「奴隷制度」は過去の遺物。あなたはそう思ってはいないだろうか。たしかに、映画でもお馴染みの“古代ローマの奴隷(グラディエーター)”たちが活躍したのは何千年も前の話だし、アメリカでの奴隷制度は、1862年の奴隷解放宣言によって終わりを告げたはずだ。いまだ奴隷制度を合法化している国など一つもない。
しかし実は今でも「奴隷」というものは、影を潜めつつ確かに存在している。人身売買の末、家庭内あるいは特定セクターで強制労働を強いられたり、強制結婚や性的搾取、臓器売買に追い込まれたりするなどケースはさまざまだが、そこに共通しているのは、「絶対的な力を持った“主人”と、それに従うほかない“弱者”という構図が存在している」こと。身体的あるいは精神的暴力・脅迫によって自由を奪われた弱者が、主人の思うがままにコントロールされている状態だ。
姿や名称は変わっても、19世紀アメリカに存在した奴隷制度と、根源は何一つ変わっていない。この制度に苦しむ人々は全世界に4,000万人以上。とりわけ世界で難民問題が深刻化している近年では、老若男女・国籍を問わず、増加の一途を辿っているという。
約1万3,000人が「奴隷状態」に苦しむイギリスで、この現状を変えようと立ち上がった慈善団体がUnseenだ。「現代奴隷制度の相談窓口(Modern Slavery Helpline)」を運営する彼らは、イギリス最王手の電気通信事業者BT社と手を組み、相談窓口のアプリ版となるUnseen Appをリリースした。
このアプリの特徴は、奴隷制に苦しむ当人というよりも、彼らと同じ国で生活する一般市民たちに向けられているということだ。ユーザーはまずアプリを通して、現代の奴隷制についての基本情報を学ぶ。
どのような環境で発生しやすいのか、弱者として苦しめられている人、あるいは主人として搾取している人の兆候(サイン)はどのようなものがあるか。それらの知識・チェックポイントを頭において周りを見渡してみたときに、これはもしかして?と思う場面に出会うかもしれない。そんなときは、アプリ上から匿名で相談できるシステムになっている。
実際に弱者として搾取されている人は、主人への恐怖から、自ら助けを求めにくい状況にある。ならば傍観者である私たちが、事態に敏感になり「告発」することで、犠牲を未然に防げるのではないか。そんな考えのもと作られたアプリだ。
BT社の本プロジェクト責任者、エリック・アンダーソンは次のように語った。「現代版奴隷制度の撲滅のためには、一般市民たちの意識を高めることが不可欠です。毎日持ち歩くスマートフォンから簡単に相談ができれば、勇気をだして行動してくれる人も増えるでしょう」
自ら声を上げられない人ほど、絶体絶命な状況におかれている可能性がある。一見「直接関係のない第三者」である私たちだからこそ、できることや気づけることがあり、私たちのアクションにより救える人々がいるのだということ。そんな大切なことを改めて気づかせてくれるアプリだ。