通勤者の46%が公共交通機関で移動する、米国ワシントン州の最大都市シアトル。そんなシアトルでは昨年、交通サービスを改善すると目的のもと、新たに0.15%の売上税を課すことを含む議案が可決された。これにより、年間約3,900万ドル(約45億円)の税収が見込まれるという。現状の交通サービスをより利用しやすくするために、どのような取り組みが行われるのだろうか。(※1)
シアトルが取り組んでいることのひとつが、バスなどの公共交通機関を12か月間無料で使えるカードを発行する「ORCA Opportunity」というプログラムだ。このプログラムは2018年に始まり、2021年11月には、公立中学生を対象に新しく8,000枚のカードを発行すると発表された。カードを利用したい中学生は、専用サイトから申し込むという仕組みだ。
ORCA Opportunityの目的は、低炭素な交通手段への転換を促進すること、住民の経済状況にかかわらず移動手段を確保できるようにすること、移動を通じて地域の文化資源に触れる機会を増やすことなど様々だ。多くの学生が公共交通機関を利用することで、学校周辺の渋滞が緩和されることも期待できる。また、移動のハードルが下がることで、若者が地域の魅力を知る機会が増えそうだ。
若者を対象とした交通アクセスの改善は、ORCA Opportunityが始まって以来、一貫して取り組まれている。2018年から2019年にかけては、市内の公立高校生全員(15,000人)と低所得世帯の公立中学生500人を対象にカードを発行。今回の発表では、公立高校生全員に加えて、世帯所得に関わらず8,000人の公立中学生が対象となっており、プログラムが拡充されていることがわかる。また、シアトル市は来年には、18歳以下のすべての子どもが公共交通を無料で利用できる機会を提供することを、検討するとしている。
シアトルは、アメリカのなかでも人口が大きく増加している地域のひとつだ。2010年から2019年にかけて、同市の人口は60万8,000人から74万7,300人へと、23%も増加している。また、シアトルは、アメリカで最も公共交通機関が発達している都市のひとつでもあるという。(※2)若者を含め、より多くの住民が充実した公共交通ネットワークを利用するようになれば、渋滞の緩和や大気汚染の改善など、様々な効果が期待できるのではないだろうか。
※1 History of Proposition 1 – Transportation | seattle.gov
※2 SEATTLE TRANSPORTATION BENEFIT DISTRICT YEAR 5 PERFORMANCE REPORT JUNE 2019 – JUNE 2020
Edited by Erika Tomiyama