蛇口をひねれば水が流れ、スイッチ一つで洗濯が終わる。そんな便利な日常の裏側で、世界人口の最大50%は現在も手で衣類を洗っている(※1)。この見えにくい重労働は、低所得地域や避難民コミュニティにおいて、特に女性や少女たちに不均衡にのしかかる。週に最大20時間もの時間を奪い、教育や就労の機会を阻害するだけでなく、長時間かがんで作業することで身体的な苦痛をもたらす(※2)。
清潔な衣類を確保することは、衛生面さらには尊厳を保つ上でも大切。しかしそれは、高価な洗濯機がない限り、誰かが負担を負わなければいけないのだろうか。
この問いに一つの答えを示すのが、「手洗いの負担をなくす」ことをミッションに掲げるイギリスの社会的企業・The Washing Machine Project(TWMP)が開発した、電力不要の手動洗濯機「Divya」だ。洗い方は、座ったままハンドルを回すだけ。手洗いと比較して洗濯時間を最大75%、水の使用量を最大50%削減する。
開発当初は、葉物野菜の水気を飛ばすサラダスピナーの設計から着想を得て、化学薬品ドラムを再利用した試作機から始まったが、現地での対話を重ねることで形を改善。最新モデルでは、故障しやすい変速装置をあえて廃止し、現地の基本的な工具で誰でも修理可能な「アンダーエンジニアリング(過剰な技術を避けた設計)」を採用。世界初のフラットパック(組立)式として輸送効率を高め、商用グレードの耐久性とリサイクル可能性も両立させている。

Image via The Washing Machine Project

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開発のきっかけは、創設者Nav氏がインド滞在中、隣人のDivyaさんが洗濯に追われ、働く機会を失っている姿を目の当たりにしたことだったという。「彼女のために洗濯機を作る」という思いから始まったこの事業は、単なる家事の効率化を超え、人々の時間と未来を取り戻すための技術となったのだ。
その進化の過程には、常にユーザーの声があった。開発チームはインドやウガンダでのフィールドワークを通じ、ユーザーのニーズや些細な行動を製品に反映させてきた。例えば、襟や袖口の汚れを落とすために現地の女性たちがブラシを使っている実態を知った研究開発リーダーのLaura氏は、蓋の裏面に凹凸をつけてスクラバー機能を統合。また、大きな毛布を洗いたいという声に応えて投入口を広げたり、共同利用での待ち時間を減らすために排水時間を3分に半減させたりと、改良は多岐にわたる。洗濯機が家から家へと貸し出されたり、ビジネスのために運搬されたりする実態に合わせて、車輪もより頑丈なものへとアップグレードされた。

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こうした思いやりから生まれた機能は、世界13カ国以上、5万7,000人以上の生活に変化をもたらしている。ウガンダでは、19歳の少女が洗濯代行ビジネスを始めて進学費用を貯めているようだ。
腰痛からの解放、学習時間の確保、そして新たな収入源の創出。TWMPが提供しているのは洗濯機というハードウェアではなく、誰もが学びや健康を手に入れることができる暮らしの仕組みなのだ。
※1 The Washing Machine Project
※2 The Washing Machine Project – The Story So Far…|The Washing Machine Project YouTube
【参照サイト】The Washing Machine Project
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