「あいつ元気かな」と思ったら花束を贈る。男性のメンタルヘルス向上キャンペーン

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2020年から続く新型コロナウイルス感染症へのさまざまな感染予防措置は、私たちに人間が社会的動物(=社会を構築し、その中で生活する動物のこと)であることを再認識させた。私たちが精神的な健康を保ちながら生きていくためには、どんな形であれ「人と心を通わせること」が欠かせない。

パンデミック発生から丸1年、そんな人間の性質に焦点を当てるユニークな取り組みが現在オーストラリアで注目を浴びている。仕掛けたのはシドニーとメルボルンに実店舗を構える花屋・Fig & Bloomだ。人々のメンタルヘルス向上を目的に活動する慈善団体Gotcha4lifeと提携し、新たな角度からメンタルヘルスの問題に着手する。

オーストラリアの統計局の2017年の調査によると、同国の自殺件数の約75%は男性が占めている。男性が自殺件数で女性を上回るのは世界的な傾向だが、同国の男性割合は各国と比べても極めて高い水準にある。

この状況を受けて、Fig & Bloomは男性の為の花束ラインナップを打ち出した。brother(ブラザー)とbouquet(ブーケ)を掛け合わせて名付けられた、この「Broquet」コレクションは「男性が男性の友人に花束を送ること」を促進する狙いがある。ウルル(エアーズロック)など、オーストラリアの雄大な自然をモチーフにした花束は全3種類で、どれも落ち着いた色彩の上品なデザインだ。

グリーティングカードもつけることができ、“High five bro”や“Miss you bro”など気軽だが暖かみのある5種類のメッセージから選んで花束を贈るシステムだ。

花束といえば、お祝いや感謝、好意などの気持ちを伝えるアイテムとして購入されることが多いが、祝福以外のシーンではほとんどの場合、パートナーシップや家族の存在が想起され、男性が友人同士のコミュニケーションツールに花束を用いることは一般的ではないだろう。斬新なBroquetのコンセプトは、ローンチされるとすぐに反響を呼び、多くの人がメンタルヘルスや社会との繋がりについて改めて議論する機会をもたらした。

自殺者の男性割合が多いことに関して、人々の心の健康問題に取り組む別の団体SANE Australiaのジャック・ヒース氏は、次のように分析している。「自らの命を断ってしまった彼らの年齢、居住地、仕事、経済状況、文化背景などは多岐に渡ります。しかし、一つだけ共通しているのは、事後悲しみに暮れる周囲の人々が、彼らの自殺をまったく予期していなかった、と述べる点です。つまり、彼らは辛い状況で周囲の人々の助けを求めることをせず、自ら死を選んでしまう確率が高いのです。(※1)」同団体のメンタルヘルス支援を求める人達の性別は、女性が男性の3倍いるという。

人間なら誰しも弱気になってしまい、人に慰さめてもらうことで立ち直れる時があるだろう。しかし、性役割のような見えない社会規範により、人に助けを求めることを必要以上に躊躇する男性は少なくない。女性同士のつながりや助け合いを表す“Sisterhood”という概念があるように、男性同士でも、もちろん助け合うことができる。Broquetキャンペーンは、ジェンダーの議論が活発になった昨今でもあまり取り上げられない側面に光を当てた上、花束を生かして人々が気軽に取り組めるアプローチを示した。

元気にやってるいるかどうか気にかけてくれる人の存在は、明日も前向きに生きる活力になる。誰一人取り残さない社会を実現するために、こうしたサービスの価値は今後ますます高まっていくだろう。

※1 The men’s mental health crisis Australia can no longer ignore — six male suicides a day
【公式サイト】Broquet
【参照サイト】The men’s mental health crisis Australia
Edited by Kimika

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