【ベトナム特集#6】古くからある伝統に“モダン”を。職人と若者をつなぐスローファッション「Kilomet109」

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いま、世界にはファストファッションが溢れている。リーズナブルで着こなしやすい、いまどきのファッションはどの世界の若者をも魅了する。ベトナムは、そんなできるだけ早く安価な洋服を生産する巨大な繊維工場の拠点でもある。

ファストファッションには光りと陰があるということを、私たち消費者は忘れてはならない。ベトナムのファッション業界は、多くの問題を抱えている。たとえば、ベトナムのハイズン省に拠点を置く中国系繊維企業が毒性の廃水を流出したとする環境事故が過去に問題となった。さらに、工場で働く労働者が不当に扱われ、低賃金での過酷労働を強要されるというような問題も未だに起きている。

そんな中、ファストファッションとは真逆のビジョンを持ち、昨年度ついにベトナムの首都ハノイに小さなひとつのお店をオープンさせた女性がいる。

kilomet お店

ベトナムの首都ハノイの西湖のほとりにあるお店

ベトナムに“スローファッション”を広めたい

ベトナムではまだめずらしいエシカルファッションのブランド「Kilomet109」。創業者であり、ベトナムファッション業界の若手リーダーでもあるタオ氏は、Kilomet109の商品すべてをデザインしている。

そんなタオ氏が創り出すのは、“スローファッション”という概念だ。タオが手がける商品は機械で大量生産するのではなく、ベトナム山岳部に住む少数民族の職人たちの伝統的な手仕事により作られた「芸術作品」である。自然染料を用い環境への影響を最小限に抑えながら、地域社会への利益を最大限にするデザインをアプローチしている。

タオ氏

ひとつの洋服を作るのにかける時間は6か月。タオ氏は、染料となる植物の収穫から色付け、できた布をハノイにあるお店で手縫いし店頭に販売するところまで、そのすべての工程にたずさわる。量ではなくクオリティを重視するタオは、ワンシーズンにワンコレクションだけを出品する。

「あまり多くの商品を作ることは望んでいないの」とタオは語る。商品を増やすことよりも、職人たちとのコミュニケーションをとる時間を大切し、洋服一枚一枚に魂を込めて作るというのが彼女のスタイルだ。そんなタオが、共に働く職人たちの住む山岳部へ訪れるのは、多いときで1週間に1度。車で8時間という長い時間をかけて向かうというのだから、彼女が洋服1枚にかけるその労力は計り知れない。

ここで、Kilomet109の商品で使っているいくつかの技術を紹介しよう。

ベトナムの伝統的染色プロセス:インディゴ

Kilomet109では創業した2012年当初から、商品に使用されているインディゴ(藍色の染料)をすべて栽培から手がけている。タオは、職人たちとインディゴ染料の実験を行い、5年以上かけて他のブランドでは見られない藍色を生み出した。

インディゴ

インディゴの布を折りたたむ女性たち Image via Kilomet109

インディゴ

Image via Kilomet109

インディゴの染色工程は著しく労働集約的である。たとえば、上の写真のジャケットのような高密度の木炭の青色を作成するには、布を60日間にわたって染色バットに40回浸漬する必要があるという。

伝統的職人技法:バティックの蜜蝋の描画

インディゴで染めた布に、模様やモチーフを描いていく古代のテクニックである。バティックデザインを描くには、最初に石炭火の上の鉄のボールでミツロウを溶かす。次に特別な工具を、溶かしたミツロウに浸してから、布に模様を直接描いていく。最後に、インディゴの染色液に布を数回浸した後、沸騰させて蜜蝋を剥がしていく。

Image via Kilomet109

インディゴ

バティックプロセスとインディゴ染料を使用したタンクトップ Image via Kilomet109

バティックの染め技法では、偶然に思いがけない素敵な模様が生まれることもある。上の写真にあるタンクトップの柄は、もとはブルーモン族の職人に、水玉模様を描いて欲しいと依頼してできあがったものだという。できあがった洋服に描かれていたのは水玉模様ではなかったが、その代わりに「めまい」の柄のような、美しい星空模様が完成した。

ベトナムの伝統工芸に「モダン」を組み合わせる

「ベトナムの職人たちの伝統工芸は、世界的にも評価されるべきだ」とタオ氏は言う。彼女の仕事は単純に山岳部へ出向き、職人から完成した布を購入するだけではない。染料となる植物を職人たちと一緒に育て、収穫するところから始まる。また、彼女は植物の育つプロセスを研究し、試行錯誤しながら、山芋や緑茶、樹皮などの新しい染色成分を常に模索している。

Kilomet109店内

Kilomet109店内

Q. 商品をつくるプロセスで、いちばんの困難は?

タオ氏:私は長くデザインの世界にいたため、少数民族の職人たちと見ている世界がまったく違います。お互いを尊重し合う努力をしても、そのすべてを理解するのはとても難しい。たとえば、職人へ頼んだ商品のクオリティが十分ではなかったとき、相手を傷つけないようにお願いし直すことは、かなり慎重に行わなければなりません。デザインのイメージを伝えるときも、職人はそもそもデザイン言語を知らないので、コミュニケーションにはかなりの時間を要します。

私にとっては完璧で美しいものを職人がつくったとしても、職人の目を持つ彼らにとっては納得がいかず、「すべて最初からやり直したい」と言われることもあります。彼らは「完璧」であることを求めるのです。うまく工程を進めるためには、職人たちと長く時間を共にし、忍耐強く、想いを伝える必要があります。

Q. ベトナム人の消費者の意識は変わっている?

タオ氏:少しずつですが、変わっていると思います。Kilomet109のインスタグラムやフェイスブックのベトナム人のフォロワー数はどんどん増えています。まだお金がない若い子たちさえも、私たちを支援したいと言ってくれるし、大人になったら私の作った洋服を買いたいと言う子もいます。

若い世代の子たちが、古くからある伝統工芸に興味を持ってくれることがとても嬉しいです。ベトナムの消費者も、クオリティがファッションの一部になるマインドに変わり始めています。

教育の面でも、私立やインターナショナルの学校では最近、環境問題に関する授業を行っています。私自身も、最近大学でよくエシカルファッションに関して授業や講演を頼まれるのですが、その際に生徒たちはとても興味深く私の話を聞きます。また、サステナブル関係のテレビ番組も最近多くやっています。

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Chị Kim was the first Nung An woman I met & talked to in 2009 at a textile festival. She was the one who invited me to visit her village in Cao Bang when I asked her if her textile artisans community would be interested in doing some natural dyeing experiments with me. Chi Kim has participated only sporadically with us over the past 2 years as she's been too busy looking after her family and her daily life. Last month she came back with us after recovering from an illness. I was so happy to see her hands weaving & dyeing with us again. Chi Kim is also a wonderful storyteller. —————————–#artisanportrait #skillful #traditionlove #behidethescene #hardworkingwoman #warmhearted #kilomet109 #vietnambeauty

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Q. 安価な商品が市場に出回る中で、職人たちにどのような影響があるか?

タオ氏:安い中国製品がどんどん増えて、たとえユニークなものを作っても、消費者に選ばれなくなっているという問題は、どこの国でも起こっています。悲しいことに、職人たちの多くは自分たちのスキルの価値を認識しておらず、職人と技術の枯渇につながっています。

3年前のある日、私は一緒に働く少数民族の職人たちが、エシカルファッションをつくる傍で自分たちは中国製品の安価な洋服を着ているのを見たとき、複雑な感情を持ちました。そこで始めたのが、“リターンプロジェクト”です。

Image via Kilomet109

これは、職人たちに自分たちの技術の価値を知ってもらうプロジェクトです。昔ながらの伝統工芸を生きたままにし、モダンでスタイリッシュなデザインをかけ合わせることで若い世代との関係を維持すること、さらに少数民族のコミュニティの経済レベルを引き上げることを目標としています。

職人たちに自身の技術の価値を知らせていくことで技術の向上が見られ生活水準を上げることができ、さらに伝統が受け継がれることにもつながります。こうして少しずつベトナムの伝統工芸が国際的に受け入れられて欲しいというのが私の想いです。

長いプロジェクトになることはわかっていますが、ベトナムはこの道に進むべきだと思っています。安い洋服を着ることは賢いと思いますが、季節ごとに流行を追い、新しいものを購入し続ければ、結果的にそれは安い買い物ではないのです。消費者は良い商品を買って、愛着を持って長く使うマインドに変える必要があります。

Kilomet109の商品は決して安くはありませんが、価格以上の価値を理解し、購入してくれる消費者が増えることを願います。私は、エシカルファッションの価値を、自分のブランドを通して広めていきたいのです。

編集後記

いま、あなたが身にまとう洋服がどのようにして作られたかを想像したことがあるだろうか。どこの国でその生地ができて、世界の誰が、どんな想いを込めてデザインをしたのか。

「Kilomet109」。“キロメット”というのは、ベトナム語でキロメートルという意味で、109というのはハノイからタオ氏の故郷までの距離109kmを表しているという。「Kilomet109の商品は、距離によって隔てられた異なる54の少数民族の職人たちとのつながりから生まれたものなので、わたしはこの名前をとても気に入っています。」タオ氏はそう笑顔で話してくれた。

彼女の手がけるひとつひとつの洋服には、距離を超えて生まれた物語がある。それは、着る人の心を楽しくさせ、その人の人生ごと、素敵な物語に導いてくれる。お気に入りの洋服と5年、10年、長く人生を共にできたら、どんなに素敵だろうか。タオ氏とベトナムの職人たちがつくるKilomet109の洋服が、わたしたちにそっと教えてくれる。

Kilomet109 店舗情報

【参考サイト】Kilomet109
(画像提供:Kilomet109

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