「最近、誰かと心を通わせる会話をしただろうか」そう問いかけられて、即座にイエスと答えられる人はどれほどいるだろう。
現代社会において、「孤独」はもはや個人の問題ではなく、タバコ15本分に匹敵する健康被害をもたらす存在として世界を蝕んでいる。そんな中、北欧スウェーデンから驚くべき解決策が登場した。同国の大手薬局チェーンが、従業員に対して「友達と過ごすための時間」を勤務時間中に提供し、さらにその活動費まで支給するというのだ。
スウェーデンの薬局チェーン「Apotek Hjärtat(アポテック・イェルタット)」が試験導入したこの制度は、スウェーデン語で「友情休暇(vänvård)」と呼ばれる。従業員は月に1時間、あるいは週に15分の勤務時間を、友人との電話やメールや対面での交流に充てることができる。
さらに画期的なのは、この時間が有給であるだけでなく、食事代などの活動費として年間1,000クローナ(約1.5万円)が会社から支給される点だ。会社が「友達と遊ぶこと」に給料を払うというこの試みは、福利厚生のあり方を根本から覆すものだろう。
この制度の背景には、スウェーデンに深く根付く「friskvård(フリスクヴォード)」という文化がある。これは、企業が従業員のフィットネスやマッサージ代を補助する非課税の健康増進制度だ。
同社のモニカ・マグヌッソンCEOは、身体の健康と同じくらい「社会的なつながり」が重要であると考えた。スウェーデンでは単身世帯が40%を超え(※1)、さらに「他人の邪魔をしてはいけない」という文化的メンタリティが孤独を深刻化させているという。友情休暇は、こうした文化的な壁を「制度」によって強制的に取り払い、従業員が再び他者とつながるためのきっかけを会社が与えるものだ。
孤独対策は、いまや国家レベルの喫緊の課題となっている。スウェーデン政府は2025年7月、国内初の「孤独対策国家戦略」を発表し、企業や自治体、研究機関が連携してこの問題に取り組むよう呼びかけた。ヤコブ・フォルスメド保健相は、孤独が心臓疾患や脳卒中のリスクを高め、結果として公的医療費や病気休暇のコストを増大させていると指摘する。
企業にとっても、孤独な従業員は離職率が高く、生産性が低下する傾向にある。逆に、つながりを感じている従業員は潜在能力を最大限に発揮する可能性が3.5倍も高まるというデータもあり(※2)、孤独対策はもはや慈善事業ではなく、合理的な経営戦略の一部となっている。「友情休暇」を取り入れた社員からは、すでに「以前より幸せを感じるようになった」「インターネットの中だけで生きるのをやめるきっかけになった」といったポジティブな声が上がっているそうだ。
ジムで汗を流すのと同じように、大切な友人とコーヒーを飲みながら他愛もない話をすること。そのささやかな時間が、個人の命を救い、ひいては社会全体の経済を支える強固なインフラになる。スウェーデンが描く未来の働き方は、効率性だけを追い求めてきた現代のビジネスシーンに、人間らしい「つながり」という最も重要なピースを埋め戻そうとしているのかもしれない。
※1 The power of one? -The long-term increase in one-person households in Sweden, 1900-2017
※2 The Surprising Power of Simply Asking Coworkers How They’re Doing
【参照サイト】Swedish workers trial ‘friendship hour’ to combat loneliness
【参照サイト】Staff at a major Swedish pharmacy chain are being paid to take time off with friends to combat loneliness—they can even text loved ones during the $100 ‘friendship hour’
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