アメリカ国内に約6万2千人いるとされる、視覚障害を持つ子どもたち。そのうち点字を学ぶ環境に恵まれている子どもはわずか8%しかいないという事実を、あなたは知っているだろうか?さらに、全盲かつ点字が読めない大人の失業率は97%にも上るということはどうだろう?
視覚障害を持つ人々が、「聞く」「話す」などの基本スキルに加えて「点字」を当たり前に学び、少しでも快適に生活できる環境を整えることはとても重要だ。その実現を助ける製品も、市場に出回るようになってきた。しかし、販売中の学習ツールの多くは高価だったり複雑だったりするため、視覚障害のある子を持つ親の多くは、頭を抱えているというのが現状である。
そんな現実を変えようと、アメリカ在住のベス&ジェイク・ラコース夫婦が立ち上がった。彼らの次女レベッカが視覚障害を持って生まれたことをきっかけに、手頃な価格で購入でき、かつ子どもたちが楽しく簡単に点字を学べるおもちゃを模索し続け、ついに学習ツール「BecDot」を開発した。Becはレベッカの愛称である。
BecDotは、身の回りにあるものの名前を覚えながら、子どもたちが楽しく点字の読み書きを学べるおもちゃである。4文字分の点字パネルが取り付けられているので、4文字以下からなる単語であれば何にでも対応可能だ。
まずは携帯の専用アプリに覚えさせたい単語を登録し、近距離無線通信を使用した専用タグを携帯にタッチして連動させる。次にBecDotでタグを読み取り、登録したものの名前が点字パネル上に表示される。点字パネルの各点が、必要に応じて出たり引っ込んだりすることで、子どもは触りながら点字を学ぶことができるという仕組みだ。
事前にアプリに登録しておけば、同時に読み上げ音声を流すこともできる。光ったり音が出たりすることも、子ども向けおもちゃならではの工夫だ。
BecDotのバッテリーは電池消費を最小限に抑えるシンプルなデザインで、製作には3Dプリンターを使用する。まだ試作段階だが、完成時の販売価格は100米ドルを下回る予定。これは、他社類似製品と比べても破格である。本体以外の備品を購入する必要がないので、コストが最小限に抑えられることはポイントだ。
点字学習ツール普及の最大の障害がコストだということを考慮すれば、この製品の発明は画期的だといえる。視覚障害をもつ子どもたちの点字識字率を上げること。その達成の先にあるのは「誰もが平等に、あらゆる仕事、機会、情報にアクセスできる社会」「皆が人生を楽しみ、謳歌できる社会」だ。その実現のために今、何ができるだろうか。社会を巻き込む大きな変化は、私たち一人一人の小さな変化から始まる。
※視覚障害者の方々への寄付やサポートはFoundation Fighting Blindnessから
【参照サイト】BecDot
【参照サイト】Statistical Facts about Blindness in the United States