人間中心を超えて都市の正義を問う。ヘルシンキが目指す「マルチスピーシーズ・シティ」とは?

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気候変動対策として、さまざまな地方行政においてカーボンニュートラルカーボンネガティブを目指す動きが見られる。日本でも、これまでに991自治体(2023年9月時点)がゼロカーボンシティを目指すと表明した(※1)

フィンランドの首都ヘルシンキも、脱炭素化を進める都市のひとつだ。同市は、2030年までにカーボンニュートラル、2040年までにカーボンゼロ、それ以降カーボンネガティブの維持を目標としている(※2)。ただし、これらの達成に向けて温室効果ガス排出量を減らすための具体策については、まだ模索が続いている。

そんな同市が注目するテーマのひとつが、マルチスピーシーズという概念だ。マルチスピーシーズ(複数種)とは、動植物から微生物に至るまで、複数の生物種における共生を考える概念を指している(※3)

2023年9月、同市は「マルチスピーシーズ・シティ:カーボンネガティブ都市のプラネタリー・プランニングに向けた正義の視点」という報告書を公開。カーボンネガティブな未来の具現化に向けて、地球環境の限界を示すプラネタリー・バウンダリーにもとづき、マルチスピーシーズの視点から見た「正義」という観点の重要性を提示している。

報告書では、プラネタリーバウンダリー内におけるカーボンネガティブを達成するために重視すべき点として、4つの正義が提示された。構造的正義、世代間正義、空間的正義、そして複数種の正義(Multispecies justice)だ。複数種の正義とは、私たちが自然に対して持つ見方や理解を再考させる考え方だ。これは、個々の生物がそれぞれ独立したニーズを持つ単なる個体ではなく、互いに依存し合う存在であることを強調する。つまり、自然界の中のすべては相互に関連し合っており、その相互依存の関係性を理解し、尊重することが重要である。

ヘルシンキ市は、気候変動が急速に進み生物多様性が失われている現状を鑑みて、マルチスピーシーズの観点からのアプローチが必要であると指摘。人間中心の考え方から脱し、施策を実施する・しないことがもたらす影響を計測し、生態系や他の種の生活環境が改善するようにすべきであると記されている。

マルチスピーシーズに着目したヘルシンキでの取り組みは、これだけではない。ヘルシンキ大学やトゥルク大学の研究員で構成されるチームは、MUST(Multispecies transitions:マルチスピーシーズ・トランジション)という組織を設立した。マルチスピーシーズ・トランジションとは、人間と他の種が、異なる人々のグループや他の種のあいだで不平等や大きな苦しみを感じることなく、相互にウェルビーイングを支え合うような新しい生き方に適応することだという。

同組織は、研究の蓄積だけでなく、美術館での展示やワークショップを通じて市民を巻き込むMUST Festivalや、地方行政やビジネス界との対話を生むMUST Forumなどのイベントも開催し、多様なアプローチを図っている。MUSTのメンバーは、フィンランド、イギリス、インドネシアの3ヵ国から集っており、地域を超えてマルチスピーシーズの知見が共有されていくだろう。

気候変動のおもな原因は、人間の経済活動であると言われている。その課題を乗り越えるには、人間を中心とした視点から脱却する必要があるだろう。多様な種の声を取り入れてこそ、より本質的な解決策に近づけるのではないだろうか。

※1 地方公共団体における2050年二酸化炭素排出実質ゼロ表明の状況|環境省
※2 Climate goals and monitoring – Carbon-neutral Helsinki – Helsingin Ilmasto
※3 「持続可能性」の定義を「マルチスピーシーズ」の概念から問い直す-人類以外の生物種との共存共栄が鍵-|総合地球環境学研究所

【参照サイト】Multispecies city: Justice Perspectives for the Planetary Planning of a Carbon-negative City – Summary of expert discussions
【参照サイト】must: Enabling multispecies transitions

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