豊かな国デンマークで“ごみ漁り”にハマる若者たち。食品ロスを救う「ダンプスターダイビング」体験記

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1日に捨てられる食品廃棄物は、世界で13億トン。ピンとこない数字だが、日本人1人あたりだと、お茶碗約1杯分を毎日捨てているとされる(※1)。一方で、国際的な課題として「飢餓」が挙げられているほど、世界のどこかでは、食べるものが十分確保できずに苦しんでいる人たちもいる。

ただ、「だから食品ロスを減らすべきだ」と言われても、自分ごととして行動に移すのは難しい。そんな葛藤を抱いているときに知ったのが「ダンプスターダイビング」だった。

ダンプスターダイビングとは、日本語では“ごみ漁り”。主にレストランやスーパーマーケットなどのごみ箱に捨てられる、まだ食べられるもしくは使える商品を拾うことで、アメリカ、スウェーデン、デンマークなどで行われる若者たちに人気のカルチャーだ。

日本では、窃盗罪や条例違反などに問われる可能性があるが、一部の国では合法だという。

デンマークで体験するダンプスターダイビング

ダンプスターダイビング

「ダンプスターダイビングって、できるかな」

筆者がデンマークのフォルケホイスコーレに留学して数週間が経ったころ、友達をダンプスターダイビングに誘った。「え?やりたいの?」おかしな日本人がいるぞと言わんばかりに眉をひそめて、「Jakobが詳しいよ」と一人の生徒を教えてくれた。

Jakobはデンマークとの国境に近い北ドイツ出身の24歳。話を聞いてみると、彼はコペンハーゲンにある大学にいたころ、ダンプスターダイビングで何度も食料をゲットしたことがあるそう。デンマークでは、物的損害または不法侵入に当てはまらなければ、違法にはならないという(※2)

「ダンプスターダイビングをやってみたい」という唐突なお願いを、快諾してくれたJakob。こうして筆者は初めてのダンプスターダイビングに挑戦することになった。

ダンプスターダイビングの3つのルール

ダンプスターダイビングは、拍子抜けしてしまうほど簡単だ。「どこ」と「いつ」を決めるだけ。私たちは土曜日の朝9時、何人かの友達を誘って学校近くのスーパーに行くことにした。

ダンプスターダイビングを始める前に、Jakobが3つのルールを教えてくれた。

まずごみ箱を漁る時は、必ず手袋をすること。腐っている食べ物や、不衛生なごみや、割れたガラスなどがあるかもしれないからだ。

次に、ビニール袋を持っていくこと。ごみ箱の中は、とにかく汚い。そこに捨てられた食べ物は濡れていたり、ねばねばした液体がついていたりするため、布バックはおすすめできない。

最後に、帰ってきたらできる限り「成果物」をお湯で洗って、汚れをとること。あくまでもごみ箱から持ってくるためだ。

ダンプスターダイビング

初めてのダンプスターダイビングは、10分で終わった

スーパーの裏口に着いた私たちは、慣れた手つきでごみ箱を漁るJakobに続いた。7つほど並ぶごみ箱を次々と開けていくと、腐った食べ物が放つ嫌な匂いが、鼻を刺激した。

ダンプスターダイビング

それでも諦めずにごみ箱を漁っていると、少し痛み始めたバナナと、なんのダメージもない状態のパンを見つけた。それに赤や黄色のバラ。ピーマンとタマネギにいたっては、なぜ捨てられたのかわからないほど、良い状態だった。

他にもデンマークのオープンサンド(ライ麦パンの上にさまざまな具材をのせた食べ物)文化に欠かせないカレーソースや肉も見つけたが、持って帰っても食べないものは拾わないことにした。

初めてのダンプスターダイビングは、「もしスーパーの店員さんが出てきたらどうしよう」という不安のなか、あっという間に終わった。実際に店員が通用口から出てきて目が合ったが、何も言われず私たちは胸を撫で下ろした。違法ではないといえ、悪いことをしている気分だった。同時に、何もしなければごみになっていたであろうものたちを拾えた、という達成感にも満ちあふれていた。

「捨てたら無駄になるだけなのに」デンマークの若者たちの声

ダンプスターダイビングのおもしろさに魅了された筆者は、デンマークの若者たちが食料廃棄についてどう考えているのか、学校で出会った友人たちに聞いてみることにした。

Jakobの初めてのダンプスターダイビングは、パン屋さんのごみ箱だった。まだ食べられる状態のいいケーキをたくさん見つけたという。

「お金を払わず食べ物を得られるのが一番のバリュー。それに無駄に消費されるエネルギーを救うこともできる」

以前、デンマークの大手スーパーマーケットで働いていたMariaは、廃棄する寿司をもらってもいいかとマネージャーに尋ねたことがある。答えはもちろん、だめ。廃棄される寿司をこっそり持ち帰った次の日、店で廃棄する寿司がなくなったと騒ぎになったことがある。それ以降は、廃棄する寿司は翌日まで冷蔵庫で管理して捨てる運営となったという。

「遅かれ早かれごみになる。マネージャーが言っていることが理解できないわけじゃないけど、それじゃあ私たちは資源をただ無駄にしているだけ」

コペンハーゲンで暮らすKhalilは、ダンプスターダイビングの経験が豊富だ。ある時、豚一頭分ほどの肉が廃棄されているのを見たそう。

「ごみにするために動物を育てて、殺す。この社会はどう考えても馬鹿げているよ」

何度も何度もごみ箱を漁って、考えること

ダンプスターダイビング

ダンプスターダイビング未経験のMariaを筆頭に、ダンプスターダイビングへの意欲が高まった私たちは、またごみ漁りに繰り出すことになった。初めてのときにスーパーの店員と鉢合わせた反省を生かして、今回は閉店後の午後9時に行くことにした。

ダンプスターダイビングに行く前は、気分が不思議と高揚する。

「今日は何が見つかるかな」

「店員さんに怒られないだろうか」

そんな思いを抱きながら向かったが、残念ながら豊作にはほど遠い結果だった。この日見つけたじゃがいもと袋いっぱいのパンは、食べられないので持ち帰らないことにした。レモンとオレンジの植木、花束、少しの食料を持ち帰った。

ちなみに、初回に拾ったパンとバナナは、フレンチトーストして学校で友人たちに振る舞った。これまでにごみ箱から持ち帰った他の食品もすべて食べたが、今のところ体を壊したことはない。

食品ロスからできたご飯

バラの花は、テキスタイルの授業で草木染に使い、無駄なく消費した。レモンとオレンジの植木は、学校の温室で元気に育っている。

ダンプスターダイビングの回数を重ねるごとに罪悪感が薄れ、大胆になっていく。そして、今日こそは前回を超える大物が見つかるのではと期待に胸が膨らんでいった。

豊かな国デンマークでなぜ、ごみを漁るのか?

ダンプスターダイビング

収穫が多いとうれしい気持ちになる反面、社会のシステムに疑問も抱くようになった。食品ロスの問題が叫ばれて久しいが、私たちの社会は、廃棄物が出ることを前提に成り立っており、毎日のように食品が捨てられ続けている。

さらに、ダンプスターダイビングを始めてから、店に行っても「捨てられていないかな」と購買意欲がなくなったのも確かだ。Mariaが寿司を持ち帰れなかったのも、「それを許したら利益にならない」という理由からだった。

スーパーマーケットや食料品を扱う側は、ダンプスターダイビングを手放しで許しているわけではない。デンマークの首都コペンハーゲンや、第二の都市オーフスなど都会にある店舗では、ごみを漁られないように鍵をかけている店も多い。

世界幸福度ランキングの上位に毎年ランクインするデンマークで、なぜごみ漁りが行われるのかと思った人がいるかもしれない。高い税制とともに充実した社会保障が充実しているデンマークの若者は、なぜごみ漁りに繰り出す必要があるのだろうか。

デンマークでは18歳になると、国から学生給付金が支給される。家族と同居しているかなど条件によって金額は異なるが、例えば大学に進学して一人暮らしを始めれば、毎月国から5,000DKK程度(約11万円)が貰える。金額だけ見れば十分に思えるが、物価の高いデンマークでは、国からの支援だけではぎりぎりの生活になる。そのため、日本の一般的な大学生の懐事情と比較して大して差はない。

Jakobは、家族と暮らしているときはダンプスターダイビングはしない。それは家に帰れば食べるものがあるため、わざわざごみ箱を漁る理由がないからだ。一方で学生時代は、ごみ箱で見つけた食べ物に助けられたという。

筆者もおもしろがって何度もごみ箱に足を運んだが、次第にその熱は冷めていった。学校で生活をしていれば、三食が提供されるため食事に困ることはない。雑貨や洋服などの欲しいものはなかなか見つからないし、必要がないものを拾ってきても、結局捨ててしまうことになる。

つまり、若者をダンプスターダイビングへ駆り立てているのは、地球環境のためだけではなく、無料で見つけられるというメリットが大きい。ただ、彼らはダンプスターダイビングを通して、社会の仕組みの不合理さや、食品ロスに対する疑問を抱くようにもなる。

食品ロスをどう循環させるか。ごみ漁り以外の方法はないのか

スーパーから出た食品ロス

デンマークでは、ダンプスターダイビングとは違ったアプローチで、食品ロスを循環させ、問題の解決を目指す活動も活発に行われている。例えばコペンハーゲンのNGO団体「Foodsharing Copenhagen」は企業から余剰食品を集め、食品を必要とする人に無料で提供する。食品ロスに対する意識を高め、食品の再分配を組織することを目的としている。

「We Food」は、キリスト教系のNGO団体「Folkekirkens Nødhjæl」が運営するスーパーマーケットだ。もちろん普通のスーパーマーケットではなく、並ぶのは破損したパッケージ、ラベル間違い、有効期限切れ、季節限定商品など、通常のスーパーでは販売しない品のみだ。現在デンマーク国内に6店舗を展開し、商品は企業からの寄付で賄い、売上は寄付される。

ダンプスターダイビングが正当化されてしまえば、お金が動かなくなり、経済が停滞する。食品ロス問題を、直ちに救うものでもない。しかし、友人たちのように、現実を目の当たりにすることで社会システムに疑問を抱くきっかけとなれば、若者が有権者としてどんな社会を作りたいのかを深く考える糸口になる。

さらには、国内にある食品ロス削減サービスの活用や廃棄に配慮した企業や商品を選ぶなど、消費者の意識に合わせて、社会のシステム自体が少しずつ変わっていく足がかりにもなる。

エジプトで開催されているCOP27では、人口増加に伴う食糧危機を回避するために、1人あたりの食料廃棄量を半減する目標が議長国から打ち出された。今後10年間で、私たちの暮らしが変わる大きな転換点が訪れることだろう。

編集後記

デンマークでダンプスターダイビングをした経験を話すと、大人たちはまず驚いた顔をするが、若者たちは「どうだった?」「やってみたい」と目を輝かせる。

日本でダンプスターダイビングはできないが、積極的に値下げコーナーを活用したり、消費期限が近づいた品を選ぶ「てまえどり」を取り入れたり、今日から始められることはある。

念願だったダンプスターダイビングを経験して、私たちが直面している食品ロスの問題を自分ごととして捉えられるようになった。食品ロスに限らず、社会問題を自分ごとにするには、インターネット上に転がっている論文や事例を読み漁るより、まず体を動かしてみることが近道なのかもしれない。

※1 食品廃棄物とは?数字と事実・原因・解決策
※2 Night patrol: Dumpster diving for food in Copenhagen

【参照サイト】World Happines Report
【参照サイト】WeFood
【参照サイト】Foodsharing Copenhagen
Edited by Kimika

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