【ベトナム特集#9】伝統の紙づくりを守るのは、モダンなデザイン。小さな雑貨店「Zo Project」の大きな挑戦

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最後に紙の上に文字を書いたのはいつだろう。パソコンやスマホで文字を打つのが当たり前になり、本ですらも電子書籍に取って代わられようとしている今、紙はわたしたちの生活から徐々にその存在感を失いつつある。

テクノロジーのおかげで便利になったのはいいことだが、その裏で私たちが失っているもの。それが昔ながらの伝統だ。2014年、日本の和紙と手すき和紙技術はユネスコの無形文化遺産に登録された。文化遺産に登録されるのは、意識して守らないといけないほどに、和紙づくりの伝統文化が消えかかっていることの裏返しでもある。

同じことが、経済成長著しいアジアの新興国、ベトナムでも起きている。生活スタイルが変わり、より便利な社会へと進化するこの国でも、伝統的な「紙」を使う人々は減りつつあるのが現状だ。

そんなベトナムの伝統的な紙づくりの文化を守り、現代を生きる若者世代にもその素晴らしさを伝えようと、ユニークな方法で取り組んでいる社会的企業がある。それが、伝統的な紙を使用した雑貨アイテムを販売している「Zo Project」だ。

Zo Project のショップ。ハノイの人気観光スポット、トレインストリートの線路沿いにある。

女性起業家のTran Hong Nhung氏が2013年に立ち上げたZo Projectは、ベトナムの伝統的な紙づくりの手法を用いて作られたDó PaperとDướng Paperを使い、ノートやカレンダー、ポストカード、アクセサリーなど様々なアイテムをつくり、販売している。

伝統的な紙づくりを救うのは、モダンなデザインとアーティストたち

ベトナムの首都・ハノイ随一の観光スポットの一つ、トレインストリート沿いの一角にZo Projectのショップはある。5坪ほどの小さなショップに足を踏み入れると、伝統的な紙から作られたおしゃれなデザインのアイテムたちが迎えてくれる。

Zo Projectが手がけるアイテムの特徴は、なんといってもその美しさにある。一つ一つ丁寧に作られたハンドメイドの紙の上にアーティストらがデザインを施すことで、モダンなアイテムとして新たな価値を吹き込んでいる。

Zo Projectのマネジャーを務めるHong Ky氏によると、ショップを訪れるのは多くが海外からの観光客で、地元ベトナムの人は2割ほどだそうだ。最も売れているのがプリンテッド・ペインティング(絵画が描かれた紙)で、カレンダーやイヤリングなども人気だという。

Zo ProjectのHong Ky氏

Zo Projectの製品はCollective Memoryなど他のショップでも購入することができるほか、現在ではアメリカやマレーシアなど海外にも輸出しているそうだ。

ビジネスを通じて紙づくりの伝統コミュニティを守る

Zo Projectの製品の原料となるDó Paperは、ベトナム北部のHòa Bình(ホアビン)省にある村で暮らしている、Muong People(ムオン族)と呼ばれる少数民族の人々の手によって作られている。

Hong Ky氏によると、紙の需要が減るなか、現在でも伝統的な紙づくりを続けている家族は5つまで減っているそうだ。彼らは1日4時間ほど紙づくりにいそしみ、残りの時間は農家として働いているという。

Zo Projectでは、彼らの紙づくりの伝統を守るべく、技術のトレーニングや設備面に加え、紙の原料となる木の植樹など様々なサポートを行い、紙づくりコミュニティの保全に取り組んでいる。将来的にはより多くの紙の作り手を生み出すのが目標とのことだ。

伝統的な紙づくりを体験できるワークショップ

Zo Projectの活動は、ただ紙製品をデザインし、販売することだけにとどまらない。彼らは伝統的な紙づくりの素晴らしさを知ってもらおうと、観光客や地元の人々を対象としたワークショップも開催している。

実際に村を訪問し、紙づくりのプロセスをゼロから体験することができる1日の紙づくり体験ツアーを開催しているほか、ハノイにある店舗でも様々なワークショップを開催している。

店舗でのワークショップには地元の人々と観光客が半々の割合で参加しており、紙づくりを楽しんでいる。観光客からは特にカリグラフィーのワークショップが人気だそうだ。

カリグラフィーワークショップの様子 Image via Zo Project

製品を買うだけにとどまらず、実際に村を訪れたり紙づくりを体験したりできる機会を提供することで、伝統的な文化の素晴らしさに気づいてもらうこと。それがワークショップの狙いだ。

Hong Ky氏は、Zo Projectの役割は「紙づくりのコミュニティと市場をつなぐこと」だと語る。製品やお店、ツアーやワークショップなどを通じて伝統的なコミュニティと現代を生きる人々との間に橋を架けること。それがZo Projectの価値であり、ビジネスモデルそのものでもある。

編集後記

「Zo Projectが生み出す素敵なアイテムたちを、日本にも輸出しないのか?」そうHong Ky氏に尋ねると、「日本には『和紙』という素晴らしい紙があるじゃない」と答えが返ってきた。

たしかに、日本にも素晴らしい伝統文化はたくさんある。一方で、それらの多くが後継者を失い、消滅の危機に瀕しているのも事実だ。しかし、それらの伝統文化に少しだけ現代の人々が求めるエッセンスを加えるだけでも、伝統は「守るもの」から「欲しいもの」へと変わるのかもしれない。

アーティストとコラボレーションすることで、伝統的な紙をモダンなアイテムに生まれ変わらせる。アイテムを「買う」のではなく「作れる」ショップにする。ハノイの片隅にある小さな店の中には、古き良き伝統を残していくためのアイデアたちが詰まっていた。

Zo Project 店舗情報
店舗名 Zó Project
住所 10 Điện Biên Phủ, Hàng Bông, Điện Bàn, Ba Đình, Hà Nội
営業時間 9:00~19:00
営業日 月~日
URL http://zopaper.com/

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