都市と地方の「あいだ」をつむぐ。 徳島発・あわい商店が実践する、温もりのある地域活性

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徳島県阿南市。海と山が折り重なり、川の流れのように緩やかな時間が流れるこの土地では、大都会とは異なるリズムが根付いている。

「ここに来てから、空や山をぼんやり眺める時間が増えました。大阪にいた頃は、今よりも騒がしい日々を過ごしていたような気がします」

そう語るのは、大阪から移住し、あわい商店で働く西原茉莉枝氏だ。

隣で静かに頷くのは、代表の小柳秀吉氏。東京と徳島を行き来しながら、地域に眠る価値を「旅(タビ)」と「物(モノ)」の両面から丁寧に紡いできた人物である。

宿泊施設運営と観光プロデュースを担う「トリップシード」、そして地域商社「あわい商店」。小柳氏が手がける二つの事業の根底にあるのは、都市部の消費者と地方の生産者のあいだに生まれた溝をもう一度やわらかくつなぎ直すというミッションである。

私たちが失いつつある「人間らしいリズム」と「確かな手触りのある信頼」。それを取り戻すヒントを探るため、二人にお話を伺った。

話者プロフィール:小柳秀吉氏

小柳秀吉氏株式会社トリップシード/あわい商店 代表。大手IT企業、民泊ベンチャー企業を経て、2017年にトリップシードを設立。2020年に地域商社機能を持つあわい商店を立ち上げる。都市と地方の「あわい(間)」に立ち、地域の特産品開発やツーリズム事業を展開。東京と徳島の二拠点生活を実践中。

話者プロフィール:西原茉莉枝氏

西原氏大阪府出身。飲食業などに従事した後、徳島県へ移住。小柳氏と出会い、トリップシードの事業に参画。あわい商店の立ち上げ期から同社の中心メンバーとして、日々の運営や地域とのコミュニケーションを担う。

「あわい」に立つ翻訳者として

「あわい」という社名には、「間(あいだ)」という意味が込められている。都市と地方の間、生産者と消費者の間。小柳氏は自らの役割についてこう語る。

小柳氏「間に立つ、中と外をつなぐ、地方と都市をつなぐという意味を込めて『あわい』としています。都市部の人たちと地方の人たちの生活や経済水準、考え方、いろんなものにギャップを感じる。それを平準化していくこと、地域の良いものを都市部の人に大切に届けていくことが必要だと思います」

なぜ、観光事業(トリップシード)と地域商社(あわい商店)、二つの会社を経営しているのか。小柳氏にとって、それは別々の事業ではなく、地域と関わるための「二つの入り口」に過ぎないという。

小柳氏「トリップシードのツーリズム事業では、ものづくりや農業の現場を訪れ本物や後世に残すべき製品・食材を扱っている会社を発掘します。その人たちのストーリーをツーリズムにつなげられる」

西地食品さんと

現場へ行き、人に会い、良いモノを見つける。発掘した商品があわい商店で売られ、生産者やものづくりの現場を訪ねる体験が観光コンテンツになる。そこには明確な循環が描かれている。

小柳氏「観光に来てお土産を買って終わり、という一方通行ではなく、最初に商品を知って“こんなに良いものを作っている現場を見てみたい”と地域の事業者に会いに来る流れもあります。逆に、観光をきっかけに生産者や地域を知ってもらい、その後、商品を買い続ける消費者として徳島のファンとなる。そのつなぎ役になりたいんです」

入口は「旅」でも「モノ」でもいい。小柳氏がつくろうとしているのは、一度きりの接点で終わらせない、永続的な関係人口のループなのだ。

井上味噌醤油さんと

小柳氏が徳島に深く関わるようになったきっかけは、2015年頃。当初はなかなか地域に溶け込むことができなかったが、地元のキーパーソンに連れられて酒蔵や市場を巡るうち、その「人」の魅力に惹きつけられたという。しかし、地方で商売をするには、コンサルタントのように外から指示をするだけでは信頼されない。小柳氏は自ら在庫リスクを負い、商品を買い取るスタイルを貫いている。

小柳氏「仕入れ商品の6〜7割は、すでに完成度の高い商品をつくる事業者さんからは、そのまま商品を仕入れています。一方で残りの3〜4割は、阿波晩茶や塩、パスタソースなど、私たちがゼロから商品開発したオリジナル商品です。商品製造は協力事業者にお願いし、私たちはパッケージデザインと流通を担う。事業者と連携して高付加価値の商品づくりをしたい、そんな思いで取り組んでいます」

西原氏もまた、そのスタンスを強調する。

西原氏「事業者の方々にコンサルティングだけをすることはあまりないですね。取り扱いが決まれば販路や魅せ方の提案をさせていただきお付き合いがはじまります。自社商品として販売する場合、中身のみ卸値で仕入れさせてもらったり共同で商品開発をしたり、お互いにリスクと挑戦のバランスを相談しながら取り組んでいるんです」

自社で買い取りパッケージングし販売するオリジナル商品

自社で買い取りパッケージングし販売するオリジナル商品

義理や人情が優先される、信用経済。小さな約束を積み重ねることが大切な要素

小柳氏は、地域で大切にされてきた商いの姿勢を語る。

小柳氏「都市部では、多くの取引先と商談件数も多いことからなかなか成約に至らない場面も多いと感じていました。しかし、徳島のように事業者との距離が近く、個人事業主が多くいる地域では、言葉は相手への約束としてより丁寧に扱われると感じます。

訪問の約束を守る、地域の活動に参加する、会う回数を増やす、といった当たり前のようですが、その積み重ねが、地域や事業者との信頼が生まれます。その信頼関係が構築されると金額の高い安いでは左右されない人と人の信用で取引が行われる関係となり、我々との最初の約束を守ってくれる。それだけ関係性を大事にしてくれるんです」

あわい商店が取り扱う商品は、すべて小柳氏たちが「この人の商品なら売りたい」と惚れ込んだ生産者のものばかりだ。単にパッケージがおしゃれになったから、売れそうだから、という理由では扱わない。

西原氏「私たちの先にはお客様がいます。お客様の暮らしに寄り添い、ものづくりに想いをもった生産者さんと、長くお付き合いしたいですね。作り手の姿勢や人柄は、必ず商品に滲み出ますから」

人を見る眼差しと、約束を丁寧に守り続ける姿勢。そういったあわい商店のひたむきさが、地域の中で確かに信頼の輪を広げてきたのだ。

西原氏

阿波晩茶が問う、効率の先にあるもの

現在、小柳氏らが力を入れているのが「阿波晩茶」のプロジェクトだ。阿波晩茶は、茶葉を茹でてから樽に漬け込み、乳酸発酵させるという世界的に見ても珍しい製法で作られる。しかし、その生産現場は危機的状況にある。

小柳氏「最盛期は150人ほどいた生産者が、2020年頃には100人弱、今では約70人にまで減っています。年々高まる需要に対して地域に作り手がいない。このままでは地域の宝が消えてしまう」

そこで小柳氏たちが上勝阿波晩茶協会と始めたのが、単なる収穫体験を超えた「オーナー制度」だ。この制度では、企業や個人が樽単位で権利を購入し、茶摘みから樽詰めまで体験し、樽詰め後の茶葉を後日オーナーに届けてくれる。

茶擦りの様子

茶摘みの様子

小柳氏「正直、夏の茶畑での作業は過酷です。でも、その大変さを共有し、農家さんと汗を流して語り合うことで、参加者はただの『消費者』からもっと深く濃い関係へと変わっていくんです。一方、地域側にも変化が現れてきています。『あわい商店のように、農家に深く関わってくれる会社や団体は他にいないのか、どうすれば広げていけるか』という反応があり、地域側がその可能性を模索し始めています」

2025年の収穫体験には、インスタグラムを通じて呼びかけ、定員を上回る60〜70名の応募があった。参加者の中には、お茶好きが高じて「将来は自分で作りたい」と考える若者もいるという。それを裏付けるかのように、あわい商店では現在、オーナー制度の範疇を超えさらに深く地元農家に入り込み、夏場の収穫だけでなく、茶畑の草刈りや管理の段階から関わっている。

小柳氏「効率だけを考えれば、機械化や大規模化が正解かもしれません。でも、この手間暇のかかる作業の中にこそ、チームビルディングや人間関係の構築といった、現代人が求めている『体験』価値がある。私たちは、晩茶を通じて『未来の後継者』の種をまいているのかもしれません」

茶茹で

阿波晩茶

上勝阿波晩茶

観光は「消費」から「関係性の発酵」へ

小柳氏の視点は、観光のあり方そのものへの問い直しにもつながる。

小柳氏「これから生み出すべき観光は、来て終わり、買って終わりの『消費型』ではないと思います。地域の人とつながり、その土地の課題や文化を学ぶ。それが訪れる人の人生を豊かにし、地域にとっては持続的な経済活動につながる。そういう『循環』を作りたいんです」

西原氏もまた、徳島の持つ「空気感」こそが最大の資源だと語る。

西原氏「ここには、心地よいリズムがあります。忙しくても、どこか穏やかな時間が流れている。その空気に触れるだけで、体が緩んでいく。これは、都会では絶対にお金で買えない価値ですね」

観光客として訪れた人が、その土地のファンになり、やがて阿波晩茶のオーナーになり、定期的に通うようになる。そのプロセスは、まるで茶葉が樽の中でゆっくりと時間をかけて旨味を増していく発酵の過程に似ている。

インスタントな刺激ではなく、時間をかけて醸成される関係性。それこそが、あわい商店が提供する真の商品なのだ。

緩やかな「エコシステム」が未来を変える

小柳氏が地域において担う役割は、単なる仲介ではない。地域の声を丁寧に受け取り、外との関係を最も良い形につないでいく“あわい(間)の存在”だ。

小柳氏「地域の想いを置き去りにしない。地元の方の考えも、事業者の気持ちも汲んだうえで、搾取されない関係をつくる。外と上手につながりながら、地域が弱い立場にならないようにするのが自分の役割だと思っています」

良い資源があるからこそ、安売りや一過性のブームに流されてはいけない。その価値を守り、高めるために、あわい商店はある。

では活動を広げるにはどうすればいいのか。小柳氏が選んだのは「組織化しない連携」だ。

小柳氏「活動を広げるには協議会や社団法人のようなかしこまった組織をつくる方法もありますが、形にすると動きにくくなることが多い。それより、志を持った人たちが良い塩梅でゆるくつながるほうがいい。飲み会から始まるくらいの柔らかさがちょうどいいんです」

強みを持ち、自分の考えをしっかり持った個人同士が、必要な部分だけで結びつく。県内外にいるそうした仲間たちと、一緒にスピード感をもって前に進んでいく。それが、小柳氏の言う「人と地域がともに育つエコシステム」だ。

出羽島の郷土料理を残す食のプロジェクト

西原氏もまた、その連鎖を日常の中で育てている。

西原氏「柚子をもらったら、県外で飲食店を営む友人に提供したり、県外から遊びに来た知人を農家さんのところへ連れて行ったり。そういう小さな循環が記憶にも残り、細くても繋がりが強くなるんです」

デジタルを駆使してECで商品を販売しながらも、小柳氏は「アナログ」な手触りを決して手放さない。届ける商品の箱には、今も直筆のメッセージを添えているという。

「古いと思われるかもしれませんが、大切なのは人の体温ですから」

効率化の波に洗われ、私たちが手放してしまった「手間」や「時間」。あるいは「約束」や「人情」。徳島の山間で二人が実践しているのは、それらをもう一度丁寧にすくい取り、現代のビジネスの言葉で未来へつなぐ試みだ。

都市と地方の「あわい」に流れるそのリズムは、せわしない社会の呼吸をそっと整えるように、確かな余韻を残していた。

編集後記

取材を通して見えてきたのは、AIやテクノロジーが進化する時代だからこそ、逆に際立つ「人間臭さ」の価値だった。一度言葉で約束を交わしたら、市場に流されることなくその約束を守る。これが地域の関係性と経済を守るのだ。

あわい商店が扱う商品は、単なるモノではない。それは、生産者の人生と、それを支える小柳氏たちの覚悟、そして徳島の風土が混ざり合い、発酵しあってできたものだ。

もしあなたが日々のスピードに疲れを感じているなら、一度徳島を訪れてみてはどうだろうか。そこには、忘れていた「社会の深呼吸」ができる場所が、確かに存在している。

【参照サイト】株式会社トリップシード
【参照サイト】あわい商店

聞き手:ダン計画研究所

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