樽のシェアでコストもCO2も削減。クラフトビール業界の救世主「レン樽」

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多くの人に親しまれるクラフトビール。ビールの味わいや製造過程にこだわり、クラフトマンシップ(職人魂)を持ったクラフトビールは、はじめは技術の不足や味の独特さから敬遠されることがあったが、現在では日本中のバーや居酒屋などで提供され、専門店も開かれるほどに広まった。しかし、急成長するこの産業は、ビール樽の輸送に伴うコストや環境面の課題も同時に抱えている。

クラフトビールの樽が醸造所とビールバーを行き来する過程では、基本的に空になった樽を醸造所に送り返すことになるため、空送りによる無駄なコストやCO2が発生する。また、樽を所有する醸造所のスペースにも限りがあり、出荷が重なって在庫の樽が尽きれば、追加の出荷は不可能だった。

この問題を解決するべく、ビールとITをかけあわせた東京発のスタートアップBest Beer Japanが2019年6月にリリースしたのが、ビール樽のシェアリングサービス「レン樽(たる)」だ。

クラフトビール

Photo by Best Beer Japan

レン樽は、樽の輸送コストに注目している。本来醸造所とビールバーを行き来する樽は醸造所が所有するが、その樽をレン樽が提供することで、各所からの空の樽の輸送を省き、輸送コスト削減に貢献する。また、輸送に伴うCO2排出を削減し、環境面においても効果を発揮している。

「ビールで人生にフレーバーを!」をコンセプトに掲げ、サービスリリースから5ヶ月を迎えたレン樽。今回は、さらなる拡大を目指すBest Beer JapanのCEOピーター・ロゼンバーグさんにお話を伺った。

Best Beer Japan CEO ピーター・ロゼンバーグさん

Best Beer Japan CEO ピーター・ロゼンバーグさん

樽シェアリングサービス創業のきっかけ

「このサービスを始めるきっかけは、私自身がビールが大好きということ、そして市場として毎年約10.5%の成長があるにもかかわらず、業界にインフラがないと思ったこと。クラフトビールを作る方々が受発注や輸送など事務的作業でビール作りに集中できていない状況を変えたい。そして、自分のバックグラウンドでもあるITを使って、それらの作業の負担を軽減したいと思った。」

着実に市場が成長していく中で、ピーターさん率いるレン樽は、クラフトビールをより多くの人に楽しんでもらうためには値段が一つの重要な要素になると考えた。しかし、値段を下げるには製造にかかわるコストを下げなくてはならない。その中で、注目したのが輸送コストだったという。このニッチな課題の解決のために試行錯誤をした結果、海外にはあっても日本にないモデルとして樽のシェアリングにたどり着いたのだ。

もともとピーターさんは、日本で生活する中で、日本のクラフトマンシップに触れる機会があった。2010~2012年の2年間、群馬県嬬恋村に住んでいた頃は、たまにキャベツ畑に出たり、地元の農家が作った野菜を食べて「美味しい」と感じたり、職人の仕事の大切さを改めて感じたという。また、レン樽を立ち上げる前は教育系のテックサービスを展開していたこともあり、彼にとってクラフトビールとITの掛け算は自然だった。

「クラフトの考え方の一つでもあるのが、“地元産”をつかってものを作ること。嬬恋村には小さな醸造所があり、日本のクラフトビールは面白いと感じた。それと、他県のコンサルティングで日本のビール市場について扱ったことで市場の可能性を感じ、自分の経験や強みを活かせることがレン樽の開発につながっている。仮に失敗したとしても大好きなビールがたくさん飲めるしね(笑)」

これまでなかった樽シェアリングの仕組み

では、レン樽の仕組みはどのように輸送の課題を解決しているのだろうか。

レン樽は自らが樽を管理し提供することで、醸造所とビールバーの樽の往復の必要性をなくした。醸造所を出発した樽は中身が入った片道で役目を終え、レン樽に回収される。樽は醸造所のものではなくレン樽のものなので、醸造所は樽の返却を待つ必要がない。これまでは、ビールバーが多忙から返却作業を怠りがちになってしまうことで、醸造所が困るケースがあったという。

しかし、レン樽の登場により、樽を買い足したり樽の返却をビールバーに催促したりするなど、抱える樽の数を気にする必要がなくなるため、より多くのビールバーと取引を拡大できる可能性が生まれた。また、ビールバーにとっても、樽ごとに貼られたQRコードを読み取ることで樽の回収が要請され、レン樽が回収に来てくれるため、使用済みの樽を返送する際の事務作業などを省略でき、業務効率を上げることができる。

レン樽のしくみ

Photo by Best Beer Japan

レン樽が「樽」である理由

レン樽の開発にあたり、ピーターさんは、クラフトビール業界の課題である輸送だけでなく、ビール製造時の環境負荷にも注目した。

「そもそも、ビールは飲料の中でも最もと言っていいほど、製造する過程でたくさんのCO2が排出される。そして瓶、缶、樽などの容器に関わる環境コストはもちろん、梱包の際に入れられる炭酸ガス、発酵させる際の発熱、物流時の燃料コスト、製造にかかわる水などキリがない。

あるイギリスの研究では、ビール製造に使われる水はヨーロッパの約5.3%を占めるという結果も出ているほどだ。また、水をビール製造に使った後にフィルターをかけずに流してしまう醸造所も少なくないので、水質汚染が起こる。これからどう環境への影響を減らしていくかという課題がある。」

アメリカでは、2010~2015年にかけて毎年約19%と、日本の約2倍のスピードで市場が伸びているように、世界規模でクラフトビール市場は成長をしている。日本ではまだ輸送のインフラが整備されていないが、市場が成長するためには、環境面の影響は無視できない。少なくとも、こうした問題が明るみに出てきたのも、市場の成長において新しいフェーズにさしかかっている証拠でもある。

「環境への影響を減らすには、瓶や缶ではなく樽を使うこと、作っている場所の近くで消費することが大切。樽は使い方次第では何十年と使うことができる。われわれが採用する樽は、比較的軽量なものを選んだ。輸送時は重量によってもCO2排出量が変わるからだ。樽の持続可能性が市場で評価され、選択されていくようになることは環境負荷軽減に貢献できるはず。今後は全国に物流拠点を作っていくことで、最寄りの拠点から醸造所に樽を送ることができるようにしたい。」

CEOのピーターさんとレン樽倉庫にある樽の一部

CEOのピーターさんとレン樽倉庫にある樽の一部

レン樽のこれから

今後は、樽の輸送や事務作業の効率化などの他に、ホップの国内生産などもクラフトビール業界全体としての課題になりそうだ。もっと職人が仕事に専念できるようなインフラが整えば、さらにレベルの高い味を目指すことができ、まさにクラフトマンシップの追求を優先できる。

「職人にとっての、地元のものを使いたいとか、目に見えるものを使いたいとか、自分たちのものも作りたい、コラボもしたいという思いや夢を、効率よくエコな方法で応援をしていきたい」とピーターさん。

ITの力を使って、クラフトビールというニッチな産業への革命をもたらすレン樽。製品づくりでは必ず直面する環境負荷軽減にも貢献できるポテンシャルを持っている。この取り組みの可能性はクラフトビール業界だけでなく、その他の飲料産業への応用も期待される。

【参照サイト】Best Beer Japan
【参照サイト】COEDO
【参照サイト】2015 Craft Beer Data Infographic