窓から「3本の木」が見える幸せを、国の基準に。健康をデザインするオランダの都市計画

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朝、カーテンを開けたとき、あなたの目に飛び込んでくるのはどんな景色だろうか。隣のビルの無機質な壁か、それとも風に揺れる木の葉か。生活のなかで、私たちが「なんとなく息苦しい」と感じたり、逆に「ふと心が軽くなる」と感じたりする瞬間、そこには必ず周囲の環境が影響している。

しかし、こうした心の機微や心地よさは、これまで都市計画の現場では優先順位の低い「ソフトな価値」として扱われ、効率性や経済性の影に隠れがちだった。そんな中オランダは、この抽象的な幸福感を科学的な根拠に基づく「ハードな数値基準」へと変換し、国の設計指針として定義するという大胆な一歩を踏み出した。

オランダ国立公衆衛生環境研究所(RIVM)は、すべての国民が健康で快適に暮らすための公共空間設計に関する新たな指針を発表。この指針の最大の特徴は、運動や緑、交流といった健康に寄与する要素を、具体的な距離や数で規定した点にある。

例えば、すべての住宅から200メートル以内に子どもの遊び場を確保し、300メートル以内には少なくとも1ヘクタールの運動可能な緑地を配置することを求めている。さらに、自宅の窓からは必ず自然が見えるべきだとしており、具体的には「3本の木」や緑の壁、あるいは庭が視界に入ることを推奨した。

実は、このような人々と緑との距離感は、「3-30-300ルール」と呼ばれる科学的な仮説として、近年都市計画の専門家の間で注目を集めてきた(※)。自宅から3本の木が見え、近隣の30%が緑に覆われ、300メートル以内に公園があることがメンタルヘルスを劇的に改善するという理論だ。スペイン・バルセロナなどの研究でもその有効性が示されてきたこの知見を、オランダ政府は単なる理想に留めず、国家の設計指針へと昇華させた。

Image via Shutterstock

また今回の指針では、身体的な健康だけでなく、現代社会の大きな課題である「孤独」を防ぐための工夫も数値化された。人々が立ち止まって会話を楽しめるよう歩道の幅を広げ、125メートルごとに日陰のあるベンチを設置する。ベンチは広場の端など「眺め」がある場所に配置し、さらにアート作品やオブジェを置くことで、見知らぬ人同士の会話のきっかけを意図的に生み出す。これらはすべて、人々の行動をより健康的で社交的な方向へと自然に導くための「環境の仕掛け」だ。

この指針は、オランダ保健福祉スポーツ省や各自治体からの要請を受けて策定された。単に美しい景観を作るのではなく、ヒートストレスから住民を守り、メンタルヘルスを向上させ、身体活動を促すという明確な「公衆衛生」の目的が根底にある。

健康を個人の自己管理に委ねるのではなく、都市の設計そのものによって支えていく。オランダが示したこの新しいルールは、都市の価値を経済性だけで測る時代の終焉を告げ、そこに住む人の「健やかな実感」を都市設計の真ん中に据え直している。

The mental health benefits of being able to see three trees from home

【参照サイト】Tree visible from every home: RIVM updates rules for public space
【参照サイト】The mental health benefits of being able to see three trees from home
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