環境省は平成28年度のデータを基に、2040年にはゴミの埋立地がなくなってしまうことを発表した。現状、日本の一般廃棄物のリサイクル率は20%程度に留まっており、OECD加盟国34カ国の中では29番目と低水準である。国土の狭い日本は廃棄物のほとんどを焼却して埋め立てており、世界全体の焼却炉のうち実に70%が日本に集中している。
さらには、焼却だけでは処理しきれない廃棄物をアジア各国に輸出していたが、2018年に廃プラスチックの輸入を禁止した中国を初め、マレーシアやタイ、ベトナムなど東南アジア諸国も次々と廃棄物の輸出を規制するなか、日本の廃棄物は行き先を失いつつある。
そんな現状を踏まえ、廃棄物問題を根本から解決し、ゴミを新たな資源として循環させるシステムの構築に取り組んでいるのが、レコテック株式会社だ。「テクノロジーでごみを資源に」をコンセプトとする同社は、廃棄物管理のコンサルティング事業、環境関連製品販売事業、そしてテクノロジー事業の3事業を展開している。
音楽家の小林武史氏、アーティストの櫻井和寿氏らが手がける野外音楽フェス「ap bank fes」の廃棄物対策を開催当初から担当しているほか、小学校の給食から排出されるフードロスを小型バイオガス化装置でエネルギーと肥料に変えるプロジェクト、廃棄予定の余剰米からつくる資源米ゴミ袋など、ユニークな事業を数多く手がけているのが特徴だ。
今回IDEAS FOR GOOD編集部では、レコテック社が新たに開発したサーキュラーエコノミーを加速させる廃棄物可視化アプリ「GOMiCO」について、レコテックの代表取締役を務める野崎衛さん、LCA(ライフサイクルアセスメント)のエキスパートでもある荒井亮介さんのお二人にお話を伺ってきた。
まずは廃棄物を見える化することから
長年廃棄物の仕事に携わってきた野崎さんは、現在の経済活動は製品の製造から販売まで一方通行で供給することばかりに注力しており、その結果として廃棄物の処理方法は不透明な場合が多く、廃棄物回収の問題は極めて深刻だと話す。
「現状は商品を使用した後の廃棄物は埋めるか、燃やすか、不法投棄されるか、といった経路で流出しています。この状況を変えるためには、生産者責任によって廃棄物を回収するには限界があるため、廃棄する際のゴミを見える化することが必要なのです。」
廃棄物の問題の解決には、まずゴミを可視化することが重要だと考えた野崎さんは、廃棄物処理のコンサルティング業務を手がけるなか、新たなプロジェクトとして廃棄物のデータを収集・可視化するアプリケーション 「GOMiCO」 を開発した。
「GOMiCOの機能を説明すると、例えばある飲食店がゴミを廃棄する際にゴミの量や種類などの情報をアプリ内に記録します。このアプリを使うことによって店舗からでる日々の廃棄状況が見える化され、利用者は無駄に排出しているものが把握でき、ゴミの削減に役立つ仕組みになっています。」
GOMiCOを利用することで、事業者は自身がいつどのよな廃棄物をどれだけ排出しているかを把握することができる。現状を可視化することで自社の無駄を特定することができ、コストの削減に繋げることができる。また、廃棄物を見える化することは、廃棄物を出す事業者にとってメリットがあるだけではない。様々な場所から出てくる廃棄物の情報が地域や社会全体で共有されることで、資源の循環に貢献することができる。それがレコテックの目指す社会だ。
サーキュラーエコノミーを実現するためのマッピングアプリ
GOMiCOと連動してクラウド上で使われるのがMaterial Pool System(以下 MPS)だ。MPSは記録された廃棄物情報を集約したプラットフォームで、GOMiCOに入力されたゴミの種類、量、発生時間などの情報を集約し、地図上にマッピングした形で表示される。
「本当の意味で廃棄物を削減するためには、効率よく生産するだけでなく、不要になったゴミを見える化し、それを資源として再利用する必要があります。廃棄物の発生量や場所がデータ化されることによって回収のタイミングを効率よく計画することができ、廃棄されるはずのゴミを再利用する機会が生まれます。この循環が廃棄物問題解決の鍵となります。」
種類別に廃棄物の量が分かると過剰生産分が可視化され、必要な時に必要な量だけ生産し、過不足なくモノを供給することができる。過剰供給を減らすことにより無駄な廃棄物が生み出されることも避けられるので廃棄物削減にも貢献できる。このように、GOMiCOを利用することで、廃棄物が資源として循環し、サーキュラーエコノミーを実現することが可能になるのだ。
プラスチックは悪者か?大事なのは全体最適の視点
近年、過剰生産、過剰利用が問題視されている製品が多数ある。プラスチックもその一つだ。環境に悪いのであれば、その素材の使用を廃止すればいいという極論になりがちだが、今やプラスチックは生活に欠かせない役割を担っている。荒井さんは、廃棄することも見据えた上で、製品の回収や処理方法も同時に考えることが重要だと話す。
「プラスチックにも優れた機能があり、単純に使うのをやめればいいというのも難しいのです。例えば、プラスチックは他の素材で製造された容器に比べて軽いため、運搬時の環境負荷が少ない上、優れた食品保管機能もあります。プラスチックではなく紙袋で保存するとなると、食品の腐敗の進行が速まり、フードロスが増えるというトレードオフが発生する可能性もあります。辞めるという判断だけではなく、使用後に適確に処理する方法や、資源として再利用できるような仕組みを作ることも重要であり、私たちはそれを全体最適と呼んでいます。」
もちろん、全体最適は簡単に実現できるものではない。世間ではプラスチック袋の廃止も相次いでいるが、荒井さんによれば、普段生ゴミを入れて廃棄するプラスチックのごみ袋も、自治体によっては焼却炉で燃えにくい生ゴミの助燃剤として機能している場合もあるのだという。敵視されがちなプラスチック袋も、焼却するフェーズでは役割が与えられているのだ。
コンポストが窒素の循環を乱す?
また、それでは生ゴミをごみ袋に入れて捨てるのはやめて、生ゴミは全てコンポストすればよいかというと、またそれも本質的な解決にはつながらないと野崎さんは指摘する。
「もし食料や飼料の大部分を海外から輸入している日本が、廃棄予定の食料や有機物全てを焼却せずに日本の土に還したら、肥料から食料に蓄積された大量の窒素が地中に排出されるため、国内の土地は窒素過多になってしまい、逆に環境に悪影響を及ぼすのではないでしょうか。世界の人口を増加させ維持するために作り出されてきた化成肥料の循環ともともとある自然の循環を合わせることはおそらくできません。何らかの技術を利用して全体を俯瞰し全体最適を構築する必要があると思います。」
環境に配慮した取り組みとして推奨されることが多い生ごみのコンポストですらも、全体最適の観点から考えると必ずしも常に最適な手段であるとは限らず、そもそもの日本の食料自給の状況から構造的に考える必要がある。このように、廃棄物問題を考えるときは常に全体最適を念頭に置きながらホリスティックなアプローチをとる必要があるのだ。
廃棄物にはジレンマがある。だからこそ、みんなの協力が必要
こうした部分最適によるアプローチの壁を乗り越え、全体最適を実現するための可視化ツールがGOMiCOなのだが、野崎さんによると、GOMiCOを普及させていくうえでは、利用者がGOMiCOに廃棄物を登録する経済的メリットがないことが課題と話す。
「志高い企業は理念に賛同し、協力をしてくれますが、そのような企業は多くありません。今はリサイクルするほどコストがかかる状況で、根本から変えようと思ってくれる人は少ないのです。ただ、多くの方が利用し、多くの蓄積データが集まってくれば、必ずコストメリットが生まれると確信しています。」
野崎さんは、将来的には資源の出所をすべて見える化し、データを使って物流を最適化し、リサイクルを含めたコストが削減できる世界を構築していきたいと語る。一社だけではメリットが生まれないかもしれないが、全員が参画すれば、全員でメリットを享受できる。それがGOMiCOの本質であり、そこから価値を生み出せるかどうかは、どれだけ全員が同じビジョンを共有できるかにかかっている。
結局、見えないところでしっかりやる企業が生き残る
現状、適正に廃棄物を処理することの重要性を感じている企業や団体は決して多くはない。しかし、長年にわたり廃棄物処理の業界で多くの企業と仕事をしてきた野崎さんは、今でも生き残っている企業は、共通して昔からコストをかけて廃棄物をしっかりと処理している企業だと語る。
「廃棄物は、消費者からは見えないところですし、コストもかかってしまうので、しっかりと処理をしても得があるようには感じられません。ただ、消費者や社会からは見えないところでも、やるべきことをやってきた企業は、継続して業績を伸ばしていますし、そうではなく適当にやってきた企業はやはりうまくいかなくなっています。」
野崎さんによると、中国がプラスチックごみの輸入を禁止する以前から、中国の環境問題やプラスチック処理施設の現状を憂慮し、高い買取価格に惑わされることなく国内でしっかりと処理できる体制を整えてきた企業は、中国による輸入禁止後も慌てることなく安定して事業を継続できているそうだ。
外部性を考慮することなく、自社や自国のことだけを考えていると、いずれそのつけは回ってくる。長年廃棄物の業界で働いてきた野崎さんからの指摘には、非常に説得力がある。
野崎さんは、廃棄物問題には答えがなくジレンマを抱えている状況だからこそ、みんなで協力していく姿勢が大切なのだと主張する。
「まずは全体最適を意識し、人類が歩んできた歴史を理解して、協調しながら進めていくしかないですね。誰かを悪者にしては解決しないので、協調しながら良い方向に持っていきたいと考えています。」
取材後記
廃棄物のデータを記録するアプリケーション、GOMiCO。さらにMPSを使って個人単位の情報を収集し、マッピングすれば全体の最適化を図ることができる。これを活用することにより、従来はゴミとして廃棄されていたものが、効率的、そして計画的に資源として再利用される画期的なシステムだ。
廃棄物に関する知識に精通した二人だからこそ見えているビジョンがあり、とても希望に満ち溢れた活動だと感じた。GOMiCOのプロジェクトはまだ始まったばかりのため、現在も協力者を募集中とのことだ。サーキュラーエコノミーの実現に向けて自社の歩みを進めたいというかたは、ぜひレコテック社と協働していただきたい。
【参照サイト】レコテック株式会社