近頃よく耳にする言葉、ダイバーシティ。「多様性(異なる性質を持ったものの集まり)」を意味する。自然界では「種の多様性」や「遺伝的多様性」の保護、人間界では「文化多様性」「地域多様性」「信仰の多様性」「価値観の多様性」といったものの重要性が叫ばれている。
企業に対しては、多様な人材を確保しイノベーションや価値創造をする必要性があると経産省が訴えている。異なる考え方を持った人々をあえて混ぜて、ぶつけ合う中で創造性が高まり、より良い意思決定がなされるという。
では、「多様な人材」とは、どのような人を指すのだろうか。新卒で入社した男性ばかりが年功序列で出世街道を行くのではなく、中途入社し経歴に特色のある若者や、出産で一度は職場を離れた女性も働きやすい場が必要である。部署によっては、文化的背景や国際色が豊かなことで、大きな成果が得られる場合もあるだろう。しかし、意外な盲点があることが明らかになった。これまで私たちの多くが「感情の多様性」について、意識していないか、あるいはまったく無知だったのだ。
「感情の多様性」に焦点が当てられた研究がこれまで皆無だったことに、いち早く気がついた米国・豪州の研究チーム(ライス大学、西オーストラリア大学、ボンド大学、クイーンズランド大学)が2021年8月に発表した研究結果によると、一緒に働くチームには、ポジティブな人だけではなく、ネガティブな人もいたほうが創造性が高くなるという。
「ポジティブな感情」の人は、幅広い情報を調べる柔軟な思考の持ち主。一方「ネガティブな感情」の人は、狭い範囲の情報を批判的に徹底評価して問題を特定する。研究では、これらの異なるスタイルを組み合わせることで、どちらか一方だけが集まった場合よりも良い成果が出ることが示唆された。この方法論は「デュアルチューニング理論」と呼ばれる。
チーム全員が前向きに考えるだけで、いつも正解が導き出されるわけではないのだ。人は生まれながらの性分や過ごした環境、周りの人々によっても性格が形成される。その結果、たまたまネガティブ、あるいはポジティブだからという理由で人が排除されるべきではない。周りがポジティブでも、自分も一緒に前向きに考えなくてはいけないわけではない。このような考え方を打ち立て、やさしさにつながる研究成果である。
誰もが心地よくいられる包括的なチームビルディングをするために、年齢や性別、国籍、人種などといった属性だけではなく、「感情」といった一目で捉えにくいものについても、しっかり見抜く慧眼を磨くことの重要性を、今回の研究は問いかけている。
そう考えると「感情の多様性」に光を当て「多様性」を再定義するこの研究の貢献度は、目に見える以上に大きなものだろう。
【参照サイト】Feeling differently, creating together: Affect heterogeneity and creativity in project teams
【参照サイト】Rice U. study: Use your team’s emotions to boost creativity
【参照サイト】競争戦略としてのダイバーシティ経営(ダイバーシティ2.0)の在り方に関する検討会(第1回)‐議事要旨
Edited by Kimika