ドリンク1杯の値段が人によって変わる──そう聞いたら、あなたは不公平だと思うだろうか。2025年1月21日、ロンドン中心部のホルボーン地区に一晩だけオープンしたポップアップパブ「The Fair Pour」では、個々人がレジでそれぞれ異なる金額を支払っていた。
「Old Money Fashioned」や「The Billionaire’s Breeze」など、お金にまつわる名前のモクテルが置かれたこちらのパブでは、飲み物を注文するとスタッフに飲み物の代金を尋ねられる。顧客自身が自分の収入を鑑み、収入の少ない人は少なめに、富裕層は通常より高めに、といったように、それぞれが「公平だと思う金額」を支払うのだ。最低価格は3ポンドで、収益はすべてオックスファムに寄付される。億万長者たちは1杯(1パイント)に100万ポンド支払うことが推奨された。
来店客が個人の資産に応じて料金を支払うこのパブは、「超富裕層への課税」などが話題になるダボス世界経済フォーラムの年次総会に合わせてイギリスの国際NGOオックスファムとPR会社Hope&Gloryが企画したもの。超富裕層とそれ以外の人々の間に広がる不平等を浮き彫りにすることを目的としている。
1杯100万ポンド、というと高額に思えるかもしれないが、富裕層にとってはそうではない。2025年1月に公開されたオックスファムのレポートによると、2024年の億万長者の富は前年の3倍のスピードで増加。また、2024年の英国の億万長者の資産総額は、1日当たり3500万ポンド増加し、1820億ポンドに達したという。億万長者たちにとって100万ポンドは、彼らの資産という大海のうち「ほんの1滴」に過ぎないのだ。
オックスファムのシニアキャンペーンマネージャー、ケリー・マンディ氏は、 London Evening Standardにおいて下記のように述べている。
「富の不平等は社会の衝撃的な現実であり、毎年悪化しています。より公平な社会を実現するためには、累進課税や公共サービスへの投資など、大胆な解決策が必要です」
「このパブが、より公平な税制が誰にとっても公正な社会を実現する可能性があるということを、人々に考えてもらうきっかけになれば幸いです」
「いくらお支払いになりますか?」ドリンクを差し出すスタッフにレジカウンターでそう聞かれたら、あなたは財布からどれだけのお金を出すだろうか。
【参照サイト】Welcome to The Fair Pour(Oxfam)
【参照サイト】Starting the year strong we’ve been working with Oxfam to create the “Fair Pour” – a “protest in a pint glass”(Hope&Glory)
【参照サイト】A new pub in London is opening where you pay based on your net worth(London Evening Standard)
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