循環経済への移行を率いるリーダーシップとは? 至善館・循環未来デザインセンターの一年を振り返る

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理論上の「サーキュラーエコノミー(循環経済)」は、整然としたダイアグラムとして描かれることが多い。しかし、実際にその概念を社会に実装しようとすれば、異なるロジックで動く産官学民のステークホルダーが協働し、存在目的も言語も異なるもの同士が膝を突き合わせ、ともに汗をかき、答えのない未来に向かってチャレンジと失敗を繰り返しながら前進していく必要がある。

そのためには、多様な人々のベクトルを揃えるための高いビジョンを掲げ、その実現に向けて丁寧に調整を重ね、人々を巻き込みながら大胆かつ着実に移行を牽引していくリーダーシップのある人材が必要だ。

そのようなサーキュラーエコノミーへの移行を担うリーダー人材を育成するべく、2025年4月、大学院大学至善館に設立されたのが「Circular Futures Design Center(循環未来デザインセンター)」だ。特命准教授としてそのセンター運営を担うのが、一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン代表理事/株式会社ECOMMIT取締役CSOの坂野晶氏と、ハーチ株式会社代表の加藤佑氏。初年度を終えたいま、二人に、今日本に求められているサーキュラー・リーダーシップのあり方について話を聞いた。

話者プロフィール:坂野晶(一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン代表理事/株式会社ECOMMIT取締役CSO)

兵庫県西宮市生まれ、鳥好き。絶滅危惧種の世界最大のオウム「カカポ」をきっかけに環境問題に関心を持つ。大学で環境政策を専攻後、モンゴルのNGO、フィリピンの物流企業を経て、日本初の「ゼロ・ウェイスト宣言」を行った徳島県上勝町の廃棄物政策を担うNPO法人ゼロ・ウェイストアカデミーに参画。理事長として地域の廃棄物削減の取組推進と国内外におけるゼロ・ウェイスト普及に貢献する。2019年世界経済フォーラム年次総会(通称ダボス会議)共同議長。2020年より一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパンにて循環型社会のモデル形成に取り組む。2021年より環境分野の人材育成プログラムGreen Innovator Academy共同設立。2023年より資源循環インフラ構築に取り組む株式会社ECOMMITに参画。2025年より大学院大学至善館 Circular Futures Design Center 共同センター長・特命准教授。

話者プロフィール:加藤佑(ハーチ株式会社 代表取締役)

2015年にハーチ株式会社を創業。社会をもっとよくする世界のアイデアマガジン「IDEAS FOR GOOD」創刊者。循環経済専門メディア「Circular Economy Hub」、横浜市における循環都市移行プラットフォーム「Circular Yokohama」などを展開するほか、企業・自治体・教育機関との連携によりサステナビリティ・循環経済推進に従事。埼玉県・サーキュラーエコノミー推進分科会アドバイザー、愛知県蒲郡市・サーキュラーシティ蒲郡アドバイザーなどを務める。2023年4月にB Corp認証を取得。ニッコー株式会社・社外取締役。大学院大学至善館 Circular Futures Design Center センター長・特命准教授。慶應大学SFC研究所員。東京大学教育学部卒。

循環という「複数形の未来」をデザインする拠点の誕生

至善館にサーキュラーエコノミーの教育・研究拠点を設立する構想は、学長の野田智義氏による声かけから始まった。加藤氏はセンター設立の経緯をこう振り返る。

加藤氏「至善館として、持続可能な未来の実現に向けてサーキュラーエコノミーの概念と実装がこれから重要になっていくという認識があり、若い世代を中心としてサーキュラーエコノミーに特化したセンターを設立したいというご相談をいただきました。ともにセンター運営を担うメンバーを検討するなかで、一番最初に思い浮かんだのが坂野さん。すぐに、共同でセンター長を担っていただけないかとご依頼しました」

こうして二名が揃って立ち上げたのが、Circular Futures Design Center(循環未来デザインセンター)だ。センター名には、どのような思いが込められているのだろうか?

加藤氏「センター名を決めるにあたり、『サーキュラーエコノミー』と言い切ってしまうと実現したいことが正確に表現できないと議論していました。経済はもちろんですが、その前提となる社会システム全体を根本から変えていく必要があります。また、未来に向けて若い世代を巻き込みたいという思いがあり、Economy ではなく Futures(未来)という言葉としました。複数形としているのは、国や地域、企業、個人によっても理想とする循環型の未来は異なり、その多元性こそが重要だと考えたからです。複数の多元的な未来があるなかで、自分自身はどのような未来を実現したいのかを考え、そのビジョンに基づいて多様なステークホルダーを巻き込みながら社会を変革していけるリーダー人材を育成したいと考えたことが背景にあります」

至善舘特命准教授の加藤佑氏

一方、徳島県上勝町でのゼロ・ウェイスト活動への従事を発端に、地域・教育・ビジネスなど多様な領域で活動してきた坂野氏は、アカデミアへの期待をこう語った。

坂野氏「サーキュラーエコノミーというテーマにおいて、やはり『人材育成が大事』だということは根本的に皆が共通して思っていたことでした。ただ、そこに明確に学術的な要素を取り入れて体系的に学ぶことができる場は、日本でも世界でも今まで多くはありませんでした。循環未来デザインセンターが、その学びを先導できる場所になることを願っています」

至善舘特命准教授の坂野晶氏(写真左)

問いの探求、理論と実践、そして身体性

Circular Futures Design Centerが提供するコースは、単なる知識の獲得にとどまらない。カリキュラムの根幹を成すのは、「問いの探求」「理論と実践のバランス」「身体性を伴う体験」という3つの柱だ。

加藤氏「サーキュラーエコノミー自体が何か明確な一つの答えを提示してくれるわけではなく、実現に向けた手段も実現後の最終的な社会像にも一つの正解があるわけではありません。そのため、答えのない問いと向き合うなかで思考を深め、一人ひとりがそれを自身の業界や事業にあてはめながら循環型の未来を探求できるよう各回において問いを設定しました。

また、サーキュラーエコノミーをめぐる理論と実践のバランスにおいて、日本では学術的な理論知よりも現場の実践知が先行している側面もあります。そのため、クラスではビジネスの第一線で活躍している方の実務経験から出てくる具体的なノウハウや経験値を感じてもらえるように設計しました。最後の柱は、身体性を伴う体験です。手触りのある実感を伴う理解が重要なので、頭だけではなく手や足を動かし、身体的にリニアエコノミーの課題やサーキュラーエコノミーを体感できる体験や課題を多く組み込みました」

カリキュラムは全8回。クラスは、日本語・英語の2言語で展開され、どちらも概論から始まり、循環型ビジネスモデル、廃棄物(静脈)とデザイン(動脈)、デジタルや金融といったイネイブラー、自治体政策、市民社会、そしてリーダーシップとパートナーシップまでを横断的に扱った。

リニアエコノミーと出会い直す

コースのコンセプトを象徴する授業の一つが、「リニアエコノミー(直線経済)と出会い直す」というテーマのセッションだ。坂野氏は、至善館の教室で「ごみを広げる」という異例の授業を振り返った。

坂野氏「受講生に自宅のごみを持ってきてもらい、みんなでごみの組成調査をしました。おそらく至善館の教室でごみを広げたのはこれが初めてではないかと思います。

これを発端にして、普段自分たちが捨てているものを『自分ごと』として捉え直すこと、ごみという身近な視点からグローバルな課題に向けて考え始めることに取り組みました。同時に、授業後半では『今日見た自分のごみをどうすれば個人のアクションとして減らせるのか』を丁寧に考えてもらう時間をとりました」

さらに、学びは教室の外へと広がる。受講生は、自身の住む自治体に問い合わせを行い、制度の有無や背景を調べ、政策提言まで行ったのだ。

坂野氏「循環を促進するためにどんな仕組みがあり、何がないのか、なぜ仕組みがないのかを各自治体に問い合わせて、政策提言や意見書を提出することを課題にしました。受講者の中には普段自治体の職員と話すことすらない人も多かったため、どんな返事が返ってくるかを体験すること、返事に差があることも学びとして面白いものになりました」

製品とシステムのつながりを編みなおすサーキュラーデザイン

サーキュラーデザインの一番のポイントは、発生した問題をどうするかではなく、どのように問題が発生しないシステムをデザインできるか、という点にある。そこで、クラスでは現状のリニアエコノミーをシステムレベルから循環型に変革するためのサーキュラーデザインプロセスを体験するワークショップも展開された。

当日は、毎年日本だけでも約1億本が廃棄されていると言われるビニール傘をテーマに、システム、ビジネスモデル、サービス、製品、素材という複数の視点から傘をめぐる循環のデザインを検討した。

加藤氏「ワークショップでは、ごみの授業と同様に実際にビニール傘、洋傘、シェアリング傘、和傘を教室に持ち込み、手で触ったり分解したり、丁寧な観察を通じてそれぞれの構造や素材選択の違い、なぜその違いが生まれるのかを考え、素材と製品のデザイン、サービスとの関係性やそれらがもたらす環境・社会インパクトについて理解していきます。

その上で、特に廃棄物を起点とする循環型ビジネスモデルの構築などではつい置き去りにされがちなユーザーやカスタマーの視点を出発点として、新たな循環型ビジネスアイデアを検討していきます。頭と手を両方使うことで素材や製品といった『具体』とシステムといった『抽象』をつなげ、その整合をとることの難しさと楽しさを体感してもらいました」

パートナーシップに欠かせない「他者の視点」を育む

サーキュラーエコノミーの実現には、同業種や動静脈を含むバリューチェーン全体、産官学民のクロスセクターなど、異なるレイヤーにおける連携が不可欠だ。しかし、その実態は複雑な利害関係の調整の連続だ。コースの最終回では、あえてその難しさを体験してもらうべく、二人が実際に現場の仕事で直面したケースを基にして作成したロールプレイも行われた。

加藤氏「日本語クラスではプラスチック、英語クラスでは衣類をテーマにロールプレイを実施しました。循環型ソリューションを提供するスタートアップ、資源の回収拠点となる商業施設、そこにテナントとして入居しており回収を担うブランド、政策を推進したい自治体、再資源化を担うリサイクラーなど異なる立場になってもらい、それぞれにサーキュラーエコノミーに関わる動機やインセンティブを設定し、合意形成に挑戦してもらいました。『そもそも誰をその場に招くかのデザインが重要』『設定条件が違うとこれだけ合意に至るのが難しい』『意外な一言がすごく議論を前進させた』など、色んな気づきがあったのではないかと思います」

坂野氏「振り返りでは『最初の目的や意識のセッティングが合意形成に効いたのではないか』『ファシリテーターの存在が大事だった』などの意見が出ていました。自分のニーズに固執すると難しいけれども、共通の目的に対して一緒に取り組もうとする共創の姿勢を打ち立てると前進できることを顕著に体験してもらった事例でした」

こうして受講者は、身体性のある気づきから、サーキュラーデザインを探求するワークショップ、実際の現場で起こる課題をリアルに体感するロールプレイなどを経験。そのコースの最後を締め括ったのは、企業、経済団体、国の有識者委員など様々な立場からクロスセクターで日本のサーキュラーエコノミーを牽引しているヴェオリア・ジャパン会長・野田由美子氏による講義だった。

ヴェオリア・ジャパン取締役会長・大学院大学至善館 Circular Futures Design Centerアドバイザリーボード議長の野田由美子氏

加藤氏「最終回では、野田由美子さんにご自身のパーソナルストーリーをお話しいただきました。野田さんは、民間資金で公共施設を運用するPFI(Private Finance Initiative)やサーキュラーエコノミーなど、持続可能な未来に欠かせない仕組みをいち早く日本に展開し、最初は理解者が少ないなかでもビジョンを掲げて仲間を増やし、実際に現在進行形で社会を変革されています。挑戦のたびに立ちはだかる壁をどう突破してきたのか、リーダーとして信念を持ち続けることの重要性、常に公共の視点から『自分に何ができるのか』を考えることの重要性についてお話しいただきました」

坂野氏「今よりはるかにサーキュラーエコノミーの推進が難しかった時代に、どのようなことを考え、どんな選択をされてきたのかをお聞きし、今でもなおゴールとは一切思っていない姿勢をひしひしと感じられることが、何よりもこの講義の価値だったなと思います」

最後に大事になるのは、人間性がもたらす質の高い関係性

初年度のクラスを終えた今、両名は日本のサーキュラーエコノミー移行に向けて何が必要だと感じているのだろうか。二人の視点は、システムを動かす「人」のあり方へと集約されていく。

坂野氏「日本でシステム・チェンジを生むためにはどこか一つだけに介入しても動きにくい。それぞれの立場を理解し、他の立場の人たちと関係を構築しながら少しずつ背中を押すなかで、全部がはまると物事が大きく動くのだと思います。結局最後は、人間の関係性なのです」

加藤氏「産官学民のうち、官においては法規制面でも少しずつサーキュラーエコノミーが進めやすい環境が整いつつあると思います。また、万博も経て市民や生活者の意識・認知度も上がってきました。この流れを追い風に、企業の中でどれだけ成功事例を増やせるかが重要だと思っています。

また、新たな社会システムへの移行に10年はかかることを考えると、今の若い世代がサーキュラーエコノミーを学べる環境を整え、需要と供給の双方の視点から将来的な市場を創出していく教育も重要になると思います。産官学民がセクターの壁を越えて関係性の質をどれだけ高められるかが鍵を握るのではないでしょうか」

では、そんな関係性を築けるためには、具体的にどのような人材が必要なのか。加藤氏は「推進力」と「調整力」のバランスを強調する。

加藤氏「人を巻き込むことを考えると、つい応援したくなる、関わりたくなるような理想的な未来ビジョンを構想する力が必要ですし、それを実現するには既存のものにとらわれず壁を突破していく一種の大胆さが鍵となります。

一方で、一人だけで突き進んでも周りがついていけないので、多様なステークホルダーの声に耳を傾けながら敬意を持って関係性を育み、移行をファシリテートしていく調整力も必要となります。一人二役である必要はありませんが、この『前進する力』と『調整する力』という二つのバランスをとることが重要だと思っています」

坂野氏「全く違うセクターのロジックを理解していることはすごく重要ですね。それがあると『翻訳』ができるからです。全員がそうなる必要はないですが、セクターを超えられる人材がいることが、ファシリテーションの成功にも寄与すると思っています」

東洋的なMBAが、循環型未来への移行ハブになる

最後に、こうした人材を育む場として、アカデミア、そして至善館が果たすべき役割について聞いた。

加藤氏「アカデミアの良いところは、多種多様なセクターの方々が、普段の所属や肩書きを離れて質の高いネットワークを築ける点。その上で至善館は、人間性を重視した『全人格経営リーダーシップ』を掲げ、スキルよりも深いレベルでの社会変革やマインドセットの涵養に取り組んでいます。サーキュラーエコノミーでは文化や哲学、思想も重要になるため、全人格経営リーダーシップと実践的な社会経済システムの移行を組み合わせられる点は、至善館の強みです」

坂野氏「至善館が掲げる全人格経営リーダーシップの前提にあるのが、アメリカ的なMBAではなく『東洋的なMBA』の考え方です。大量生産・大量消費型ビジネスの前提に立たない次世代のビジネスパーソンを育成することを掲げて始めた背景も、サーキュラーエコノミーと共通するところがあります。

今回のコースでは、体系的な理論と、身体的な体験、豊富な実例、これらのバランスが良かったと思っています。サーキュラーエコノミーという、まだアカデミアではあまり確立をされていない一面をリードする存在になれると良いなと思っています」

左から坂野氏、野田氏、加藤氏

Circular Futures Design Centerの挑戦は、まだ始まったばかり。しかし、ここで生まれた問いと繋がりは、日本の循環未来をデザインする力となっていくだろう。

加藤氏「循環型の未来への移行をデザインできるハブになり、色んな人・セクターが集まって、共に探求し、共に学んで、共に実装して、社会を変えていく。そんな機能を果たせるセンターになりたいと願っています」

【イベント告知】Circular Futures Design Center 特別公開セッション

Circular Futures Design Centerでは、2026年度の活動開始に向けたイベントを開催します。本センターの活動に興味がある方、サーキュラーエコノミーの社会実装を志すリーダーの方は、ぜひ詳細をご確認ください。

イベント名:循環未来デザインセンター 特別公開セッション 「循環かつ再生型の未来をどうデザインするか:アカデミズムと実践の交差点」
日時: 2026年1月26日(月)19:00–20:30
場所: 至善館キャンパスおよびオンライン
詳細・申し込み:https://shizenkan.ac.jp/event/circular_event2026/

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