アシックスが「CO₂排出量世界最少スニーカー」発売。その開発の裏側を探る

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「日本人の足にフィットする」ことで知られる日本のスポーツメーカー、アシックスが、“CO₂排出量世界最少スニーカー”として「GEL-LYTE III CM 1.95(ゲルライトスリーシーエム1.95)」の販売を開始する。2023年9月14日からアシックスオンラインストアで先行発売し、9月22日からアシックス原宿フラッグシップ、そしてアシックス大阪心斎橋で発売予定だ。

今回発売されるスニーカーは、シンプルで使い勝手の良い白色のワントーン。一足あたりの温室効果ガス排出量を1.95kgCO2e(※1)に抑えていることが最大の特徴だ。アシックスは、これを「温室効果ガス排出量が公表されている市販スニーカーのなかで最少」だと発表している(※2)

シューズの写真

メディア発表会でお披露目された「GEL-LYTE III CM 1.95」

どのようにして、ここまでCO2排出量を大幅に削減したのか。9月初旬に開かれたメディア発表会では、サプライチェーンの「材料調達」と「製造」の部分で、従来の製品と比べてCO2排出量を80パーセント削減したことが発表された。そのカギの一つとなったのが、スニーカーのミッドソール(甲被と靴底の間の中間クッション材)と中敷に採用されたカーボン・ネガティブ・フォーム(※3)だ。

これは、サトウキビなどを原料とした複数のバイオベースポリマーを配合したフォーム材である。温室効果ガス排出を抑えることと、耐摩耗性や履き心地などの機能性を両立させるものだ。また、アッパー(甲被)と中敷には、環境負荷の低い「ソリューションダイ」という技法で染色したリサイクルポリエステルを採用している。アッパーの補強パーツにはテープ形状パーツを必要量のみカットし、折り返すなどして配置することで、廃棄を減らす工夫もしている。

また製造工程においては、委託先の工場が太陽光パネルを取り付けることで、この製品の製造に必要な電力を再生可能エネルギーで賄ったり、バイオ燃料を使った輸送を行ったりした。

ソーラーパネルの取り付けられた工場

ソーラーパネルの取り付けられた工場

今回の“CO₂排出量世界最少スニーカー”の開発にあたり、アシックスは多くの課題に直面したという。同社のサステナビリティ統括部⻑である吉川美奈⼦氏は、メディア発表会でこのように語る。

「CO2排出量を正確に計算し、減らしていくには、委託先のサプライヤーの協力が欠かせません。工場側は、これまで求められていなかった環境に関するデータの要求に戸惑っていましたし、アシックス側もどうしたら良いのか迷うことがありました。ブラックボックス化していた部分を解消するために、現地の動画を送ってもらうことで工場で使われる電力の詳細を知りました。

また、再エネ調達も課題でした。今回使った太陽光発電は、(製造委託先の)ベトナムでは全体電力のうち5パーセントしか使われていなかったのです。そこで、グリーン環境目標を設定してもらい、工場の屋根に太陽光パネルを設置することになりました。こちらも、“取引を続けていくためには目標を掲げて、それを開示してほしい”とコミュニケーションしたのです。今後は、人権面も評価に入れていく予定です」

アシックスのサステナビリティ統括部⻑ 吉川美奈⼦氏

アシックスのサステナビリティ統括部⻑ 吉川美奈⼦氏

アシックスは、2050年までにCO2排出量を実質ゼロにすることを掲げている。GEL-LYTE™ III CM 1.95は、そのための重要なマイルストーンとなるスニーカーだ。同製品については、2023年内にグローバル・直営店含めて約5,000足の販売を目指すという。

環境負荷の低い製品の開発には、さまざまなステークホルダーが環境問題を自分ごとにし、短期的な利益や目先のタスクばかりではなく、長期的でよりサステナブルな目標に向けて行動することが求められる。それを叶えるために多くのアクションが行われた結果が、今回のスニーカーだと言えるだろう。アシックスの野心的な挑戦が、業界の新たなベンチマークづくりにつながることを願う。

IDEAS FOR GOODでは9/25にイベントを開催します。「GEL-LYTE III CM 1.95」開発の背景にある、サプライヤーとの新しいパートナーシップの形成やマーケティングの苦悩まで、実際の経験をもとにサステナビリティ統括部長の吉川さん、開発部の松本さんに伺っていきます。是非お気軽にご参加ください。
アシックスの「カーボンフットプリント世界最少スニーカー」社内外を越境するイノベーションをどうつくる?(Climate Creative Cafe.10)

※1 2022年8月にISO14067規格に準拠してアシックスが実施し、SGS (Société Générale deSurveillance) Japanによって検証された計算に基づく。
※2 2023年9月現在、製品ライフサイクルにおける温室効果ガス排出量が開示されている市販シューズを対象としたデータに基づく。
※3 サトウキビ由来の原料を活用。サトウキビの成長過程でのCO2吸収量などがCO2排出量のマイナス要素となり、その量がフォーム材作製に必要なプロセスに由来するCO2排出量よりも大きいため、フォーム材としてカーボンネガティブを実現したとされる。

【参照サイト】GEL-LYTE™ III CM 1.95
【参照サイト】1.95kg CO₂eのカーボンフットプリントを実現 温室効果ガス排出量が最少のスニーカーを開発

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