「ある日ふと思ったんだ。最後に満天の星空を見上げたのはいつだっただろう?ってね」
メディアの取材でそう語ったのは、ロンドン在住の活動家、ドゥルブ・ボルアー氏だ。一日に14時間以上、パソコンの前に座りっぱなしだったコンサルタント時代。そんな日々に嫌気がさして仕事を辞め、ロンドンからブラジルのリオデジャネイロを目指す競技ボートの大会に参加した。長い航海の中で、同氏の印象に残ったのは、太陽が海を黄金色に染め上げる夕暮れでも、全身に吹き付ける心地よい海風でもなかったという。
「海の上には、本当にたくさんのプラスチックが浮かんでいたんだ。プラスチックに絡まって身動きが取れなくなっているウミガメも見かけたよ」
レース後、故郷ロンドンの水路に浮かぶ無数のプラスチックゴミを見て、なんとかしなくては、という使命感を感じたボルアー氏。アクティビストに転身した彼が始動したのが「テムズプロジェクト(The Thames Project)」である。
浮き具とプロペラを取り付けた、お手製の“水用自転車”を使って、ロンドン市内を流れる運河の中を“サイクリング”しながら、プラスチックゴミを集めて回る活動だ。水に浮かぶってところが、ちょっとキリスト気取りでかっこいいだろ、と笑う。
さらに、運河に浮かぶゴミをすべて取り除くことがプロジェクトの目的ではない、と語るボルアー氏。「僕一人の力では、到底そんなの無理だからね。そうじゃなくて、一般の人々に汚染問題について知ってもらうこと、彼らの意識を変えることが目的だ」
ロンドンのテムズ川から始まったこのプロジェクトは、世界中の賛同者の力を借りながら、イギリス各都市だけでなく、いまやオランダのアムステルダム、ライデンにも広がった。たった1日の活動で、275キロものゴミを回収したこともあるという。小型トラックが満タンになる総量だ。
ボルアー氏が行ったTEDトークでは、廃棄プラスチックがもたらす深刻な問題について語られている。自然分解されずに、廃棄物として一生残り続けるプラスチック。
やがて磨耗され小さくなって、マイクロプラスチックとして空中に舞い海中に溶け込み、知らず知らずのうちにそれを口にしているのは他でもない私たちだ。つい最近の調査 でも、東京湾や沖縄県の海岸で採れる二枚貝の中に、大量のマイクロプラスチックが蓄積していると明らかになったばかりだ。
このままいけば2050年、海に漂うプラスチックゴミが、海に住む魚の総重量を上回るとされている。今からたった30年後の未来を、私たちは変えられるだろうか?その答えは、今日、私たちがどう行動するかにかかっているのではないだろうか。
【参照サイト】The man who fishes for plastic from a floating bicycle