InsurTech for Good。チャリティに寄付できるP2P保険、Lemonadeとは?

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今、世界ではテクノロジーを活用して「保険」の仕組みを変えようとする動き、いわゆる「InsurTech(インステック)」分野が注目を集めている。

保険業界のシェアリングエコノミーとも言える「P2P保険」の仕組みもその一つだ。

P2P保険とは、保険の加入者同士が少人数のグループをつくり、加入者が払う保険料金の一部をプールし、少額の保険請求があった場合にはその中から保険金を支払い、プールを超えた分については外部の保険会社から支払うという仕組みにより運営されるPeer to Peer型の保険サービスのことを指す。

お互いの持ち出しから保険料が支払われるだけではなく、一年間保険の請求がなければ翌年の保険料をディスカウントされるという仕組みなどもあり、保険の加入者はできるかぎり保険の請求が起こらないようにお互いに支援しあうインセンティブが働く。個人同士の信頼関係により保険料を低減できるこの仕組みは「ソーシャルインシュランス」とも呼ばれる。

このP2P保険の分野でとても注目されている企業がある。それが、米国ニューヨークに本拠を置くスタートアップ企業のLemonade(レモネード)だ。

2015年に創業した同社は、投資家らから13億円もの資金調達を行ったものの、その事業内容については沈黙を貫いてきたため、業界関係者からも注目を浴びていた。そして今年の9月、ついに同社は米国ニューヨーク州で正式に保険業のライセンスを取得し、サービスを公開した。

Lemonadeの保険は、ただ単に最先端のテクノロジーを活用してユーザーの利便性を向上させただけではなく、既存の保険業界が抱えていた課題を乗り越えるためのユニークな仕掛けが用意されている。それは、保険加入者が支払った保険料のうち、請求がなかった余剰金をチャリティに寄付するというものだ。

Lemonadeは、米国ニューヨーク州に住む賃貸人や物件オーナーに対し、家財道具に対する保険を提供する。保険に加入するのは非常に簡単だ。ユーザーは使い慣れたメッセージアプリ形式のUIでLemonadeのチャットボットとやりとりを行うことで、自身に合った保険プランと料金を簡単に知ることができる。対象となる家財の追加など、プランのカスタマイズも容易だ。内容が固まれば、そのままアプリから申込むことで保険への加入は完了する。

保険金の受け取りも簡単だ。家財の破損や盗難など事故が発生すれば、チャットとウェブカメラを通じてLemonadeに報告することで、すぐにオンラインで支払いが完結する仕組みとなっている。

既存の保険に必要となる煩雑な手続きを一切省略し、チャットボットとの簡単なやりとりですぐに加入や受取ができるLemonadeは、保険サービスのユーザー体験を大きく向上させる革新的なサービスだと言える。

しかし、同社のサービスの肝は、ユーザーに対して保険の加入時に自分の関心があるコーズ(社会的課題)を選択させる点にある。ユーザーは、ニューヨーク州の貧困支援、女性の支援、病児支援など、Lemonadeが提示するいくつかの選択肢の中から自身が貢献したいテーマを選ぶことで、保険が未請求だった際の保険料をそのテーマに関連するチャリティに寄付できるのだ。

同じテーマを選択した加入者は、バーチャル上の”Peer”(仲間)となり、同じコーズを支援する同志として、できるかぎり保険の請求が発生しないようにお互いを支援しあうことで、より多くの寄付ができるようになる。P2Pとコーズマーケティングを組み合わせた全く新しいソーシャルインシュアランスだ。

また、この未請求分の保険料をチャリティに寄付するという仕組みは、既存の保険業界の課題でもあり多くの人々が保険を嫌う理由でもあった、保険料の支払い時にユーザーと保険会社との間に発生しがちなコンフリクトを回避する役割も果たしている。

一般的に、従来の保険の仕組みでは保険金の請求がなかった分の料金は全て保険会社の利益となる。この仕組みのために、保険会社にとってはできる限り保険料の支払率を下げたいというインセンティブが生まれてしまうのだ。「保険金を申請したのに支払われなかった」というユーザーの悩みの元凶は、この保険業界特有のビジネスモデルにある。

しかし、Lemonadeの場合はこの未請求分の金額を全てチャリティに寄付するという仕組みのため、保険金の支払いに対する負のインセンティブは生じないのだ。同社の場合は、ユーザーが支払う保険料の一律20%を手数料として受け取るという透明性の高いシンプルなシステムにより、この問題を解消している。

Lemonadeは、利益だけではなく社会や環境に対して正のインパクトを生み出すことを事業の目的とする組織に対する民間認証「Bコーポレーション認証」を受けた、Bコーポレーションだ。

「相互扶助」という保険本来の目的をテクノロジーによって取り戻し、さらにその利益をコミュニティ全体へと還元していくという同社の保険は、まさにBコーポレーションが理想とするビジネスモデルだ。今後のサービス拡大に大いに期待したい。

【参照サイト】Lemonade

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