教室へ導くのは、光と音と香りと手触り。目の見えない生徒に寄り添うインドの学校建築

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学校で「102の教室」に行ってくださいと言われたとき、あなたはどのようにその部屋が「102の教室」であると認識するだろうか。見たら分かる、と簡単なことに感じるかもしれない。

しかし、視覚が使えなかったらどうだろう。学校のようにそれぞれの部屋がそっくりな造りをしている建物のなかでは、視覚情報なしに自分が今どこにいるのかを判別することは難しいだろう。

この課題を美しく乗り越えようとする学校が、インド北西部・グジャラート州のガンジナガルにある。ここは盲目および視覚障害のある子ども達のための学校で、視覚「以外」の感覚も情報源として取り入れ、誰もが過ごしやすい空間づくりを体現しているのだ。

その多岐にわたる特徴を、空間認知、視覚、聴覚、嗅覚、触覚に分けて探索してみよう。

視覚情報に限りがある場合、部屋の場所を含めた建物の全体像を把握することが難しい。そこで同校では、各教室が向かい合うようにして長方形を成すシンプルな構造にすることで、子ども達が脳内で空間を描きやすくしたという。

学校の構図

Image via sealab

視覚の面から助けとなるのは、光だ。例えば、特別な部屋には天井が高いデザインが採用され、光がフレア状に差し込むことで認識しやすくしている。光の強さによって部屋の違いを識別できる仕組みだ。

同校には、弱視の学生が多く通う。彼らは光と陰のコントラストを認識することができる一方、直射日光に敏感なため、空や校庭から教室に入る光はフィルターを通すなど工夫がされているという。

光と影の対比を示した白黒のイラスト

Image via sealab

もう一つ、色のコントラストも重要だ。ドアや家具などにははっきりと異なる色が並ぶように配色することで、違うモノがそこにあるのだと認識しやすくなっている。

ドアは明るい黄色になっている

Photo by Bhagat Odedara, via sealab

聴覚から子ども達をナビゲートするのは、エコーの存在。場所によって廊下の幅や高さを変えて、話し声や足音の響きに違いを生むのだ。例えば、エントランス廊下の天井は3.66メートルだが、進むにつれて徐々に低くなり2.26メートルまで下がると、認知できるほどの音の違いが生まれるという。

Photo by Anand Sonecha, via sealab

続いては、嗅覚。校庭のなかで教室に近く廊下につながる場所には、香り高い植物や木々を植えることで場所の把握を助けてくれる。

Photo by Anand Sonecha, via sealab

最後に、触覚だ。壁と床の素材には、なめらかなものやざらざらとしたものがあり、触れて確認することで場所を把握することができる。廊下の壁にも違いがあり、長辺側の廊下の壁は横向きの線、短辺側の廊下の壁は立て向きの線、校庭側の壁は半円、一番外側の壁は砂のような質感、となっているのだ。

手触り感の異なる壁に触れる子どもの手

Photo by Bhagat Odedara, via sealab

こうしたデザインは、子ども達や教師の声も取り入れながら実装された。はじめは段ボールで建物のモデルをつくり触れてもらうことで意見を募っていたが、内装の細かい部分を理解してもらうのは困難だと気付いたという。

そこで、3Dプリンターを活用して頑丈なモデルを作成し、子ども達が触れて空間を思い描くことができるようになった。建設中にも、子ども達に質感の異なる壁に触れてみてもらい、その効果を検証することで、本当に彼らの役に立つデザインを見つけていったのだ。

模型に触れて確認する子どものたちの様子

Photo by Bhagat Odedara, via sealab

さらに、Khambhati Kuva(浸透井戸)と呼ばれる伝統的な雨水の貯水技術を使用して土壌を改善しようと取り組んでいる。この井戸は1時間で4万5,000~6万リットルの水を吸収することができるという。37種の植物や木々が1,000本以上植えられ、日陰をつくり生き物の住処となっている。

多様な子ども達の学びだけでなく、自然環境の豊かさをも支える場となっているようだ。

この学校では点字も各所に活用しながらも、五感、もしくはそれ以上の感覚を呼び覚ますような工夫が丁寧に仕掛けられている。呼吸を整え、身体感覚を自由に使い、まわりの空気を感じながら過ごす学び舎は、子ども達の心にも豊かさを育むに違いない。

【参照サイト】School for blind and visually impaired children|SEALAB
【参照サイト】School for Blind and Visually Impaired Children / SEAlab | ArchDaily
【参照サイト】視覚障害者の理解のために|国立障害者リハビリテーションセンター
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