「下水からできたインク」で署名。海洋汚染への“汚れた抗議”キャンペーン

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世界で、下水のうち未処理で海に排出されている割合は何%か知っているだろうか?答えはなんと、80%以上だ(※1)

下水による水質汚染の問題を抱える国の一つが英国である。

英国を含むヨーロッパの多くの国々では、トイレや浴室、台所などからの生活排水が雨水と同じパイプで下水処理場に送られる仕組みになっている。この場合、大雨などでパイプの許容量を越える大量の水が下水管に流れ込むと、処理施設がそのすべてを処理しきれない場合がある。その際、周辺の住宅や道路などへの逆流を防ぐため、河川や海に未処理の下水が放流されてしまうのだ(※2)

海洋保護団体・SURFERS AGAINST SEWAGEの調査によると、2022年、英国では未処理の下水が川や海に少なくとも約40万回、つまり1日に約1000回も流出しているという。この大量の未処理下水の放流は、海水浴場を含む水域の水質に深刻な影響を及ぼしており、人気のある海水浴場の60%が最低限の安全要件すら満たしていないと報告されている(※3)

この問題に対処しようと立ち上げられたのが、「The Dirty Protest(汚れた抗議)」キャンペーンだ。これは、下水からインクを作成し、それを使って海洋汚染に反対する嘆願書を印刷するというもの。ロンドンを中心として活動する「Uncommon Creative Studio」が立ち上げた国際キャンペーンである。

「Shit Ink(クソみたいなインク)」と呼ばれるインクは、海につながる排水管周辺の下水を使って作られる。キャンペーンページからオンライン上で署名すると、この「Shit Ink」を使って署名が印刷されるのだ。署名数が100万件に達すると、各国の政治家や欧州議会を始めとする政府間組織に送付される予定である。

このキャンペーンで最初に署名したのは、欧州議会・水グループの議長を努めるPernille Weiss氏だ。彼女はアンコモン・クリエイティブ・スタジオのX(旧Twitter)にて「未処理の下水が海に流れるのを阻止するために、署名しました。皆さんにも署名してもらう必要があります。そうすれば全ての政治家たちにこの問題は無視するにはあまりにも大きく、重要なものだと示すことができます」と語っている。

日常的に水質汚染の現場に赴き、問題を認識することは難しい。しかし、普段使っているデスクの上に直接「下水」が届けば、誰だって課題に目を向けざるを得なくなるだろう。


※1 More than 80% of the world’s sewage is discharged into the environment untreated. We can fix this(OCTO)
※2 Combined Sewer Overflows Explained(GOV.UK)
※3 WATER QUALITY REPORT 23(SURFERS AGAINST SEWAGE)

【参照サイト】The Dirty Protest
【参照サイト】Uncommon Creative Studio
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