旅の主役は、犬。ヘルシンキが発表した世界初の「犬専用」観光ルート

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平坦に舗装されたアスファルトの道。靴を履いている人間は、それを「歩きやすい」と感じる。しかし、真夏の太陽に熱されたその表面を、裸の肉球で歩く犬たちはどう感じているだろうか。街に並ぶショーウィンドウや看板。私たちの目線の高さに合わせて設計されたそれらは、ずっと低い位置から世界を見上げる彼らの目にどう映っているのだろうか。

人間が効率や快適さを求めてつくりあげた都市は、そもそも人間以外の生き物の感覚を想定してデザインされていない。私たちが当たり前だと思っているこの世界は、彼らにとって全く違う姿に見えているのかもしれない。もし旅の主役が「人間」ではなく「犬」だったら、街の風景はどのように変わるのだろう。フィンランドの首都ヘルシンキが、その問いにユニークな答えを示した。

ヘルシンキ市は、犬とその飼い主のために特別に設計された、世界初の公式観光ルート「The Doggy Route to Happiness」を発表した。このルートは、2025年8月に開催された「ワールド・ドッグ・ショー」に合わせて期間限定で公開されたもの。これは単に犬が入れる場所を集めたリストではない。ルート全体が、犬の感覚や視点から楽しめるようにデザインされているのだ。

Photo by Pyry Lepistö via MyHelsinki

ルートには、犬たちがリードなしで自由に走り回れる人気の島「ラヤサーリ島」や、犬と飼い主のためのおやつを提供するポップアップカフェ「Café Dogatta」、そして飼い主と一緒に水遊びができるビーチなどが含まれている。

特筆すべきは、そのデザイン思想だ。ルートの選定にあたっては、犬の鋭い嗅覚を刺激するような自然豊かな道や、犬の低い目線でも楽しめるような景色が考慮された。

ルート上には、犬が投げた棒で作られたアート作品「Stickelius Monument」なども。都市の体験を人間中心の視点から解放し、共に暮らす動物のウェルビーイングを本気で考えた結果が示された。

これまで「ペットフレンドリー」を謳う宿泊施設やサービスは数多く存在した。しかし、都市全体で、公式に「犬のため」の観光ルートを整備するという試みは、世界でも前例がない。

私たちのつくる街やサービスは、あまりにも人間だけの都合で設計されていないだろうか。「Helsinki for Dogs」は、人間以外の種と空間をどう共有していくかという、これからの都市デザインにおける重要な視点を投げかける。まずは、これまで人間と多くの活動を共にしてきた犬の視点から、一度まちづくりを考え直してみても良いかもしれない。

【参照サイト】Happy Pets. Happy. Helsinki.
【参照サイト】Helsinki unveils world’s first sightseeing route for dogs
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