【ベトナム特集#10】職業訓練レストラン「KOTO」若者の経済・教育格差に挑む

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旅行先のベトナムで、路上生活する子供を見かけた。

あまりにもかわいそうだから、と食べ物や歯ブラシを買ってあげると、どこから見ていたのかわらわらと他の子供たちも集まってくる。「この人にねだると買ってもらえるよ」と伝えたのだろうか。そこで確信した、ただ与えるだけじゃだめなのだと。

1人のベトナム系オーストラリア人のそんな経験から始まったのが、ハノイとホーチミンでレストランを運営する青少年支援団体「KOTO(コト)」。旅行口コミサイトのトリップアドバイザーでも高評価を受けるレストランでキビキビと働く従業員の多くは、かつて孤児やストリートチルドレンなど、社会的に不利な立場にいた若者たちだ。貧富の差が問題となっているベトナムで、若者に無償で職業訓練を提供するKOTOの取り組みにせまる。

Kotoサイゴンメンバー

KOTOのホーチミンメンバー

ベトナムの社会課題は「格差」

16歳から22歳の若者たちに2年間のトレーニングを提供し、自立を促すKOTO。彼らが取り組むベトナムの社会課題は、人々の経済・教育格差だ。1986年に打ち出された「ドイモイ(刷新)政策」による経済発展が著しいベトナムだが、貧富の差は8倍以上と言われている(※1)。

都市部では、プール付きの高層マンションに住み毎日裕福な生活をする人々がいる一方で、山岳地帯や高原地帯ではいまだに開発が追いついておらず貧困が広がるばかりだ。2018年の世界銀行の調査によると、貧困層の72%が高原地帯に住む少数民族だという。

そんなベトナムの格差の現状について、KOTOのホーチミン支店でマーケティング・広報マネージャーを務めるタオさん、そして同チームのティエンさんに話を伺った。

KOTO

左:タオさん 右:ティエンさん

Q: ベトナムの格差問題について教えてください。

タオ:最近ではベトナム全体の貧困率が下がっていますが、まだまだ日常的に格差をこの目にすることはあります。たとえばホーチミンでは毎週のように豪遊している人たちと、スラムに住んでいる人たちやホームレスが対照的ですね。1区、3区、5区なんかに行ってみると、路上で寝ている人の多さに気が付きますよ。

若者の格差については、教育が顕著です。おそらく他の国でも同じだと思いますが、都市部の若者は地方に比べたら教育へのアクセスがしやすいと言っていいでしょう。地方では、教科書や教育できる人材、そしてなにより学校が圧倒的に不足しています。学校へ行くためのインフラが整っておらず、危険な川を渡らなくてはいけない生徒たちもいます。

教育の差が人々の意識の差を生み、それがさらなる教育の差を生みます。貧しい生活をする人々は、日々生きるための食を得ることへの優先度が高く、高等教育はおざなりになってしまいがちなのです。

男女の教育格差も根深い問題ですね。山岳地帯などでは、女性はだいたい15~16歳くらいが結婚適齢期だと言われています。誘拐婚(男性が求婚する女性を誘拐する風習)もいまだにありますし。

ティエン:私が5歳か6歳のころ、私の家庭はすごく貧乏でした。私には兄がいるのですが、母は男子と女子なら絶対に男子が学校教育を受けるべきだという価値観を持っていました。

学校に行くのを諦めて家庭に入るように言われ、すごく悲しかった時期もあったのですが、結局祖母が後押ししてくれたおかげで私も教育を受け、いま働くことができています。ですが、自分と似たような状況にある子たちは他にもいます。

Q: 今でも「男性は働き、女性は家にいるべき」だと思う人は多いのでしょうか?

ティエン:都市部にいる若い世代はそんなことありません。ただ地方では、教育を受けるのも男性、働いてお金を稼ぐのも男性だというイメージが定着しています。私の親もそうでしたから。いま働いてるKOTOの何が気に入っているかって、スタッフの男女比率がほぼ同じで、女性がとても活躍しているところです。私たちのゼネラルマネージャーも女性ですしね。

KOTOインタビュー

Q: 社会的に不利な状況にある若者たちは、どうやってKOTOにたどり着くのですか?

タオ:私たちのウェブサイトや、メディアを通して見つける人が多いのですが、私たちの採用担当チームが実際に山岳地帯や高原地帯を訪れることもあります。それで職業訓練を希望する候補者には実際にハノイかホーチミンのオフィスに来てもらい、簡単な筆記テストや面接を行います。

親族がいれば、親族にも詳しく話を聞かなくてはなりません。本当にKOTOの助けを必要としている状況なのか、見極めるためです。いまはハノイとホーチミンのトレーニングセンターで大体200人ほどの若者が職業訓練を行っています。

必要なのは「語学力」「ホスピタリティ」「ライフスキル」

KOTO トレーニング

KOTOの職業訓練のようす

生きながらえるための一時的な「食」ではなく、持続できる「職」を得るには働くためのスキルが必要だ。観光産業が発達してきたいまのベトナム社会で、KOTOの職業訓練は「語学力」と「ホスピタリティ」、そして「ライフスキル」に焦点を当てている。

2年間の訓練のうち、はじめの1年半はハノイかホーチミンのトレーニングセンターで過ごし、ホスピタリティ産業についての理解や基本的なビジネススキルの養成を行う。プロの講師を招き、ワインについての知識や、接客英語、パソコンの操作能力などを身につけるのだ。座学が終わると、残りの半年間はレストランやホテルでの実習訓練が始まる。

Q: 「ライフスキル」とはどのようなスキルを指しますか?

タオ:アンガーマネジメントや忍耐力といった感情のコントロールや、他人と共生していく力のことです。トレーニングセンターでの訓練期間中、研修生たちは寮で共同生活をするのですが、絶対にやってはいけないこととして定めているのが、他人を傷つけること、そして他人のものを盗むことなんです。実際にそれで辞めていった子たちもいたと聞きました。

実習が始まってからは、寮を出て自分の力で街中に住めるようサポートします。職業訓練中一緒に過ごした仲間たちは、訓練修了後もよい関係が続き、困ったときは助け合えるコミュニティとなっていますよ。

Q: 職業訓練を終えた若者たちは、またKOTOのレストランに戻ってくるのでしょうか?

タオ:訓練後の若者には、むしろ他のレストランやホテルなどで一定期間働くことをおすすめしています。ホスピタリティ訓練修了後には、オーストラリアのBox Hill Instituteによる認証書も発行しているので、インターナショナルな就職活動にも使うことができるんです。

もちろん、ある程度他の場所で働いたあとに「社会的に不利な立場にある若者」としてではなく「普通の社会人」としてKOTOのレストランに戻ってくる人たちもいます。その際の採用は、外部からの就職希望者と同等に扱います。いまホーチミンのレストランの従業員は、6割がKOTOの訓練修了生です。

KOTOの職業訓練を終えたスタッフ

KOTOの職業訓練を終えたキッチンスタッフ

与えるのではなく、繋げられるサポートを

Know One, Teach One(ひとつ知り、ひとつ教える)」を意味するKOTO。はじめは創立者と数名のスタッフのみが働く小さなサンドイッチ屋で始まった職業訓練が、ベトナムの多くの若者の人生を変えている。

KOTOは、家庭内暴力の被害者やストリートチルドレン、または貧しいために教育が受けられないような若者を見つけたら助けなければいけないと主張する。それで得られる最高のお返しは、助けた人が自立して他の人と同じように生活する姿を見ることだそうだ。

タオさんはこう語っていた。「Know One, Teach One…… すべてを知る必要はないけれど、ひとつ学んだらそれを次の人につなげられるようにKOTOは日々取り組んでいます。その価値観が好きだから、いま私はKOTOで働いているのです。」

格差のある社会で、不遇な若者に食べ物や飲み物を与えるのではなく、ただ仕事を紹介するのでもなく、現代社会で生きていくために必要な仕事のスキルを身につけさせる。そして助けられた若者たちは、また違う誰かを助けられるコミュニティに発展する。ベトナムのレストランから学ぶ、持続可能なサポートだ。

※1 Tong cuc thong ke, kinh te ca hoi Viet Nam 3 nam 2001-2003, NXB Thong Ke, Hanoi, 2003 より

【参照サイト】Vietnam continues to reduce poverty, according to WB report
【参照サイト】Gia tăng khoảng cách giàu nghèo ở Việt Nam
【参照サイト】ベトナム、経済成長も貧富の格差拡大

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