“ケアされる人”から“表現する人”へ。高齢者が作ったアート作品をバーチャル美術館で展示

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2024年、日本の高齢化率はついに29.1%に達し人口の約3人に1人が高齢者になった(※)。この急速な高齢化の中で、深刻化しているのが高齢者の孤立だ。身体的な衰えや移動の困難さに加え、社会との接点が減少することで、感情や記憶までもが内に閉じこもってしまう。そんな状況に対し、日本国内でもさまざまな対策が求められている中、同様の状況を抱えるフランスではアートを通じた新たなアプローチが注目を集めている。

Hello Art Upは、フランス国内の医療・介護施設で展開されるアートプロジェクトだ。施設の高齢者が、家族や職員とともに作品を制作し、“表現者”として自らの想いや記憶を社会に発信していく。作品はオンライン上の「バーチャル・ミュージアム」に展示される。かつて「ケアされる人」として日常を送っていた彼らが、“創る人”や“伝える人”として、新たな役割を得ているのだ。

この取り組みは、単なる余暇活動にとどまらない。例えば、認知症を患う人にとっても、制作過程で過去の記憶がよみがえったり、色や形を通じて記憶や感情が引き出されたりする。

誰かと一緒に創る体験は、「どんな色にしよう?」「昔はこういう風景を見たね」などといった会話が生まれ、笑顔ややり取りが増えるだろう。また、自分の作品が多くの人に見られることで、高齢者の自己肯定感も高まるという。

さらに、Hello Art Upはテクノロジーも積極的に取り入れている。参加者はタブレットやVRゴーグルを使い、自らの作品を仮想空間に展示する。作品は他施設の入居者や家族とも共有され、離れていても作品を介して交流が生まれる。移動が難しい高齢者にとって、デジタル技術は「出会い」「共有」「共感」を可能にする新たな手段となるのだ。

「できないことが増える」日々の中で、「まだできることがある」と気づける時間が生まれることは、人々の暮らしに新たな楽しみをもたらす。「ケアする・される」という一方向の関係にとどまらず、「共に創る・感じる」関係性へと広がるこの試みは、福祉の現場における創造性と技術の融合を体現していると言えるだろう。

令和6年版高齢社会白書(全体版)(PDF版) – 内閣府
【参照サイト】Hello Art Up
【参照サイト】Hello Art Up : quand l’art devient un lien, une mémoire, une émotion…
【参照サイト】Hello Art Up Le Musée virtuel inclusif : un formidable outil créateur de liens ! 
【参照サイト】Metagellan builds an inclusive museum for seniors in the Metaverse for Hello Art Up. 
【関連記事】自宅でのアート鑑賞が、孤独を和らげる?高齢者×バーチャルミュージアムの可能性  
Edited by Megumi

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