世界のソーシャルグッドな広告7選【2022年の最注目アイデア】

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私たちの日々の生活を取り巻く、あらゆる広告。街を歩いていてもスマホを見ていても、目にしない日はないだろう。無意識のうちに私たちの日常の選択や行動に影響を及ぼす広告には、企業のブランドメッセージを伝えるという役割を超えて、社会の価値観や文化を形づくる力がある。

気候変動の文脈でも、人々に環境により良い行動を促す方法として、広告やマーケティングの力が期待されている。一方で、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が「企業はイメージアップ広告やブランド戦略ばかりしており、その社会的責任を十分に果たしていない」と指摘するように、広告を利用したグリーンウォッシュへの目もより厳しくなってきていると言える。

本記事では、日頃から世界のソーシャルグッド事例を配信するIDEAS FOR GOODが2022年に注目した、ユニークなアイデアをまとめてご紹介していこう。

世界のソーシャルグッドな広告・マーケティングアイデア7選

01.無意識のジェンダーバイアスに気づかせる広告

「社長」と聞いて思い浮かべるのは?無意識のジェンダーバイアスを問うロンドンの広告


『「社長」を想像してください。それは男性ではありませんか?』

ロンドンの街角に突然現れたのは、ハッとする問いかけが大きく書かれたシンプルなポスター。私たちが持つ無意識のジェンダーバイアスに気づかせるために広告代理店のCPBロンドンが3月の国際女性デーに合わせて企画したキャンペーンだ。同社は、国内への独自調査により古典的な男女の役割についてのバイアスが子どもたちにも浸透していることを知り、性別によって子どもたちがやりたいことを妨げない世界を作るためにこのプロジェクトを実施したという。

見る人の心の内側に意識を向けさせ、ジェンダーについて考えるきっかけを作る秀逸な広告アイデアだ。

02.「聞こえにくい」マイノリティの気持ちをリアルに体感できる広告

「時々、会話についていけない」耳が聞こえにくい人の孤独感を“味わう“広告


続いては、聴覚障害を持つ人々の困難を体験できる、イギリスの菓子・飲料メーカーCadburyの動画広告。

動画は女性が手話で語りかけるところから始まるが、その後は手話の意味を表す字幕のところどころに邪魔が入り、見る人には彼女が何を言っているのか完全には理解できない。女性が話を終えると、動画は「話に置いてけぼりになったように感じましたか? そんな孤独感を抱く人が一人でも減るように、できることから始めましょう」という字幕で締めくくられる。

Cadburyは難聴児を支援する団体と共同でこの動画を制作し、広告に合わせてウェブサイト上で手話のレッスン動画や耳が不自由な人とのコミュニケーションのヒントを掲載するなど、総合的な支援につなげる施策を行っている。動画の視聴体験を工夫することで多様性社会を後押しする、優しいアイデアだ。

  • 国名:イギリス
  • 団体(企業)名:Cadbury
03. 街の景観を汚す落書きを、アートに変えるキャンペーン

街を汚す落書きを、アーティストが上書き。南米ペルーの「芸術的」なPR施策


落書きが多いことで、強盗や窃盗などの犯罪が多発していた南米ペルーの首都リマ。そこでアルコールブランドMike’s Hard LemonadeがクリエイティブエージェンシーOgilvyのペルー支部と共に行ったのが、地元アーティストたちの手を借りて街の落書きを「ストリートアート」に昇華させる広告キャンペーンだ。

それぞれのアートに描かれたキャラクターが持つスプレーには同社のロゴがしっかりと描かれており、街の景観を良くしながら自社ブランドの宣伝につなげている。また同社はこのキャンペーンを通して、街に落書きをする若者たちに、人生においてより前向きな視点を持ってほしいと呼びかけている。広告そのものを社会課題の解決に活用する、ユニークな事例と言えよう。

04. KFCに「騙された」乳がんチェックを啓発する広告

「一つ買うと一つ無料」に隠されたメッセージとは?KFCの乳がん検診啓発キャンペーン


中南米の国コスタリカでは、女性の乳がんでの死亡率の高さが課題となっている。そこで、一見乳がんと関係なさそうな企業であるケンタッキーフライドチキンが10月の国際乳がん対策デーに合わせて一大キャンペーンを行った。

同社は「一つ買うと一つ無料(buy 1 get 1 free)」の文字を大きく強調したポスターを街中に貼り付けたが、注文しても無料の商品は出てこない。それもそのはず、目立たないところに「このプロモーションは無効です。このようにチェックを怠ると乳がんも発見できません。自己診断を行い、定期的に医師の検診を受けましょう。」という文言が書かれているからだ。

ドッキリに引っかかってしまった人を写すプロモーション動画はSNSで大受けし、検査を全く受ける気がなかったコスタリカの女性の72%が検診を始めたという。さらに、同社は2万6千食ものフライドチキンを売り上げた。「騙される経験」をあえて提供することで人々の健康意識を啓発する、新たなアイデアだ。

05. 他の食べ物より「栄養のある」ポスター

街で見かけたポスターに、もし栄養があったら?イギリスの食生活改善プロジェクト


大手食品メーカーのドール・サンシャイン・カンパニーも、イギリス国内で人々の健康意識を高めるユニークな広告キャンペーンを行った。

街中に設置された一見普通のポスターに書かれているのは、「ロゴを含めた全ての文字が、そこにある自販機で買えるチョコレートバーよりも多くのビタミンAとCを含んでいます。なぜなら、このインクはグレープフルーツとブルーベリーで作られているから」という言葉。廃棄されるフルーツから作ったインクを使い薄いポスターの文字として栄養を可視化し、、普段自分たちが口にしている食べ物の栄養素に目を向けさせるユニークな仕掛けだ。

06.自社製品の危険性をユニークに伝えるウォッカブランド

飲酒「しない」ことを勧める、スウェーデンのウォッカブランド


広告では、自社の製品をもっと買ってもらうためのメッセージを届けるのが一般的だ。しかし、全く逆のメッセージを消費者に届けるマーケティングを試みるのが、スウェーデンのウォッカブランドAlcoholic Vodkaだ。

同社は自社のウェブサイトや商品を通して消費者に「飲酒しないこと」を勧めており、ウォッカボトルには、人体模型のイラストが大きく印刷され、飲酒が悪影響を及ぼしうる身体のパーツには赤い三角形の警告表示マークが示されており、裏側には、飲酒がそれぞれの臓器へ与えうる負の影響が丁寧に説明されている。さらには、ラベルをポスターとしても印刷できるようにするなど、真剣な啓発を行っているのだ。

自社が販売する商品の危険性を認識し、人々に伝えたうえで透明性のあるビジネスを行う。Alcoholic Vodkaの姿勢に学べることは多いのではないだろうか。

07.街中に仕掛ける驚きで飢餓対策の資金を集めるドバイのキャンペーン

車のナンバーが消えた?ドバイで飢餓を啓発する「空のプレート」キャンペーン


アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで断食を行うラマダンの期間に行われたのは、一風変わった飢餓啓発キャンペーンだった。

この期間、街中の駐車場や路上には、「何も書かれていない」ナンバープレートの車が出現。これは私たちがつい忘れ去ってしまう8億の貧しい人々にとっての「空の皿」を表現しており、ナンバープレートのオークションを行うことで富裕層から飢餓対策の資金調達を行なったのだ。

結果、1回目のオークションでは1枚のナンバープレートが3,500万ディルハム(約12億円)で落札され、わずか2時間で5,300万ディルハム(約18億円)の資金調達に成功。目を惹くビジュアルで特定の層の注目を集め、社会とって良いお金の流れを作り出す。斜め上を行くアイデアに、多くのヒントが得られるのではないだろうか。

まとめ

いかがだっただろうか。2022年は多様性やジェンダーといった社会的な文脈にアプローチする広告を比較的多く取り上げてきた。一方で、化石燃料を扱う企業の広告制作を拒否するアクティビズム、オランダのハーレム市における世界初の肉の広告の禁止など、気候変動に悪影響を及ぼす商材の広告を締め出す動きも多く目にした。クリエイティブ業界にも環境配慮や社会性が求められるようになってきている流れはますます加速していると言って良いだろう。

2023年も、企業のイメージ向上や商品の販促だけではなく、その過程で社会もよくする広告がますます生まれてくることを期待したい。