制限=幸福?インドの「毎日19時きっかりにデジタル機器を切る」村

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インド・マハラシュトラ州のサングリ地区にある小さな村では、毎日19時にサイレンが鳴る。これは、テレビや携帯電話、その他の電子機器をすべて脇に置くための合図だ。

3,000人の住民たちは、雑談をしながら食事をしたり、家庭のルールや政治などについて真剣に語り合ったり、一人で読書や勉強をしたりする。そして20時半になると、再びサイレンが鳴る。90分間の「デジタルデトックス・タイム」終了の合図である。

インドの人々

なぜ、このようなことが行われているのか。その背景には、現代を生きる私たちにとっても他人事ではない「スマホ依存」や「スクリーン中毒」がある。新型コロナのパンデミックを経て、人々のテレビやスマホのスクリーンを見る時間が増えたことや、それが私たちのメンタルに作用していることは、複数の大学の調査で発表されている(※1)

インドの村でも、例外ではない。学校でオンライン授業が始まってから、家に帰ってきてからもスマホに夢中になり、集中力が落ちている子どもたちの姿を見て、村内の学校で教鞭を取っていた経験もあるモヒテ氏(村の首長)は、「インドの独立記念日の前夜である8月14日の村の会合で、この依存症を止める必要があると決めた」とBBCに語っている。

Asian woman playing game on smartphone in the bed at night,Thailand people,Addict social media

しかし問題は、「では毎日19時にデジタル機器の使用をやめましょう」と言えばそれが実現するのか、という点だ。家庭であっても、子どもの長時間のスマホ使用には頭を悩ませ、制限をかけるのが難しいものだ。実際に、村の人々を納得させるのは至難の技だったと複数の機関が報道している。

そこで、村には「スマホ依存への意識を相互に高める」ためのネットワークが形成された。議会の職員や、退職した学校教師、アンガンワディ(インド地方部の児童教育センター)の従業員、認定社会保健活動家、地域の医療従事者で構成された組合だ。

彼らはスマホの長時間使用がもたらす悪影響を学び、子どもを持つ親に対しての説明会を開いた。そして、地区ごとにチームを作り、互いに担当地区の「デジタルデトックス」の状況を報告することで、村の人々がルールを守っていることを確認。仮に破られた場合は、家庭を訪問し、スクリーンを長時間見ることの学力や脳への影響を再び説明するという。

制限が功を奏し、今ではすべての家庭が90分間のデジタルデトックスを毎日実践するというこの村。「以前はスマホばかり見ていて集中できなかったが、今では普通に会話ができるようになった」という声も出ており、近隣の村でも似たようなルールが適用されようとしている。

インドの村の住民

あなたはこのインドの村のルールを、どう感じただろうか。筆者の場合は、「自由や選択肢がない状態なのはさすがに抵抗があって、こんな場所からは抜け出したいと思うだろうな」という気持ちと、「でもこのくらいの制限がない限り、自分は永遠に大した用事もないスマホを見続けてしまうだろうな」という気持ちがせめぎ合っている。

大人になると、何かを強制されることはかなり減る。日本の自治体単位で、そこに住む人全員にスマホの使用時間の制限がかかることもないだろう。村の首長の判断で、自由さに制限がかかること、そして実際に村の何人かは幸せになっているこのインドの事例を踏まえて、自分にとっての幸福とは何かに思いを馳せてみてもいいかもしれない。

※1 Impact of screen time during COVID-19 on eating habits, physical activity, sleep, and depression symptoms: A cross-sectional study in Indian adolescentsSmartphone addiction risk, technology-related behaviors and attitudes, and psychological well-being during the COVID-19 pandemic
【参照サイト】BBC – Maharashtra: India village goes offline daily to help people talk

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