して生態系を回復する取り組みだ。彼らのインスタグラムアカウントの登録者数は、開設から2週間で1万2,000人を超えたという。若い世代にもアピールする方法で生物多様性の学びを広げるBiodiの活動に、今後も注目したい。

4.ミツバチが集めた花粉を分析して生物多様性を測定する「BeeOdiversity(ビーオダイバーシティ)」

マーケティングダイレクターのChamaï Winograd氏

「2050年までに種の50%が消滅します。土壌、水、大気は汚染され、私たちの健康、気候、種の減少に直接かつ顕著な影響を与えているのです」と、世界が直面する問題を指摘するのはBeeOdiversityだ。生物多様性を再生するプロジェクトを革新的かつ科学的に開発するBeeOdiversityは、その測定にミツバチの力を借りる。

BeeOdiversityが開発した「BeeOmonitoring」は、ミツバチが集めたすべての花粉粒を分析し、その地域に存在する植物の多様性と質を評価する。自然界のドローン(ミツバチ)により、低コストで広範囲のサンプル収集が可能になるという。現在ヨーロッパ、米国、アフリカにサービスを拡大し、植物の多様性から、農薬やダイオキシンなどの汚染物質濃度まで、毎年数千件の分析を行っている。

事例として、BeeOdiversityが分析したデータをもとに、リンゴ生産者と市町村が協力し、殺菌剤カプタンの濃度を最大50分の1に低減した例がある。この成功をもとに、ジャガイモ農家を対象にモニタリングを実施することになったという。この他にも、土地の開発計画や、管理方法、環境的・経済的に持続可能な農業についてのアドバイスを提供している。

5.大気中の環境DNAから生物多様性を分析する「DNAir(ディーエヌエアー)」

創業者のFabian Roger氏

生物多様性の回復が注目される中、生物多様性モニタリングに環境DNAを活用する企業が増えている。そんな近年の動きに対し、DNAirは「既存の環境DNAによるモニタリング手法は、手作業のサンプリングや、水からの環境DNAに焦点を当てており、リモートセンシングは上からの観測に限定されるなど、さまざまな課題を抱えている」と指摘する。

そこで、大気中の環境DNAを生物多様性モニタリングに活用する、革新的で拡張可能なソリューションを開発したのがDNAirだ。DNAirは、半自律型エアサンプラーを通じて大気中の環境DNAを大規模かつ連続的に収集・保存し、さまざまな遺伝子情報を解析する。遺伝子情報は、生態系の健全性、生物多様性レベル、および特定の種の存在に関する重要なデータとなる。

半自律型のシステムにより、手間をかけずに広範囲かつ効果的にモニタリングを可能にしたDNAirの技術は、世界の需要に応える革新的なサービスと言えるだろう。

生物多様性の保全と回復は、「経営戦略の優先事項」へ

会場で出会ったスタートアップ企業は、革新的な方法で生物多様性をモニタリングする事業内容が多かったように感じた。背景には、2022年12月に採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」で、企業の事業活動における生物多様性への影響に説明責任が示され、2023年9月にはTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が生物多様性に関する情報開示の枠組みを公表するなど、世界的に自然情報開示の需要が急増していることがあるだろう。

大気中の環境DNAやミツバチが集めた花粉を生物多様性の測定に利用したり、ドローンを使ったマングローブの植林や、新しい生物多様性ネットゲイン(BNG)の手法に関するビジネスなど、直面する課題にテクノロジーを活用して迅速にアクションを起こす起業家たちからは、多くの学びがあった。

パネルディスカッションでは、「Reducing The Biodiversity Footprint Of Business(ビジネスにおける生物多様性フットプリントの削減)」の議題で、企業のサステナビリティの最前線に立つ3人のプロフェッショナルが、それぞれの視点で熱い議論を繰り広げていたのが印象に残った。

自然界は、無限の創造性と製品の原料を提供してくれます。そのため、生物多様性を損なうことはビジネスのマイナスとなります。生物多様性の保全と回復は、「社会的に良いこと」だから行うのではなく、「経営戦略の優先事項」として行う必要があります。(Kering社、サステナビリティプログラムディレクター Géraldine Vallejo氏)」

数年前は、生物多様性に関して抽象的な情報しかありませんでしたが、今は情報があり、国際的な目標が定められ、取り組むためのツールがあります。今、その目標を実現するための行動を起こす時です。(CDC Biodiversité社、生物多様性フットプリント測定責任者Arthur Campredon氏)

事業活動において、サプライチェーン全体で生物多様性の回復に責任をもち、完全に循環経済にシフトしなければなりません。このことについて、一人ひとりが命がけで取り組むべきです。なぜなら、私たちの命は自然界に依存しているのですから。(NatureRe Capital AG、パートナーStefanie Hauer氏)

日本でも、 2023年3月に「生物多様性国家戦略 2023-2030」が策定され、2024年4月には生物多様性増進活動促進法が可決された。今後、全国で生物多様性の維持、回復・創出の試みが誕生する中、その測定や分析の需要も高まるだろう。ここで紹介したスタートアップ企業が、新たなビジネスのアイデアやコラボレーションにつながれば幸いだ。

【関連サイト】ChangeNow公式ホームページ
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