マナーを守る人が得をする。鉄道の切符を宝くじに変える、インドのタダ乗り撲滅キャンペーン

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インドでは、列車は通勤や通学に欠かせない存在だ。しかし、ムンバイを中心とした人口密度の高い都市部では、有人の改札システムや混雑による監視の限界により、無賃乗車が日常的に横行しているという。駅によっては改札すら存在せず、ホームに自由に出入りできる場所もあるといい、規定の運賃を支払わずに乗車する人は、年間で数百万人にのぼるとも言われる。この莫大な損失は、鉄道当局にとって長年の課題であった。

ムンバイの駅の様子

Image via Shutterstock

そんな状況に一石を投じるべく、インド鉄道と西部鉄道ゾーンが打ち出したのが「Lucky Yatra(ラッキー・ヤートラ)」キャンペーンだ。

このキャンペーンは、通勤列車の正規チケットを購入した乗客に抽選で最大5万ルピー(約9万円)の賞金が当たるという“鉄道くじ”のような仕組みで、切符の購入をポジティブな体験に変えるものである。2025年5月中に開始され、まずは8週間試行される。

アイデアを仕掛けたのは、広告代理店・Leo Burnett India。キャンペーンについてのcotwの記事によれば、インドでは年間300億ドル以上が宝くじに費やされており、人生を変えるような大当たり追い求める宝くじが文化的に定着している。

同社はこうした傾向を逆手に取り、鉄道会社の協力のもと、日々の通勤がまるで「運試し」のようなワクワクした体験になるような名称やビジュアルを設計した。インドにおいて「Yatra(旅)」は精神的な意味を持つ言葉であり、それが「ラッキー(運)」と組み合わせることで、切符を単なる乗車証ではなく、“希望の象徴”に変えることを意図したキャンペーン名をつけたのだという。

同キャンペーンでは、情報管理の仕掛けも巧妙だ。抽選の対象となるのは、インド鉄道の公式アプリやオンラインサイトを通じて購入されたデジタルチケット。これは紙の切符よりも不正利用のリスクが低く、利用データもトラッキングしやすいため、今後のスマート交通戦略の一環としても機能している。

実際に、キャンペーン開始から数週間で、ムンバイ地域の正規乗車率が目に見えて改善されたという報告も出ており、成功例として国内外の注目を集めている。

インド鉄道は、今後もこのキャンペーンを他地域に拡大する予定だ。無賃乗車の抑止という側面から、社会全体の“モラル”に働きかけるこの施策。切符一枚が、乗客のマインドセットを変えるきっかけになるかもしれない。

【参照サイト】India unveils genius idea to fight transport fraud
【参照サイト】Lucky Yatra: How Indian Railways Turned Train Tickets into Lottery Tickets to Curb Fare Evasion
【参照サイト】Win Rs 10,000 Daily, Rs 50,000 Weekly: From Penalty to Possibility- Mumbai Railways Turns Train Tickets into Lottery for Better Compliance
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