「ディスレクシア(dyslexia)」という言葉を聞いたことがあるだろうか。ギリシャ語でディス(dys)は「困難」を、レクシア(lexia)は「読む」を表す。その2つを合わせ、日本語では「難読症」や「読み書き障害」と訳される、学習障害のひとつだ。
この障害の特徴の一つは、“文字とその文字が表す音を組み合わせ、ひとまとまりの単語として理解すること”がとても難しいということ。そのため、読み間違いや読み飛ばしが多かったり、読み書きに時間がかかったり、音読はできても文章が理解できなかったり、といった症状が出やすいという。
欧米では、人口全体の10%~15%が持っているといわれるこの障害。全体で30人のクラスの中では、およそ3人から4.5人の生徒がディスレクシアという計算だ。これは決して少ない数字ではないが、人々の障害に対する認知度はまだまだ低い。
この問題にスポットを当てたのが、今回紹介する英・レオバーネットロンドン社と、英ディスレクシア協会の取り組みだ。7月16日と17日の2日間、バーミンガムとロンドンに巨大スクリーンが設置され、本キャンペーン「ディスレクシアの瞬間(A Moment of Dyslexia)」は始まった。そこには、「イギリスで働く皆様へ」から始まる、長文のメッセージが綴られている。「ディスレクシアって何なのか、言葉で説明するのは難しい。だから、実際にお見せしましょう」
なんだろう?と興味深げに目を向ける人々。そうすると不思議なことに、画面上の文字が勝手に動き出し、点滅したり小さくなったり…… よく見ると、単語のつづりもいくつか間違っている。だんだんと、読み進めるのが困難に、苦痛になっていく。
これは、「ディスクレシアの人々の見え方」を再現したものなのだ。文章を見つめているうちに、文字が躍ったり動いたりねじれて見え始め、どこにどの文字があるのかわからなくなってしまうという症状。この大変さを一般の人にも体験し、理解してもらおうというのがキャンペーンの狙いであった。
「実際の体験を通して、人々の意識は大きく変わると思います。今後、ディスレクシア・フレンドリーで、寛容な職場環境・社会が整っていくことを願うばかりです」そう語るのは、英ディスレクシア協会副会長のマーガレット・マルパス氏だ。
本キャンペーンに対する人々の反響は大きく、イギリスの広告会社、オーシャン・アウトドア社のデジタル・クリエイティブ広告コンテストでは、チャリティ部門で見事1位を獲得した。
欧米では人口全体の10%~15%がこの障害を持つということはすでに述べたが、実は日本では、ディスレクシア単独の調査がないなど、あまり知られていない障害の1つでもある。もしかするとあなたの学校や会社や家族にだって、人知れず悩み、大変な思いをしているディスレクシアの人はいるかもしれない。だからこそ、まず私たち一人ひとりが「知る」ということ。それだけで、救える誰かがいるかもしれないのだ。
【参照サイト】Leo Burnett and British Dyslexia Association Create a Moment of Collective Dyslexia