“菌”が食べて分解する、次世代型おむつ

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赤ちゃんや高齢者の生活に欠かせないおむつ。一日何枚も使うこの消耗品が、大量に使い捨てられることで、結果的に環境に大きな影響を与えていることをご存じだろうか。世界では毎分30万枚以上の紙おむつが廃棄されている。その多くには、衛生性や耐久性を高めるためのプラスチックが含まれているが、適切に処理されない場合、自然に分解されるまでに400〜500年を要するとも言われ(※1)、気候変動への影響も指摘されている(※2)

こうした問題に挑んでいるのが、アメリカ・テキサス州オースティンに拠点を構えるスタートアップ企業・HIRO Technologiesだ。同社は、プラスチックを“食べる”菌類を活用することで、環境負荷を大幅に軽減できる紙おむつを開発した。

 

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HIROの提供するおむつは、12時間の着用が可能な高性能設計で、無漂白コットン製のウェットティッシュ、そして「HIRO Pouch」と呼ばれる菌入りの小袋がセットになったサブスクリプション形式で販売されている。使用後、この小袋とおむつを一緒に廃棄することで、小袋内の菌が尿や便に含まれる水分に反応し、内部からおむつの素材を分解し始めるという仕組みだ。

この菌類は、2011年に発見されたプラスチック分解菌をベースにしている(※3)。分子レベルでプラスチックをターゲットにするため、特別な工業用コンポスト施設や高温処理を必要とせず、自然環境下で数週間から長くても一年以内に土へと還るよう設計されている。もちろん、赤ちゃんの肌への安全性にも配慮されており、菌類はおむつとは別の小袋に配置されているため、直接肌に触れることはない。

この技術は高く評価され、HIRO Technologiesは2024年に衛生分野における革新的なテクノロジーを表彰する「ハイジェニックス・イノベーション・アワード」を受賞した。現在は紙おむつにとどまらず、廃棄物処理施設や埋立地を運営する企業との連携を進め、他のプラスチックごみへの応用も視野に入れている。

HIROのおむつは、菌による分解という革新的な仕組みを持ちながら、土に還すためには適した環境が必要となる。都市部ではその機能を十分に活かしきれないケースもあるだろう。それでも、使い捨て前提の衛生用品に一石を投じるこの技術は、育児や介護のあり方を含め、より持続可能な選択肢を私たちに提示している。完璧ではなくとも、その挑戦が新たなスタンダードを生んでいくかもしれない。

※1 How Long Does It Take for Plastic to Decompose? Chariot Energy
※2 Disposable nappies are one of the biggest contributors to plastic waste – but how green are the alternatives? World Economic Forum
※3 The Untapped Potential of the Amazon’s Plastic-Eating Mushroom Earth・Org
※4 Plastics – fueling oil demand, climate change and pollution Climate action United Nations
【参照サイト】HIRO
【参照サイト】These diapers use plastic-eating fungi to biodegrade
【参照サイト】This US Startup Debuted Sustainable Diapers That Decompose, Thanks to Fungi
【関連記事】単一素材だからリサイクルも簡単。藻由来の布を使ったサステナブル布おむつ「Sumo」

Edited by Megumi

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