世界的にサステナビリティや環境保護への機運が高まる中、もっとも変革を迫られている業界の一つがファッション業界だ。2018年7月、イギリスの高級ファッションブランド「バーバリー」がブランド保護のために服やアクセサリーなど2860万ポンド相当の売れ残り商品を焼却・破壊処分していたことを公表し、消費者や環境団体から多くの非難を浴びたニュースは記憶に新しい。
NIKEやH&Mなど大手企業らも参画するファッション業界のイニシアチブ「Global Fashion Agenda」の調査によると、2030年までに世界のファッション廃棄量は1億4800万トンまで膨らむと推定されている。問題は日本でも深刻だ。中小企業基盤整備機構の調査によれば、日本では年間94万トンの服が廃棄されており、そのうち65万トンが焼却・埋め立てされている。また、NHKも昨年9月、市場に投入される28億点の衣服のうち約半数が余剰在庫として売れ残っており、その一部は新品のまま焼却処分されているという衝撃的な現状を報じた。
なぜ大量の資源や労働力を投入し、環境に多くの負荷をかけて作った洋服たちを、新品のまま捨てる必要があるのだろうか。そこには、在庫処分のために過度なディスカウントをすることでブランド価値を棄損したくないというファッションブランドの意向や、季節ごとに目まぐるしく変わるファッショントレンド、倉庫の保管スペースやコストの限界など様々な理由がある。
このファッション業界が抱える大量廃棄問題の解決に取り組んでいるユニークなプロジェクトが、愛知県名古屋市に本拠を置く株式会社FINEの「Rename」だ。
「Rename」は、ディスカウントによる在庫処分などでブランド棄損をしたくないアパレルメーカーから余剰在庫を買い取り、アパレル加工工場でブランドタグや洗濯表示タグの付け替え加工を実施、「Rename」という新たなブランド名に表示を変更して再販するというユニークなビジネスモデルだ。
メーカーのブランド棄損を防ぎ、廃棄コストの削減に貢献しつつ、消費者に対してはブランドではなく純粋な品質やデザインを基準とした新たな服との出会いを非常にリーズナブルな価格で提供する。今回、IDEAS FOR GOOD編集部では「Rename」事業を手がけるFINEのCOOを務める津田一志さんに、同社の取り組みを詳しくお伺いしてきた。
Renameのビジネスモデルを思いついたきっかけ
かねてから余剰在庫問題が深刻化しているファッション業界では、ブランドタグや洗濯表示タグを取り外し、再販をするという取り組みは一部で行われていた。しかし、タグを取り外すだけではなくそこに新たに「Rename」というタグを取り付け、新たなブランドとして売り出すという仕組みは新しい。このアイデアはどこから来たのだろうか。FINEの津田さんはこう語る。
「もともとはお客様からの要望でした。最初に扱ったのは大手小売チェーンさんのプライベートブランド(PB)だったのですが、PBは一般的に他のお店では売れないため、自社で売り切れなかったものはどうしても廃棄せざるを得ません。しかし、焼却処分にもコストはかかるため、何とか社外で販売する方法を模索していました。」
「洗濯ネームの取り外しはすでに一部行われていたのですが、そうすると訳あり商品になってしまいますし、クリーニングで受け取ってもらえないこともあります。それであれば、新しい名前のタグを取り付けたほうが服の価値を維持できて、大切に着ていただけるのではないかと考え、全てのタグを付け替えて販売し始めたのがきっかけです。」
また、FINEではブランドの服をネットオークションで販売していた時期があり、あえてブランド名を表示せず販売してみたところ思った以上に売れた。その経験から、ブランド名を出さなくても売れる商品はかなりあることに気づいていたのだという。
「ブランド名を出すメリットは当然あるのですが、それゆえに顧客層を狭めてしまうというデメリットもあります。Renameでは、ブランド名ではなく服そのものをフラットに選んでもらえるきっかけを作れないかと考えたのです。」
たしかに、ブランド名を表に出すと、消費者の中には「自分にはこのブランドは似合わないから」という先入観だけで購入を避ける人も出てくる。元々のブランドは関係なく、Renameという新たな名前でリブランディングすることで新たに売れる服があるという点は面白い。
なぜRenameは在庫を売り切れるのか?
せっかくアパレルブランドから売れ残りの余剰在庫を買い取り、Renameブランドとして再販したとしても、それらが売れ残ってしまっては意味がない。しかし、実際にRenameで取り扱っているのは、ブランドが売り切れなかったもの、つまり不人気だった商品ということでもある。このジレンマを、Renameはどのように解決しているのだろうか。
まずは、そもそも在庫買い取りの時点から商品選別をしているのかどうかを尋ねてみると、津田さんはこう返してくれた。
「基本的に買い取り時の選別は行いません。ある在庫はすべて買い取るというのが弊社のポリシーです。企業には決算の都合や倉庫を空にしないといけないなど様々な事情があります。買い取るものを選別してしまうと結局は在庫が残ってしまい、根本的な問題解決にはつながりません。」
「ブランド名がプリントされているものなどはRenameでの販売は難しいですが、その場合はブランド名を活かしたまま再販できるかを相談しています。たしかに売りづらい商品はあるのですが、基本的には全て買い取ります。」
商品に関わらず全てを買い取ってくれるFINEの存在は余剰在庫を抱えるアパレルメーカーにとっては心強い味方だが、同社はどのようにしてそれらを売り切るのだろうか?
「現在Renameは3年ほどやっていますが、在庫はほぼなくなっており、現在のところ順調に消化しています。理由は二つあります。一つは、通常ブランドはワンシーズンを終えると商品を売ることができなくなり、アウトレットに回すか処分することしかできませんが、Renameの場合はシーズンが終わっても2年目、3年目に再び売ることができるからです。Renameでは非常に長い期間売れるのです。」
「また、二つ目の理由はやはり価格です。価格をコントロールすれば、どの服もほぼ売れます。通常ブランドはブランド棄損を避けるために値下げをしたくありませんが、Renameではすべての服をお客様に届けることに意味があると思っているため、しっかりと細かく価格コントロールをします。だいたい一年で在庫の7~8割を消化して、3年目にはほぼなくなります。中には不良品なども出てきてしまいますが、まだ着用できるものは古着としてリサイクル店に引き取ってもらいます。」
Renameの商品価格は、もとの定価の3~8割引程度に設定されている。もともとは小売店への卸なども展開していたが、2017年12月からファッションEC大手のロコンドと提携し、「LOCONDO Rename」の名で直接消費者向けの販売を開始。翌年には自社ECサイト「Rename.jp」もスタートし、現在では7~8割がEC経由で売れているという。
Renameはシーズン落ちした商品でも来年、再来年と売ることができるうえ、ブランド棄損を気にせず価格をコントロールすることもできる。そして自社の販路もしっかりと持っている。これらの強みがRenameのビジネスモデルを支えているのだ。
徹底した管理がメーカーからの信頼を生む
Renameにはすでに累計30程度のブランドが参画しており、サービス開始当初はショッピングセンターなどで販売されているベーシックなブランドが中心だったものの、最近では百貨店で販売されている高級ブランドや若者向けブランドなども入ってきているという。
アパレルメーカーから余剰在庫を買い取って販売するというビジネスモデル上、時期によって商品構成は大きく変わるものの、基本的にはベーシックなデザインの服が多いそうだ。
アパレル業界の常識を覆す新しい取り組みであるにも関わらず、短期間でここまでブランドからの信頼を獲得できた理由は、Renameの徹底的な管理体制にある。Renameでは、取り外したブランドタグも一つの残さずメーカーにしっかりと返却しているという。
津田さんは、「タグを変えると言っているのに変えていないとまずいので、1,000枚なら1,000枚の洗濯ネームタグをしっかりとお返しします。それをお客様に確認していただいてから初めて販売します。1枚でもタグがなくなるとその商品が販売禁止になるブランドもあり、ロスが出てしまうため、徹底的に管理しています」と語る。
また、FINEではRenameではなくブランド名をそのまま活かした再販も行っている。その在庫を買い取る際にはブランド棄損リスクを防ぐために特定のECサイトやリアルの販売は禁止するなど、細かな販売制限をしっかりと契約で明確にしている。このような徹底した管理体制が、リセールによるブランド棄損を恐れるメーカーからの安心感につながっている。
Renameがブランド棄損予防からブランド価値向上になる時代
ブランドタグを付け替えることで、ブランドを棄損することなく服を再販できるというのがRenameの最大の特徴だが、津田さんはこの価値自体もいずれは変わっていくと主張する。
「Renameでは、ロゴが入っているものは扱わないのですが、それでも見た目で分かる人もいるかもしれない。100%元のブランドが分からなくなることはできないとお伝えしています。一方で、分かってしまうことがネガティブかというと、必ずしもそうではないと考えています。残った在庫もRenameを使ってしっかり販売しているということが消費者に伝われば、逆にブランドのイメージアップにつながるという時代が必ず来ると思っています。」
「個別の商品がどこのブランドですよ、という話ではなく、例えばブランド様自身が『Renameの賛同企業です』という形でアピールされることも出てくるのではないかと考えています。残った在庫も廃棄せずしっかりと売り切るということが新しいブランドの価値になるのです。」
いま消費者が求めているのは、環境や社会にしっかりと配慮しており、何かを犠牲にしているかもしれないという不安や罪悪感を覚えることなく、自信を持って気持ちよく身につけられるファッションだ。ブランドはRenameへの参画を表明することで、ディスカウントなどによりブランド棄損をするどころか、むしろブランドイメージを高めることができる時代が来ているのだ。
ブランドの店舗にRenameの棚が置かれる日
Renameは、いずれブランド価値の棄損予防から、ブランド価値の向上のために選ばれる日が来ると確信している津田さんは、将来的にはブランドの店舗内にRenameの服を置いてもらい、業界内で在庫のシェアリングをするという未来を描いている。
「アパレル業界では、通常は競合ブランドのお店に商品を置くことはできません。しかし、アパレルは店頭販売が主流で、現状は棚を空けると機会損失になるため、追加で服を作り、結果として売れ残ってしまうという状況もあるのではないかと考えています。それを解決するような、業界全体で在庫をシェアリングする仕組みを作れないかなと考えています。」
「自社だけだと追加しても売れ残るリスクがあるので、それであれば他のお店で余っているものを売ろうと。ブランド名がそのままだとさすがに問題がありますが、Renameであればブランドの垣根を越えて業界全体で在庫の活用することができるというアイデアです。ハードルはとても高いと思いますが。」
店舗の一部の棚にRenameの商品を置き、ブランドの服とセットで販売を提案してもらう。ブランドの高級ジャケットに、Renameのシンプルで手頃な価格のTシャツを合わせるといったイメージだ。Renameはベーシックなデザインのアイテムが多いため、自社ブランドの服の引き立て役としてRenameを提案しつつ、自社の廃棄削減への取り組みもアピールできるというのが津田さんの考えだ。
「Renameをメインのブランドを補うためのパーツとして使ってもらえるとよいなと。Renameには背景があります。似たような商品を買うのであればRenameがいい、という状態になるのが理想ですね。」
現状のRenameはタグを付け替えるというソリューションだが、今後はRename自体の意味を拡張し、消費者も含めてアパレル業界全体がよくなる仕組みのことをRenameだと認識してもらえるよう、その意味を変えていきたいと津田さんは語る。
「消費者に色々な気づきを与えることも大事です。企業は消費者を見て商品を作っていることも多いのではないでしょうか?その消費者が変われば企業も変わらざるを得なくなります。それがRenameの取り組みの本質なのです。」
廃棄される生地を活用した自社ブランド「Rename X(クロス)」
Renameの意味を拡張する取り組みの一環として、FINEは新たに「Rename X」というオリジナルブランドをローンチした。
アパレル工場では服だけではなく生地の在庫問題も深刻化しており、製品になるまでの生地ロスも多いという課題がある。そこで、FINEではこれらの生地ロスを活用し、メーカーと提携しながら自らも服づくりに取り組む。
ただ生地ロスを使うだけではなく、工場の閑散期に服を作ってもらうことで年間を通じて安定的に仕事を生むという意図もあるという。服のデザインも、提携メーカーの過去のストックを組み合わせて作る。「すでにあるものを活用する」という考えはここにも徹底されている。
Rename Xの一番の目的は、服を通じて消費者にファッション業界が抱える廃棄の課題や、服は人の手で作られているということを知ってもらう。そうした背景に敏感な消費者が増えれば増えるほど、アパレルメーカーがRenameを導入する必然性も増していく。Rename Xはそのためのツールでもあるのだ。
取材後記
アパレル業界に新たな常識を作り出すべく邁進している津田さんのお話の中でも特に印象的だったのは、Renameはいずれブランド棄損の予防手段ではなく、ブランド価値の向上手段になるという話だ。
現状では多くのファッションブランドが自らのブランドイメージを維持するためにディスカウントや量販店での再販を避け、結果として無駄な廃棄を生み出している。しかし、いま消費者がブランドに求めていることは、イメージを守るために服を捨てることではない。むしろ、消費者は自分の好きなブランドが環境や社会にも正しいことを行っているということを証明し、安心させてほしいのだ。
Renameへの参画は、ブランドとして「何を大事にするのか」の表明でもある。ファッションの廃棄を取り巻く課題はとても大きく複雑で、Renameの仕組みだけで解決できるわけではないが、それでも確実に廃棄を減らすことができる優れたソリューションだ。多くのブランドの店舗でRenameの商品が棚に並ぶ日が一日でも早くやって来ることを期待したい。
【参照サイト】Pulse of the Fashion Industry 2018 report
【参照サイト】衣類の生産から廃棄・リサイクルまでの流れ(2009年度:推計値)
【参照サイト】新品の服を焼却!売れ残り14億点の舞台裏
【参照サイト】Rename
【参照サイト】株式会社FINE