ヨーロッパのグリーンなモビリティ革命。パリでは電動キックボードが禁止に【欧州通信#21】

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近年ヨーロッパは、行政およびビジネスの分野で「サステナビリティ」「サーキュラーエコノミー」の実践を目指し、さまざまなユニークな取り組みを生み出してきた。「ハーチ欧州」はそんな欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、日本で暮らす皆さんとともにこれからのサステナビリティの可能性について模索することを目的として活動する。

ハーチ欧州メンバーによる「欧州通信」では、メンバーが欧州の食やファッション、まちづくりなどのさまざまなテーマについてサステナビリティの視点からお届け。現地で話題になっているトピックや、住んでいるからこそわかる現地のリアルを発信していく。

前回は、「エシカルなカフェ」をテーマに、欧州へ旅行する際にはぜひ訪れてほしい、おすすめのカフェをご紹介した。今回のテーマは「モビリティ・交通機関」。欧州グリーンディールをはじめ気候変動対策の一環として交通機関の改善が急がれる今、各国がどのような分野に注力しているのかをご紹介したい。

【イギリス】車両を制限する「超低排出ゾーン」が拡大。大気汚染は改善されている?

Image via Shutterstock

ロンドンのUltra Low Emission Zone(以下、ULEZ)は、CO2排出量が多い車両に対して中心地域への進入に料金を課す制限エリアだ。これは、24時間365日運用され、ロンドン市内の多くの地域をカバーしている​​。ULEZの拡張は、ロンドンの大気質を改善するために2019年に導入され、2023年8月29日にはすべてのロンドン区域に拡大された​​。

ULEZの拡張が市民の健康に寄与しているという研究結果も出ている。ULEZの拡大がロンドンで運転されるディーゼル車両の数を削減するのに非常に効果的であったことを示す報告書も発表されており、また、バース大学のチームによると、2008年のLow Emission Zone制度開始と、2019年のULEZの導入により、粒子状物質が減少したとされている。

しかし、ULEZの拡大には懸念も存在する。特に経済的な影響が心配されており、ロンドン郊外に住む運転手は、車両が要求された排出基準を満たしていない場合、一日12.50ポンド(約2,310円)の料金を支払う必要がある​​。それに対し、市民からは「経済格差を助長する」「生活苦がますます深刻になる」などの声が上がっている。このような懸念から、英国首相が慎重な検討を要請していたり、労働党が他の選択肢の検討提案をしていたりするのが現状だ。

【参照サイト】The Ultra Low Emission Zone (ULEZ) for London|Mayor of London
【参照サイト】New report shows ULEZ expansion is working with 95 per cent of vehicles across inner and outer London now compliant with clean air standards|Mayor of London
【参照サイト】London’s low emission zones have improved air quality, study suggests
【関連記事】排ガスの多い車はお断り。ロンドンが街全体を「超・低排出ゾーン」へ

【フランス】パリ市が歩行者保護のため、電動キックボードを禁止

世界の都市に先駆け、2018年から電動キックボードのシェアリングサービスが展開されてきたパリ市で、2023年6月に新しい道路法が発表された。12項目にわたる規則では、自動車やマイクロモビリティの利用者に向け、歩行者優先や、速度規制の順守を求め、違反者の取り締まりも徹底する。また、歩道の拡幅工事を進めるほか、歩行者優先の表示を増やすなど、歩行者が安心できる街づくりを目指している。

そこで問題になっていたのが「電動キックボード」だ。事故の増加や利用者のマナーの悪さが問題となり、住民投票の結果、2023年8月末にシェアリングサービスは中止となった。ただし、個人所有の電動キックボードや、公共の電動自転車シェアリングサービスは引き続き利用可能だ。そのため、パリ市民からは、さらに歩行者の安全性を求める声が強まっている。

「15分都市」というコンパクトなまちづくりを目指すパリは、これまで精力的に自転車レーンの整備を進めてきた。今後は、より歩行者に焦点をあてた施策が進められていく。一部の市民からは、その急進ぶりに懸念の声も上がっているが、気候変動や大気汚染への対策が急がれる中、後戻りする選択肢はないだろう。

シェアリングサービス中止後の電動キックボード駐輪エリア Photo by Masae Tago

【参考サイト】Un « Code de la rue » pour redonner la priorité aux piétons
【参照サイト】CODE DE LA RUE|VILLE DE PARIS
【関連記事】パリ市長、職場も買い物にも「15分でいける街」計画を発表

【ドイツ】鉄道利用の促進に注力するドイツ。定刻通りの発着がカギとなるか

Image via DB

ドイツ政府は、鉄道促進に向け助成金を提供するとともに、長距離旅行の鉄道乗車券への消費税引き下げや、一定距離移動における航空交通料金引き上げなどの政策を展開している。欧州委員会が公表した交通戦略においても、EUは2030年までに高速鉄道の交通量を2倍にし、2050年までに3倍にするという目標が定められた。

こうした国内外の動きに対し、ドイツ鉄道はさまざまな取り組みを進めている。2022年、ドイツ鉄道は政府支援のもと、国内すべての近距離交通・普通電車を月9ユーロ(約1,500円)で利用できる切符を3カ月間販売。同サービス提供の目的は高騰する生活費への支援で、期間中5,200万枚の切符を販売した(※1)。このほかにも、特急列車への家族用個室の設置、14才までの子どもが家族とドイツ鉄道を利用するときの運賃免除など、持続可能性向上に向けた取り組みを積極的に実施している。

しかし、約3割のドイツ人は電車利用を好まないとする調査結果がある(※2)。その理由は、鉄道が定刻通りに来ないことが多いためだ。ドイツ鉄道傘下で長距離旅客列車を運行するDB Fernverkehrでは2022年、定刻から6分未満の遅れで到着した電車は65%の電車のみだった(※3)。スイス連邦鉄道は今夏、ドイツでの長距離列車の遅延増加を理由に、国境の街バーゼルでドイツからスイスへの直通便の一部を廃止すると発表している。

ドイツの鉄道利用促進に向けて、まず取り組むべきは定時性向上といえそうだ。

※1 9-Euro-Ticket 52 Millionen Mal verkauft
※2 Price and unreliability are the biggest drawbacks when traveling by train|Statista
※3 Share of punctual trains of Deutsche Bahn Fernverkehr AG from 2012 to 2022|Statista

【スペイン】歩行者フレンドリーなバルセロナでも、使わざるを得ない車。市民のストレスを高めない「道の工夫」とは

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スペイン・バルセロナといえば、サグラダ・ファミリアをはじめとしたガウディ建築を思い浮かべる人が多いかもしれないが、歩道に使用される花柄のタイルもこの街を象徴するものの一つである。世代を超えて市民に親しまれているこのタイルも、より環境負荷を軽減できるよう進化している。

今年より導入された最新技術を駆使した3種類のコンクリート製のタイルは、美しいデザインは変わらない。タイルは、コンクリートの廃棄物である骨材やセメントなどのリサイクル素材からできている。その上、車両が通る際の騒音軽減、都市のヒートアイランド現象の影響緩和し、大気中の温室効果ガスの中和などの効果が期待されている。また、透水性が高く、耐久性に優れている。

このタイルは市内のグリーン・ハブ内の2,500平方メートルのエリアに導入され始めている。新しいタイルは一年かけて評価され、その効果が認められれば、今後の建設現場などで導入される予定だ。街を歩いているだけでは気づかないが、少しずつ街もサステナブルになっているのかもしれない。

【参考サイト】More sustainable, durable and resilient concrete paving stones are starting to be used
【関連記事】再び「市民」を街の主人公に。バルセロナの新しい街づくり「Superblock Project」

編集後記

都市部でより環境負荷の少ない移動を実現するには、車の規制に併せて、公共交通機関を安心して利用できる環境を整えることがカギとなりそうだ。そして、それはまちづくり全体や市民の日常生活と大きく関わってくる点でもある。気候変動対策を実現しながら暮らしやすいまちをつくるには、まだまだ課題が山積しているようだ。

ドイツ鉄道の定時性の話を聞くと、ほぼすべての列車が時間通りに発車する日本の電車は、利用するハードルが非常に低いだろう。一方で、高齢化が進み車に依存しやすい地方では、公共交通をいかに維持していくかが大きな障壁にもなっている。地域ごとの人と暮らしに合わせたモビリティのあり方を見つめ直すことが大切だ。

Written by Megumi, Masae, Ryoko Krueger, Risa Wakana
Presented by ハーチ欧州

ハーチ欧州とは?

ハーチ欧州は、2021年に設立された欧州在住メンバーによる事業組織。イギリス・ロンドン、フランス・パリ、オランダ・アムステルダム、ドイツ・ハイデルベルク、オーストリア・ウィーンを主な拠点としています。ハーチ欧州では、欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、これからのサステナビリティの可能性について模索することを目的としています。また同時に日本の知見を欧州へ発信し、サステナビリティの文脈で、欧州と日本をつなぐ役割を果たしていきます。

事業内容・詳細はこちら:https://harch.jp/company/harch-europe
お問い合わせはこちら:https://harch.jp/contact

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