髪の毛で衣服を作るデザイナー、ゾフィアの哲学

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ヒトの歴史をさかのぼると、これまでさまざまな動物の「毛」が私たちの生活に使われてきたことがわかる。羽毛の布団、羊毛のセーター、馬毛のブラシ。しかし、人間の髪の毛はどうだろう。使い方として真っ先に浮かぶのは、ヘアドネーション(医療用のウィッグを作るための寄付)だろうか。

今回は、毎日大量に切られている髪の毛の新たな活用法を見出した、一人のデザイナーを取り上げる。オランダ出身のゾフィア・コラーだ。デザイナーであり研究者でもある彼女は、髪の毛の成分に関する研究を重ね、ついに、衣服として再利用する方法を編み出した。

髪の毛から折り目加工や模様のある生地を作り、セーターにして着るというアイデアだ。

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ゾフィアの研究の背景にあったのは、ファッション産業の環境汚染である。彼女の立ち上げた団体Human Material Loopによると、衣服を作るために大量の木が伐採され、水が使われている一方で、毎年7,200万キロの髪の毛が特に何にも活用されることなく捨てられ、埋立地に送られるという。埋立地にそのままごみを放置しておけば、有毒ガスが出るようになる、とウェブサイトでは主張されている。

そこでたどり着いたのが、排泄物(=今回は毛)を循環させることだ。オランダ国内の理髪店や美容室などから切られた髪の毛を集め、まずはセーターを作り上げた。他国から「素材」を仕入れる必要がなく、運ぶのもオランダらしくすべて自転車のため、CO2排出の心配もいらない。

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ウェブサイトのQ&Aが興味深かったので、一部をここに載せていく。

Q. 髪の毛のセーター、耐久性はどうなのですか?

――髪の毛の強度と重量の比率は鋼に匹敵します。髪は元の長さの1.5倍まで伸ばすことができ、ちぎれることなくさまざまな変形にも対応できる素材です。

Q. 髪の利用によるプライバシー侵害を心配する必要はありますか?

──ありません。人間の髪の毛の根元にある毛包には、DNAが豊富な細胞物質が含まれているのですが、美容室などで途中から切られた髪には含まれていないからです。

Q. 他の動物の毛に比べて、髪の毛はどこが優れているのですか?

──髪の毛はどこからでも取れて軽いため、自転車で収集できます。他にも、徹底的な洗浄プロセスを必要とせず、化学薬品なしで処理できることや、カラーリングも美容業界がこれまで開発してきた技術で対応できることが挙げられるでしょう。地元で取れた「素材」をそのまま加工することができるので、公正な賃金や労働条件などを適用しながら作り続けることができます。

Human Material Loop FAQ より)

髪の毛を使った衣服、と聞くと倫理的にどうなのだろう、と考えるかもしれないし、抵抗感を覚えることもあるかもしれない。しかしゾフィアの考えや、実際にできたセーターを見ると、髪の毛を素材として捉え、循環させることの意義や、新しさも同時に感じる。

セーターに付いているタグには「ごみは、ただ“間違った場所”にあるだけの原材料だ」とのメッセージ。それを体現したプロジェクトの、今後に期待したい。

【参照サイト】Human Material Loop

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