木が「呟く」時代に。気候変動を見守るTwitterアカウント

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TwitterやInstagramに代表されるソーシャルメディアは、今や私たちの生活の一部になっている。SNSを通じて世界中の誰しもが簡単に情報の発信者になれるが、ある森にたたずむ「木」でさえもSNSで発信する時代になったと聞いたら驚くだろうか。

「Witness Tree(ウィットネス・ツリー)」は、アメリカ・マサチューセッツ州の森にある樹木が投稿するTwitterアカウントだ。プロフィールでは自身を下記のように紹介している。

「100年以上ものあいだ、変化し続ける環境を1本の木として目撃し続ける者。ここでの見解は私自身のものである。(ハーバード・フォレストの科学者と管理者による翻訳を多少含む)」

紹介文にある通り、多少は人間の翻訳の手助けがあるものの、そのツイートは私たちがTwitterで日常の出来事をつぶやくように、樹木がその身で感じる日々の変化を発信している。

例えば、2019年12月には「今日は初めて霜が降りました。もうすぐ冬がやってきますね。」と季節を感じるツイートをしている。

翌年の2月には「この2日間は2月にしては非常に暑かったです。いつこの熱波は過ぎ去るのだろう?」と愚痴をこぼしている。

他にも、「この雨で私の樹皮は膨らみ、昨日より0.01ミリ太くなりました!太陽が上ると、樹皮は少しずつ乾き、縮み始めます。」とグラフと共に真面目なテイストで近況報告をすることもある。

もちろん、これらのツイートはWitness Tree自身が考え、枝先を駆使してスマホに入力しているわけではない。Witness Treeを観測しているハーバード大学にある生態学的研究エリアであるハーバードフォレストの科学者チームが樹木に関するデータを収集し、そのデータを独自のアルゴリズムで言語へ変換して、Witness Treeの声としてツイートしているのだ。

データはどのように収集しているのだろうか。まず、幹に取り付けたセンサーで内部の水の流れや樹皮の伸縮を測り、ライブカメラで葉の成長や色の変化を観測している。また、センサーを使って樹木全体の動きも監視しており、これらのデータはホームページ上でリアルタイムに配信もされている。

Witness Treeのユニークさは、Twitterでのつぶやきだけではなく、姉妹プロジェクト「TreeWatch.net」にも参加しているというところにある。同プロジェクトは、アメリカ、ベルギー、ドイツ、インド、オランダ、イギリスの5カ国で100歳以上である21本の樹木の詳細データが集められ、このネットワークを世界中の都市部や住宅地、僻地など、さまざまな環境下で生きる木々に広げることによって、気候変動を予測している。

例えば、既に収集されたデータからは、干ばつが起こると葉の裏側にある気孔が閉じることがわかっている。この現象を元に、世界中で蓄積されたデータとリアルタイムで観測される木々のデータを照らし合わせれば、干ばつの兆候をいち早く知ることができるようになるかもしれない。

Witness Treeは、科学と大衆の架け橋という点でも興味深い。Twitterで木を擬人化することで、科学的な観測データをより親しみのある形で届けられ、自然への共感が促される。他にも、ツイートに使用されるテンプレートはランダムに選ばれ、大衆がどのようなトピックや書き方を好んでいるのかという傾向をデータ化している。このデータを元に科学への認知度を上げるアルゴリズムが汎用化できれば、より科学を日々の暮らしに落とし込むことができるだろう。

現在はコロナの影響で投稿が中断されているが、コメント欄には友人を労うような温かいコメントが溢れており、Witness Treeの帰還を多くの人が待ち望んでいる。

科学的なデータを採取するという1つのベクトルだけではなく、SNSというコミュニケーションの場でその可能性を広げていくWitness Tree。再び語り出す日が待ち遠しい。

【参照サイト】 Witness Tree Social Media Project

Edited by Erika Tomiyama

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