模倣を成功に導くプロセスと能力

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前回の記事ではイノベーションを実現する模倣のアプローチとして、「複製・差別化」「再結合」「移植」を紹介した。(参照:「模倣のアプローチ 〜複製・差別化、再結合、移植〜」)

「模倣」を成功させるためのプロセス・能力として、何が大切なのだろうか。

コピーキャット 模倣者こそがイノベーションを起こす』では

  • 心構えを万全とする
  • 対象を参照する能力
  • 情報を探索し・評定し・選択する能力
  • 対象の文脈を理解し、自らに適用する能力
  • 対象に深く潜り込む能力
  • 模倣を実践する能力

の6つを上げている。今回はそれらを紹介する。

心構えを持つこと

真似をするよりも、ゼロから革新的なものをつくりだすことのほうが素晴らしいと多くの人が思い込んでいる。しかし、本来、世界の豊かさの多くは模倣から生まれており、よき模倣とは決して簡単なものではなく、対象と模倣者の内面や背景に及ぶ深い洞察をベースとして実現される。模倣は高度な知的活動なのだ。その考え方を、個人だけでなくメンバーで共有する価値観にまで高めることが重要だ。いいものを世の中につくりだすためにも、謙虚になり、柔軟な見方で模倣を取り入れること、その心構えがまずは重要だ。それなしでは、よき模倣・イノベーションは生まれない。

対象を参照する能力

模倣する対象を選ぶには、業界や規模が近い対象から探す局所探索と、遠い世界にお手本を見出す大域探索の2つがある。局所検索は模倣者と対象が近いため、効率的に物事を進めたり、社内的な合意を得やすい特徴がある。ただ局所探索だけでは、違う業界からの競合プレイヤーの参入などに弱いこともある。15年前は、ゲームといえば、ハード機器に専用のソフトがセットとなったテレビゲームをイメージしただろう。しかし、スマホのゲームの台頭によって人々の余暇時間に占めるテレビゲームの割合は減っている。ゲーム機やソフトの改良を各社切磋琢磨し続けているなか(プレステか、セガサターンどちらを買おうか悩んだものだ)、全く違うIT業界からの挑戦者が現れ市場をつくっている。

一方の大域探索は一見関係性のない他業界から模倣を行う。イノベーションを起こすために、他業界を注視しいている企業や経営者は少なくない。

情報を探索し・評定し・選択する能力

よき模倣には、まず情報を集めるための情報網をつくり、それを仕組み化・ルーティーン化させる。網を貼らなければ魚が取れないように、情報が入ってくる仕組みづくりは個人でも団体でも重要となる。また情報は新聞記事を調べる程度ではなく、一次情報・当事者からの情報を取るレベルまでできるとなお良い。

その次の段階では、情報の価値を評定・評価し、模倣すべき情報を選択する。この評価・選択にあたっては、模倣者の技術やビジョンに精通した人物が行うことが効果的だという。成功しているモデルも、自社の文化や制度、強みと合致しないものだと効果を発揮しないからだ。100円ショップのノウハウは目を見張るものがあるが、高級ラグジュアリーブランドがそのノウハウを取り入れても決してうまくはいかないだろう。

対象の文脈を理解し、自らに適用する能力

模倣する対象を選定したら、今一度対象の文脈を理解するよう努力する。その現象はそれ単体で成立しているのでなく、周りの環境・複雑なシステムの中で相互に関係しあいながら成立している。文脈は個別具体的に考える。その地域、業界、売上規模や商品、価格、競合などを具体的な数字や固有名詞として検証することが有効だろう。どのような環境下で成立しているかを理解するのだ。

対象に深く潜り込む能力

対象に対する環境部分の検証の後には、より深くまで潜り込んだ洞察だ。成功に対する、目標と手段やプロセスの因果関係を分解して導き出す。分解した要素を要素同士の関係性も含めて理解し、どの要素が成功の鍵となるのかを特定するのだ。その際にはバリューチェーンや組織文化といった観点まで潜り込む必要がある。

人間は複雑な問題に対して、わかりやすく簡単な答えを求める傾向がある(宗教の教えなどはその際たるものだと個人的には思う)。ただ、模倣を実現させるには複雑な世界を単純にモデル化して捉えるのではなく、複雑で入り組んだ関係性を含めて理解することが重要だ。

対象の周辺環境と構成要素と関係についての理解を深めることは判断力の向上につながる。日本テレビやフジテレビなどのキー局は映画製作を行っている。もしあなたが地方の放送局の経営者だったら、それを模倣して映画製作をし、興行として成功を収めることができるだろうか。おそらく難しいだろう。数億円規模の投資を行う資金余剰、全国放送される番組やCM枠を持つ事によるプロモーション力(地方テレビ局はその地域の番組とCMしか流せない)、監督や俳優陣への交渉力とそれに紐づくコンテンツの魅力の創出、いずれもキー局だからこそ実現できるものであり、地方の放送局が単体で模倣しても簡単には上手くいかないだろう。

模倣を実践する能力

模倣対象となるモデルを見つけた後は、その模倣を実現化させる能力が必要となる。模倣の実行段階では、個人ないし組織の持つリソースと、リソースの配分計画が重要となる。

ファッション業界では、当然だがトレンドにあった商品が売れる。ZARAは、市場や社会のトレンドをみて、そのトレンドにあう新商品を驚くようなスピードで企画し販売する(他社が数ヶ月かかるところを4週間あまりで実現する)。トレンドを模倣する「スピード」こそがZARAの成功の大きな要因の1つであり、それを実現するリソース(生産工場や物流システム)を彼らは持っていたのだ。

最後に

よき模倣のための6つのプロセス・能力

  • 心構えを万全とする
  • 対象を参照する能力
  • 情報を探索し・評定し・選択する能力
  • 対象の文脈を理解し、自らに適用する能力
  • 対象に深く潜り込む能力
  • 模倣を実践する能力

これらは順番に行われていくというよりも相互に影響しあい、より良い模倣・結果を生み出していくものである。模倣とは、複雑な世界から本質となるものを発見し、新しいものを生み出していくという、知的で創造的な行為だ。何かを始めるとき、模倣するときはこの6つのプロセスを考え抜いた上で着手した方が、成功率が上がるだろう。

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