「修理」や「使い捨てプラ」実際どう変わった?サーキュラーエコノミー法規制のリアル【欧州通信#23】

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近年ヨーロッパは、行政およびビジネスの分野で「サステナビリティ」「サーキュラーエコノミー」の実践を目指し、さまざまなユニークな取り組みを生み出してきた。「ハーチ欧州」はそんな欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、日本で暮らす皆さんとともにこれからのサステナビリティの可能性について模索することを目的として活動する。

ハーチ欧州メンバーによる「欧州通信」では、メンバーが欧州の食やファッション、まちづくりなどのさまざまなテーマについてサステナビリティの視点からお届け。現地で話題になっているトピックや、住んでいるからこそわかる現地のリアルを発信していく。

前回は、「クリスマス」をテーマに、欧州で模索されるクリスマスをサステナブルに過ごす方法について、ご紹介した。2024年初回である今回のテーマは「サーキュラーエコノミー法規制」だ。欧州では、地域や国を単位に数々のサーキュラーエコノミーに関連する法規制が設けられているが、実際の市民の生活はどのように変化しているのだろう。それぞれの国の様子を紹介していきたい。

【ドイツ】使い捨て容器のデポジット対象を拡大。消費者とともに包装廃棄物削減を目指す

2003年、ドイツ政府は飲料容器を回収・リサイクルして持続可能性向上を目指すデポジット制度を導入。デポジット料金は25セント(約40円)で、2024年1月現在、国内全土の多くのスーパーに飲料容器の自動回収機が設置されている。2022年1月、デポジット対象がより多くの使い捨てプラスチック製飲料ボトルと飲料缶に拡大され、2024年1月1日から牛乳・乳飲料用使い捨てペットボトルもデポジットの対象となった。

こうしたドイツのデポジット制度は成果をあげており、オーストリアの環境保護組織であるGlobal 2000が2020年に発表したレポートによると、ドイツの使い捨てプラスチックボトルの回収率は98%で、EUで最も高い回収率を達成した。

デポジットに関連して、リユース容器の普及に向けた取り組みも進められている。2023年1月、ドイツは容器包装廃棄物法を改正・施行し、持ち帰り用の食料・飲料品を販売する一定規模以上のレストラン・カフェ・ケータリングなどに対して、リユースカップ・容器を顧客に提供する選択肢を設けることを義務付けた。今後、より多くのレストラン・カフェがリユース容器を導入していくことが期待される。

ドイツ政府はデポジット制度という政策を通じて消費者を巻き込み、包装廃棄物削減に向けた取り組みを進めている。

デポジット対象を示す印|Photo by Ryoko Krueger

【オランダ】プラスチック使い捨てコップ・食器が全面禁止へ。一方課題も

オランダでは2024年1月から職場、飲食店でのテイクアウト時、イベントにおいてすべての使い捨てプラスチックコップや食器の利用を禁止する法が施行された。「紙に見えるがプラスチックが用いられているコップ」などもこの規制の対象に該当する。

この背景には、オランダで毎日約900万個のプラスチックコップや食器が一度使っただけで捨てられていたという事情がある。2023年7月からは、いわば移行期間として「無償での」提供が禁止となっていたものが、2024年1月をもって有償での提供も禁止となった運びだ。

実際に多くの職場やイベントなどでカップ・リユースの利用が進む一方で、法規制に該当しない竹や紙素材の使い捨てコップ・食器の利用が有意に増加したことも指摘されている。今後は、素材を変えるだけではなく、いかに使い捨て自体を減らしリユースの仕組みを拡大していくかといった、問題の根本解決に向けた動きが求められている。

Photo by Kozue Nishizaki

大規模イベントではデポジット制のコップ再利用の仕組み、ハードカップシステムの利用が進む。|Photo by Kozue Nishizaki

【フランス】「修理可能指数」に加え「耐久性指数」も?ものを長く使う流れが進む

2021年1月から、フランスでは家電製品の「修理可能指数(Indice de réparabilité)」を表示することが義務付けられている。この指数は、0から10のスコアで色分けされたラベルにより、製品の修理しやすさを示す。対象製品は、スマートフォン、パソコン、テレビ、芝刈り機、洗濯機、食器洗い機、掃除機、高圧洗浄機などだ。

家電売り場の様子。写真にあるテレビの修理しやすさは7.9/10点|Photo by Erika Tomiyama

さらに今後は「耐久性指数」も導入予定。この指標は、製品の修理可能性だけでなく、寿命や強度も総合的に評価する。これにより、製品の耐久性がより明確になり、消費者は長持ちする製品を選びやすくなる。

また、フランス政府は修理のしやすさの見える化だけでなく、冷蔵庫や洗濯機などの家庭用電化製品の修理に関して10~45ユーロ(約1,500~7,000円)の補助金制度を2022年から導入しており、2023年10月には服の修理や仕立て直しに対しても補助金を導入している。修理補助の金額は年々拡大しており、誰にとってもわかりやすい「安さ」というインセンティブが市民の心を動かしているといえる。今後も政府主導で、「今あるものを長く使う」流れは強くなりそうだ。

【参考サイト】Indice de réparabilité
【参考サイト】Code de l’environnement

【イギリス】食品ロス削減のため、生鮮食品の賞味期限表示を廃止

イギリスでは、ラベリング法規に基づき、ほとんどの食品には「使用期限(use by)」または「賞味期限(best before)」が表示されることが義務付けられている。しかし、多くの消費者が「賞味期限」と「使用期限」を混同したまま、良好な状態の食品を廃棄してしまうケースがあるため、表示方法の見直しが行われている。

そこで、大手のスーパーマーケットチェーン(Waitrose、Marks & Spencer、Morrisons、Tesco、Sainsbury’s、Co-opなど)では、りんご、オレンジ、トマト、人参、ジャガイモ、タマネギ、ブロッコリーなどの果物や野菜、そして乳製品やヨーグルトから賞味期限表示のラベルが取り除かれた。家庭内で最も廃棄されやすい食品がターゲットになっているのがポイントだ。

Morrisonsでは、牛乳の賞味期限表示を廃止する代わりに、消費者が自身で判断できるように「匂いテスト」のやり方をホームページで公開している。手順としては「牛乳を見てみて、凝固していないか確認」、その後「酸っぱい匂いがしないかを確認」する。

Image via Morrisons

食べられるものを無駄にしないためには、表示に頼るのではなく、五感を研ぎ澄まそう。消費者がついそう思ってしまう、シンプルで思い切った施策だ。

【参照サイト】Major supermarket removes ‘best before’ dates on 150 items in huge shake-up
【参照サイト】Morrisons scrapping ‘use by’ dates from milk to help customers reduce waste

編集後記

日々更新されているサーキュラーエコノミーに関連する法規制。それは市民の生活にも確実に影響を与えているようだ。思い切った施策であったとしても、意外とすぐに消費者が馴染めるものもある。一方で、オランダのプラスチック使い捨てコップ・食器禁止の事例のように、規制を導入したことで、新たな問題が浮き彫りになることもあるようだ。

どのようにインセンティブをつくるのか、あるいはどこまでは消費者の善意に任せるのか。各地の文化や考え方をうまく取り入れながら、施策を練り、実践していく必要があるだろう。

Written by Ryoko Krueger, Kozue Nishizaki, Erika Tomiyama, Megumi
Presented by ハーチ欧州

ハーチ欧州とは?

ハーチ欧州は、2021年に設立された欧州在住メンバーによる事業組織。イギリス・ロンドン、フランス・パリ、オランダ・アムステルダム、ドイツ・ハイデルベルク、オーストリア・ウィーンを主な拠点としています。

ハーチ欧州では、欧州の最先端の情報を居住者の視点から発信し、これからのサステナビリティの可能性について模索することを目的としています。イベントでの講演や、アムステルダムの現地視察ツアーなどお気軽にご相談ください。

事業内容・詳細はこちら:https://harch.jp/company/harch-europe
お問い合わせはこちら:https://harch.jp/contact

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